※本コラムは2025年1月9日に実施したIRインタビューをもとにしております。
株式会社インバウンドプラットフォームはビジョンに「また来たい、日本」を掲げ、外国人向けサービスを複数展開しています。
代表取締役社長の王 伸氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
株式会社インバウンドプラットフォームを一言で言うと
外国人の日本における課題・不便を解決し、インバウンド市場の未来を支えるプラットフォーマーです。
インバウンドプラットフォームの沿革
創業の経緯
当社の創業は2015年10月ですが、現在のビジネスモデルが本格的に始動したのは、2018年8月に「株式会社インバウンドプラットフォーム」として複数の会社を統合・合併し、再編を行った時点からです。
もともと私はIPOを支援するためにエアトリ(当時はエボラブルアジア)に入社し、現エアトリ代表取締役の柴田と二人三脚でIPO準備を進めていました。
結果として、エアトリは2016年3月に東証マザーズに上場し、2017年3月には東証一部へ市場変更を果たしました。
この経験を通じて、「自ら事業を手がけたい」という思いが次第に強くなり、M&Aや新規事業の立ち上げに積極的に関与するようになりました。
特に、インバウンド需要の高まりを背景に、外国人やインバウンド関連事業を対象とした複数のM&Aを実施しました。
そして、「複数の事業を統合して一本化することで、管理コストの効率化や企業基盤の強化が可能になる」と判断し、2018年にエアトリグループからスピンアウトする形で当社を設立しました。
コロナ禍と新規事業の立ち上げ
創業以来、キャンピングカーのレンタルサービスや訪日外国人向けのWi-Fiレンタルサービスを展開し、2020年のコロナ禍が始まるまでは非常に好調な成長を続けていました。
しかし、2020年4月に最初の緊急事態宣言が発令されると、売上の9割以上を失い、月間売上が100万〜200万円しか立たない厳しい状況に直面しました。
一方で、事業運営には毎月数千万円のコストがかかるため、危機的な経営環境に置かれました。
そのような中で、2つの重要な決断が当社の転換点となりました。
1つ目が海外旅行用Wi-Fiレンタル事業を手掛ける「株式会社グローバルモバイル」のM&Aです。
このM&Aは2020年4月に実施しましたが、訪日外国人向けWi-Fiレンタルと海外旅行用Wi-Fiレンタルを組み合わせることでシナジーを生み出せると考え、2020年初頭から準備していました。
コロナ禍で海外旅行需要が激減する中、「なぜこのタイミングで」と批判の声もありましたが、あえて実行しました。
グローバルモバイル社が持つ国内法人顧客のネットワークを活用し、リモートワーク需要を取り込むことで、事業ポートフォリオを多様化させることができ、この買収は当社にとって大きな転機となりました。
現在も「グロモバ」というブランド名で事業を継続しております。
次の転換点は、2021年6月に新規事業としてライフメディアテック事業を立ち上げたことです。
それまでの事業は訪日外国人を主なターゲットとしていましたが、「日本に住む外国人にもサービスを提供できるのではないか」という発想から、この新たな事業を開始しました。
この事業は、訪日需要が回復するまでの間の新たな収益基盤を形成するとともに、当社のターゲット層を拡大する重要な役割を果たしました。
インバウンドプラットフォームの事業概要と特徴
概要
当社は訪日外国人・在留外国人を中心に多様なサービスを展開しています。
まず、モバイルネットワーク事業ではWi-Fiレンタルサービス、eSIMを提供しており、国内・海外・訪日領域で事業を展開しています。
訪日外国人向けには「Japan Wireless」というブランドで、国内法人や日本人に対しては「グロモバ」というブランドで提供しています。
次に、ライフメディアテック事業では訪日・在留外国人の日本での生活に関するサポートをしています。
多言語で日本での生活に必要な情報(住まい・交通・医療など)を提供し、各種手続きをサポートしています。
そして、キャンピングカー事業では「エルモンテRV」の日本代理店として国内・海外でのキャンピングカーレンタルサービスを提供しています。
事業における優位性
事業の継続的成長サイクルを構築
当社の強みを一言で表すならば、それは「外国人対応のノウハウ」です。
特に、BtoCに特化した外国人対応に関しては、国内のどの企業にも負けない自信があります。
これまでに外国人向けに20以上のサービスを開発してきた実績があり、強固なバックエンドシステムを構築しているため、新しいサービスの立ち上げもスムーズに進めることができます。
当社はインターネット上でサービスを展開しているため、Webサイトが「店舗」であり、「接客」であり、「商品」そのものです。
このため、多言語対応を徹底したサービスサイトを構築してきましたが、単なる翻訳に頼るのではなく、それぞれの言語特有のニュアンスや言い回しを正確に反映することに力を入れています。
どれほど優れた翻訳家が手掛けた文章であっても、元の表現がその国特有の文化や言葉遣いに適していなければ、ユーザーは違和感を覚えてしまいます。
また、各国のユーザーにとって「刺さる」表現を意識し、それぞれの文化や習慣に合わせたUI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザーエクスペリエンス)を徹底的に最適化しています。
この取り組みによって、訪日外国人が安心してサービスを利用できる環境を提供しています。
さらに、自社内に設けたカスタマーサポートセンターでは、コールセンターやメール対応チームに、言語を本質的に理解し、ネイティブレベルで対応可能な人材を配置しています。
当社の社員の約半数は外国籍や帰国子女で構成されており、外国人目線でのサービス提供を可能にしています。
この多様性を活かした体制により、外国人ユーザーが抱える疑問や課題に迅速かつ的確に対応できるのが、当社のもう一つの強みです。
これらの取り組みを通じて、事業の継続的な成長サイクルを構築し、さらに多くのユーザーに価値を提供してまいります。
インバウンドプラットフォームの成長戦略
市場環境と当社のポジション
当社を取り巻く市場環境は非常に良好で、訪日外国人数は今後も増加が見込まれています。
また、出国する日本人の数も緩やかに増加しており、当社の提供するサービスへの需要は今後も継続的に拡大していくと考えています。
ただし、当社が提供する訪日外国人向けサービスについては、外国人の方々から高い認知度を獲得することが非常に難しいという課題もあります。
その理由は大きく2つあります。
1つ目は、当社が外国人を対象に「日本国内限定のサービス」を提供している点です。
訪日外国人の多くは日本を頻繁に訪れるわけではなく、その利用頻度が限られているため、一度利用してもサービスの印象が薄れやすく、毎回新しいサービスを選び直す可能性があります。
2つ目は、当社が提供しているサービスの性質です。
Wi-FiレンタルやeSIM、新幹線チケット予約といった「コモディティ」と呼ばれる、一般的で差別化が難しい商品が中心であるため、特定ブランドへの強い愛着やこだわりが生まれにくい点が挙げられます。
このため、当社のブランディングには課題があると認識しています。
こうした課題に対応するため、当社の戦略はサービスラインナップを拡充し、それらを横断的に活用してもらう「クロスセル」の推進にあります。
訪日外国人が日本で何らかのサービスを利用する際に必ず当社のサイトを経由してもらえる仕組みを構築し、そのタイミングで適切なサービスや情報を提供することで、「便利なサービスを提供している会社」と認識していただけることを目指しています。
この戦略を実現するためには、既存事業をさらに強化するとともに、新事業の創出を続けることで、顧客体験価値を向上させることが不可欠です。
当社は、これらの取り組みを通じて、外国人向けサービス分野における独自のポジションを確立してまいります。
既存事業の拡大による収益基盤強化
当社では、既存事業であるモバイルネットワーク事業・キャンピングカー事業の売上拡大を目指し、各種マーケティング施策や連携強化を進めています。
特に、近年注目を集めているeSIMに関しては、訪日外国人をターゲットにしたデジタルマーケティングを活用し、日本に来る前から効果的にアプローチを行っています。
この取り組みにより、訪日需要を確実に取り込む体制を整えています。
さらに、これまでに培った外国人向けメディアの構築ノウハウや高品質なカスタマーサポート機能を最大限活用し、モバイルネットワーク事業・キャンピングカー事業の成長を一層加速させるとともに、全体として収益基盤のさらなる強化を図ってまいります。
注力事業への投資
当社では、既存事業の中でもライフメディアテック事業を注力事業および成長領域と位置付け、サービスの拡充を進めています。
特に、2024年から立ち上げたモビリティテックサービスでは、新幹線、バス、レンタカーおよびハイヤーの予約・販売プラットフォームを提供しており、急速な成長を遂げています。
しかし、旅行業界は依然としてデジタル化の遅れが課題となっており、すべてをシステム化して効率的に運用するのは容易ではありません。
現状では、システムの裏側で発生する各種手続きに、人力による対応が必要となる場合もあります。
また、外国人対応が含まれることから、イレギュラーな対応が発生するケースも少なくありません。
今後は、システムの強化を含めた効率的な運用体制の構築に向けて、さらなる体制強化を進めていく方針です。
モビリティテックサービスを展開する上では、サプライヤー側との連携が非常に重要です。
たとえば、新幹線ではJR各社との提携がサービス提供の鍵となりますが、バスやレンタカーに関しては大規模から小規模の事業者まで非常に幅広く存在し、その連携には高い難易度が伴います。
また、インバウンド需要が見込まれる一方で、一部の事業者は外国人対応によるトラブルや事故のリスクを懸念している状況です。
こうした課題に対し、当社のノウハウを活かしてトラブルの発生を低減し、しっかりとサポートすることで、サプライヤーを拡充していきます。
来るインバウンド需要に応えるための万全な体制を構築し、さらなる成長を目指してまいります。
注目していただきたいポイント
特に注目していただきたいポイントが2つあります。
1つ目がモバイルネットワーク事業におけるeSIM事業の成長性です。
Wi-Fiレンタルについて、「今後縮小していく」という見方をされる方も多いかと思いますが、代わりに eSIMが急成長しています。
eSIMは訪日外国人を中心に需要が拡大しており、当社の主力事業の1つとして大きな可能性を秘めています。
2つ目がライフメディアテック事業におけるモビリティテックサービスの成長性です。
2024年に事業を立ち上げてからわずか1年で大きく成長している分野で、当社の成長を牽引する重要な柱となると考えています。
当社ではこれまで、ライフメディアテック事業の決算内容を手数料ベースの収益構造に基づき、件数をKPIとして公表してきました。
しかし、この形式では投資家の皆様から「わかりにくい」というご意見をいただくことがあり、事業規模を正確にご理解いただきにくい点が課題となっていました。
より分かりやすい情報開示を心がけ、投資家の皆様に当社の成長ポテンシャルを正確にお伝えできるよう努めてまいります。
今後も成長のスピード感や具体的な成果をしっかりと情報開示していきますので、ご注目ください。
投資家の皆様へメッセージ
当社は、社名にも掲げる「インバウンドプラットフォーム」として、訪日外国人や日本国内に住む在留外国人を対象に、さまざまなサービスをインターネット上で展開しています。
これまで、すべての自社サービスをゼロから開発し、各国の言語に対応させてきました。
プロモーションやマーケティングにおいては、各国のネイティブスタッフが現地の文化や習慣を踏まえた対応を行い、外国人ユーザーにとって本質的に役立つサービスを創出してきました。
このような取り組みが、当社の競争優位性を支える大きな要因です。
2023年には上場を果たし、2024年は新規サービスの立ち上げに注力してまいりました。
そして2025年は、これまでの努力を具体的な成果として結実させるべく、全力で取り組んでまいります。
引き続き、当社へのご支援を賜りますよう、どうぞよろしくお願いいたします。
株式会社インバウンドプラットフォーム
本社所在地:〒105-0004 東京都港区新橋六丁目14番5号
設立:2015年10月1日
資本金:351,630千円(2024年9月末時点)
上場市場:東証グロース市場(2023年8月30日上場)
証券コード:5587