【9436】沖縄セルラー電話株式会社 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2025年1月14日に実施したIRインタビューをもとにしております。

沖縄セルラー電話株式会社は「事業を通して、沖縄経済の発展に貢献すること」を経営理念とし、「地元に全力!」を体現しています。

代表取締役社長の宮倉 康彰氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

沖縄セルラー電話株式会社を一言で言うと

「地元に全力!」をモットーに、社員ひとりひとりが“100%”沖縄のために取り組む、沖縄愛に満ち溢れた会社です。

沖縄セルラー電話の沿革

沖縄セルラー電話株式会社代表取締役社長 宮倉 康彰氏

創業の経緯

当社の創業は、1990年に設立された「沖縄懇話会」に端を発します。

「沖縄懇話会」は、本土と沖縄の経営者が集い、沖縄の経済活性化を目指して発足した経済団体です。

その発足式で、第二電電(現:KDDI)を創設した京セラの稲盛 和夫氏が、「沖縄のために通信会社、携帯電話会社を作ろう」と提案されました。

稲盛氏は鹿児島出身で、沖縄の歴史や文化に深い感銘を受けており、「沖縄独自の通信会社を立ち上げることで、地域に貢献できないか」と考えておられました。

この提案を受け、1991年6月1日に地元企業43社と第二電電の出資により、当社が設立されました。

当時、沖縄に進出していた企業の多くは本土企業であり、九州管轄の支店や営業所を設置する形が一般的でした。

その中で、沖縄単独で設立された通信会社は非常に画期的であり、地元の皆様から「沖縄のためを考える企業が誕生した」と大いに喜ばれました。

当社はその期待に応えるべく、「事業を通して、沖縄経済の発展に貢献する」という経営理念を掲げ、現在に至るまで事業を展開しています。

沖縄に根ざした企業となるために

創業当時、第二電電は北海道セルラーや九州セルラーといった形態で、日本全国に携帯電話会社を設立する中、首都圏では日本移動通信(IDO)が事業を展開していました。

そして、2000年7月に全国統一の移動体通信ブランド「au」が開始され、同年10月には第二電電(DDI)、国際電信電話(KDD)、日本移動通信(IDO)の3社が合併したことで、KDDIが誕生しました。

その後、同年11月には沖縄セルラーを除く7つの「セルラー」を冠した事業会社が合併しました。

しかし、当社には設立時の特別な背景があったため、独立性が維持され、合併の対象とはなりませんでした。

この独立性を保ちながら、当社は「沖縄に根ざした企業」としての使命を果たすため、地域社会に密着した取り組みを進めています。

現在も、十分な業績を維持することを目標に掲げると同時に、沖縄が抱える課題を解決することでさらなる成長を目指しています。

沖縄セルラー電話株式会社 より提供

沖縄セルラー電話の事業概要と特徴

概要

当社はKDDIグループの一員として、沖縄県内で総合通信会社として多岐にわたる事業を展開しています。

一つ目は移動体通信サービスです。

「au」「UQ mobile」「povo」など、KDDIブランドの移動体通信サービスを沖縄県内で展開しています。

また、auショップの運営や代理店のサポートを通じて、お客様の信頼に応える取り組みを進めています。

二つ目は固定通信・ブロードバンド関連サービスです。

2010年から光ファイバーを利用した高速インターネット接続(FTTH)サービスを提供し、「auひかり ちゅら」や「ひかりゆいまーる」の2ブランドを展開しています。

三つ目は新規事業を含むその他サービスです。

通信事業を基盤に、ソリューション事業、アグリ(農業)事業、ヘルスケア事業、エネルギー事業といった成長領域への進出に注力しています。

これらの事業選定においては「沖縄の課題解決」をテーマに掲げ、沖縄が抱える労働生産性の低さやDXの遅れなどの問題に対応し、地元企業や自治体のDX推進や業務効率化を提案しています。

沖縄セルラー電話株式会社 より提供

事業における優位性

沖縄の企業としての事業基盤

創業の経緯からもご理解いただけると思いますが、当社は地元の皆様に支えられて成長してきました。

この地元密着型の企業姿勢が、当社最大の強みです。

全国的に見ると、沖縄は人口比で1%程度の規模であり、一般的な企業では利益やコストを重視する中で優先順位が低くなる傾向にあります。

一方、当社は沖縄に本社がある強みを生かし、「沖縄のために何が必要か」を最優先に判断し、取り組んでいます。

移動体通信サービスでは、設備投資を積極的に行い、通信エリアの品質を強化しています。

結果として、通信品質調査で「最も通信品質が良い」と評価され、県内モバイル市場で50%以上のシェアを獲得しています。

また、auショップ運営では地元代理店の協力を得て、県内約70店舗を展開しています。

これは他社の約2倍の規模で、アフターフォローの充実による高い評価につながっています。

こうした取り組みが「auは一番つながる」「周囲もauを使っている」という信頼感を醸成し、圧倒的なシェア維持の基盤となっています。

収益はさらに設備投資や店舗運営へ再投資され、成長の好循環を実現しています。

この成長を支えているのは、「沖縄に貢献したい」という思いを持つ社員たちです。

その一体感が迅速な対応や期待に応える原動力となっています。

沖縄セルラー電話株式会社 個人投資家さま向け説明会資料 より引用

沖縄を意識したサービスづくり

沖縄という環境を考慮し、通信エリアの整備に力を注いでいます。

これまでも、お客様からの要望に迅速に対応し、通信品質改善を実現してきました。

さらに、全国で統一されている料金プランに対し、沖縄の経済環境を考慮した独自の料金プランを導入したこともあります。

こうした取り組みが地元に優しい施策として高い評価を受け、シェア拡大につながりました。

また、沖縄は数多くの離島が点在していますが、離島でも快適な5G通信を提供するため、光海底ケーブル「YUI」の運用を2023年より開始しております。

YUIという愛称は「Yarn Uniting Okinawa Islands」の略で、沖縄の島々を結ぶ糸(ケーブル)の意と方言の「ゆい(結い)」をかけあわせたものです。

こうした取り組みを通じて、地元に根ざしたサービスを提供しています。

沖縄セルラー電話株式会社 個人投資家さま向け説明会資料 より引用

沖縄セルラー電話の成長戦略

既存事業のさらなる深掘り

スマートフォン市場では、SIMカード交換のみや2台目需要の増加など、ニーズの多様化が進んでいます。

そのため、当社では単純なシェアの拡大だけではなく、「通信ARPU収入」を成長指標として掲げています。

この指標は「稼働ID数×通信ARPU(1ユーザーあたりの月間平均収益)×12か月」としたもので、ビジネス成長の具体的な成果を測るものとなっています。

一時的にARPU収入が減少した時期もありましたが、現在の中期経営計画(2022年度-2024年度)で掲げている「通信ARPU収入の底打ち反転」の目標については、1年前倒しで達成しています。

また、5Gの人口カバー率95%という目標についても、計画を1年前倒しで達成しており、事業成長は順調だと自負しています。

沖縄セルラー電話株式会社 個人投資家さま向け説明会資料 より引用

成長領域の拡大:アグリ事業

アグリ事業では、沖縄特有の課題に着目し、通信技術を活用した「スマート農業」に取り組んでいます。

沖縄本島から東に約360キロメートル離れた太平洋上にある離島、南大東島では、夏場の暑さや塩害、台風などの影響で島内栽培が困難で葉野菜の安定供給が課題でした。

大型台風などで船舶が入港できず物資が途絶えたりすると、島内の葉野菜が極端に不足してしまい、

レタス1株が千円以上で売られるようなことがあったほどです。

そのような中、IoTを活用した統合環境制御システムが組み込まれた植物コンテナの導入を通し、課題解決に取り組んでいます。

この制御システムでは、コンテナ内の温度、湿度、CO2量、肥料濃度、pHなどのモニタリングと制御が自動的に行われることで、1日の収穫量が500株、年間約14トン規模の葉野菜の生産が可能となりました。

こうした生産高により、船舶欠航時の葉野菜の欠品日数が2016年度は「225日」であったのに対し、2019年度は欠品日数「0日」を達成、学校給食における葉野菜の自給率も2016年度の26%から2019年度の99%へと跳ね上がり、南大東村の課題解決に大きく貢献することができました。

南大東村の植物コンテナ
沖縄セルラー電話株式会社 より提供

成長領域の拡大:ヘルスケア事業

かつて「長寿県」として知られた沖縄ですが、現在では健康寿命が低下し、改善が必要な状況です。

当社は再び沖縄を「長寿県」として復活させるべく、ヘルスケア事業に取り組んでいます。

その一環として、スマートフォン向け健康管理アプリ「JOTOホームドクター」を開発し、個別の健康アドバイスや健康管理機能を提供しています。

2024年からは自治体の健康診断データを活用し、一人ひとりに合わせた健康アドバイスを提供する取り組みを開始しています。

このモデルは現在、自治体で検証中ですが、今後の展開として他の地域への展開が期待できるビジネスとなっています。

今後の投資方針

現在の中期経営計画で掲げているキャピタルアロケーションでは、通信設備への投資の他、成長に向けた戦略投資に加え、増配、機動的な自己株式取得実施による株主還元にコミットしています。

戦略投資については、特にソリューション事業と親和性のある分野を中心に検討しており、シナジー効果を生み出せる企業との連携に着目しています。

JV(ジョイントベンチャー)の形態を採用する可能性も考慮し、沖縄に貢献できる事業を展開していきます。

沖縄セルラー電話株式会社 個人投資家さま向け説明会資料 より引用

注目していただきたいポイント

当社は沖縄県を拠点とする企業で、強固な財務基盤と高い収益性を両立している点が大きな強みです。

また、当社の経営方針として「増収・増益・連続増配」の3増と「配当性向40%超」を掲げています。

2025年3月期においても、13期連続の増益と24期連続の増配を達成する見通しです。

今後も株主還元を意識した取り組みを進めながら、成長戦略を加速させてまいります。

ぜひ、当社の取り組みにご注目ください。

沖縄セルラー電話株式会社 より提供

投資家の皆様へメッセージ

沖縄の最大の魅力は、何といってもその美しい自然です。

この豊かな自然を守り、未来へと引き継いでいくことは、沖縄に拠点を置く企業としての使命だと考えています。

もう一つの魅力は、沖縄県民の皆様が持つおおらかさや温かい人柄、優しさです。

私たちはその心の豊かさや感性を尊重しながら、新たな価値を創造し、地域に根ざした事業を展開していきます。

沖縄の自然と、県民の皆様の笑顔に貢献することを軸に、事業の成長を通じてサステナビリティ経営を実現していきたいと考えています。

現在、当社は中期経営計画の最終年度に臨んでいますが、さらなる成長に向けた挑戦を続け、皆様の期待に応えてまいります。

どうぞ今後ともご支援とご声援をよろしくお願いいたします。

沖縄セルラー電話株式会社

本社所在地:〒900-8540 沖縄県那覇市松山1丁目2番1号

設立:1991年6月1日

資本金:1,414,581,000円(2025年1月アクセス時点)

上場市場:東証スタンダード市場(1997年4月15日上場)

証券コード:9436

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「資産運用ナビ」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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