【265A】Hmcomm株式会社 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2025年1月22日に実施したIRインタビュー、2024年4月上旬にHmcomm株式会社様よりいただいた情報をもとにしております。

Hmcomm株式会社は「音 × AI」のスペシャリストとして、音を可視化し、AIを活用したプロダクトでお客様のビジネスをサポートしています。

代表取締役社長CEOの三本 幸司氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

Hmcomm株式会社を一言で言うと

音の認識と分析を極めたAIのスペシャリスト集団です。 

Hmcommの沿革

Hmcomm株式会社 代表取締役社長CEO 三本 幸司氏

創業の経緯

私は1986年に富士ソフトウェア(現:富士ソフト)に入社し、ソフトウェア開発業務を中心に携わりながら技術畑のキャリアを歩み、最終的には取締役を務めました。

その後、「後追いではなく、オリジナルのものづくりで技術と成果に挑みたい」と独立を考え、2012年に当社を設立しました。

当初は一人でさまざまな事業の可能性を模索していました。

当時は、画像認識技術が急速に発展し、スマートフォンの普及やヒューマノイドロボット「Pepper」の登場した時期でした。

しかし、音声認識の分野はまだ十分に確立されておらず、「音声分析技術を磨けば勝機があるのではないか」と考え、「音」で勝負することを決意しました。

音声認識技術の活用

2014年、当社は産業技術総合研究所(産総研)発のベンチャー企業として認定を受け、仲間を集めながら事業基盤を築いていきました。

産総研自体は研究機関であり、新たな技術を開発してもなかなか事業化には至りません。

そのため、当社のような新しい技術を必要とするベンチャー企業が求められていました。

そこで、当社は産総研の音声処理技術を活用し、要素技術の研究・開発を進めながら、ソリューションの展開を進めました。

2016年からは、音声認識技術を活用したコールセンター向けソリューションに注力しました。

当時、コールセンター業界では通話録音で品質向上を図るという手法が一般的でしたが、実際にその録音データを緻密に分析するという発想はほとんどありませんでした。

そこで、私たちは音声データの分析技術を活かし、コールセンター業務の効率化を図ることを目指しました。

この技術を最初に導入していただいたのがソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社様であり、実績を積み上げながら資金調達の機会も増えていきました。

資金調達と上場

2016年から2019年にかけて研究開発資金として、3回の資金調達を行いました。

2016年12月に第三者割当増資によりVCからシリーズAラウンドの資金調達を実施し、初期の製品開発を進めていきました。

その後、2018年6月にはシリーズBラウンドの資金調達を実施し、コールセンター向けのソリューション展開を拡大させました。

そして、2019年12月にシリーズCラウンドとして5.4億円の資金調達を実施することができました。

出資先のJR東日本スタートアップ株式会社様とは、東日本旅客鉄道株式会社様に提供している鉄道事業の異音検知サービスを開発することを目的に資本業務提携を結んでおります。

そして、事業成長を着実に進め、2024年10月に東証グロース市場に上場を果たしました。

現在は音声認識や異音検知に加え、音のスペシャリストとしてさらなる研究開発と事業開発に取り組んでいます。

Hmcomm株式会社 2025年3月 事業計画及び成⻑可能性に関する事項 より引用

Hmcommの事業概要と特徴

概要

当社は「音」に着目し、AIを活用したソリューションやプロダクトを提供しています。

AIソリューションで行うのは、主にお客様の経営課題の解決やDX支援です。

お客様は大手企業を中心に、業界を問わず幅広い企業にサービスを提供しています。

また、AIプロダクトでは、AIソリューションで得られた課題を基に、具体的な製品として提供しています。

具体的には、音声認識ではコールセンター向けのAI音声認識プロダクト「Voice Contact」、AI音声自動応答プロダクト「Terry」、AI議事録プロダクト「ZMEETING」などがあります。

また、工場など製造現場での非破壊検査を可能にする異音検知プロダクトとして「FAST-D」を展開しています。

Hmcomm株式会社 2025年3月 事業計画及び成⻑可能性に関する事項 より引用

事業における優位性

音のスペシャリストとしてのポジションを確立

音声認識技術を持つ企業は多数ありますが、当社は「音の見える化」に重点を置き、「音」そのものに焦点を当てています。

たとえば、畜産業では動物の鳴き声を分析し、鉄道や工場では異常音を検知する技術を活用しています。

さらに、製品検査においても音を用いた品質管理を行うなど、さまざまな分野で技術を展開しています。

このように、異常検知というニッチな領域において、ソリューションを提供できる希少な企業としての立ち位置を確立しています。

また、音と画像、音と匂いといった異なる要素を組み合わせたハイブリッド分析にも積極的に取り組んでいます。

音のスペシャリストとしての強みを活かし、音に限らずDXコンサルティングの分野にも事業を広げ、独自のポジションを確立することを目指しています。

さらに、コンサルティング領域の拡大に伴い、AI開発やAIトレーニングまでを一貫して提供できる体制を整えています。

Hmcomm株式会社 2025年3月 事業計画及び成⻑可能性に関する事項 より引用

マーケットインの開発と伴走

当社は、お客様の課題発見から運用までを一貫して支援し、業界ごとのニーズに適したAIプロダクトを開発しています。

「製品ありき」ではなく、「お客様の課題ありき」の視点でプロダクトを開発することで、市場から必要とされる製品を確実に生み出しています。

Hmcomm株式会社 2025年3月 事業計画及び成⻑可能性に関する事項 より引用

従来のAI関連企業の中には、特定のAIプロダクトのみを開発する企業や、受託開発を専門とする企業、あるいはAIコンサルティングに特化する企業があります。

一方、当社はお客様の課題発見からAIのトレーニング、実装、運用までを一貫して支援する「伴走型」のサービスを提供している点が特徴です。

研究開発型企業として、お客様と協業しながら、課題解決のフェーズから関わることで、確実に市場に受け入れられるプロダクトを生み出し続けています。

Hmcomm株式会社 2025年3月 事業計画及び成⻑可能性に関する事項 より引用

「音 × AI」のプロダクト開発

当社は、音声認識技術を活用したAIプロダクトを複数展開しています。

たとえば、コールセンター向けのAI音声認識プロダクト「Voice Contact」は、通話内容をAIが自動でテキスト化し、オペレーターやスーパーバイザーの業務効率を向上させることが可能です。

Hmcomm株式会社 2025年3月 事業計画及び成⻑可能性に関する事項 より引用

AI音声自動応答プロダクト「Terry」は、AIが自動的に電話対応を行うシステムとして活躍しています。

テレビショッピングの注文受付では、放送直後に大量の電話がかかってくることがよくあります。

しかし、オペレーターの数には限りがあるため、電話をかけた顧客は長時間待たされることが多く、途中で電話を切られてしまう、という課題が発生しています。

これに対し、AIが即座に対応し、スムーズに注文を受け付けることができれば、顧客満足度の向上と販売機会の損失防止につながります。

Hmcomm株式会社 2025年3月 事業計画及び成⻑可能性に関する事項 より引用

コールセンター業界には、離職率の高さや人材確保の難しさといった課題が存在します。

オペレーター業務は、スキルレベルを必要以上に求められるものではないものの、顧客対応のストレスが大きいため離職率が高い傾向にあります。

加えて、新人オペレーターの育成には時間がかかるため、定着しなければ人材確保が難しく、安定的な運営が困難になります。

加えて、コールセンターは「コストセンター」としての側面が強く、コストを抑えつつも顧客対応の質を向上させることが求められています。

しかし、近年の人手不足の影響でオペレーターの人件費が上昇しており、業務の効率化は喫緊の課題です。

当社は、このような課題に対応するため、お客様のパートナーとしてAIプロダクトを開発し、提供し続けています。

Hmcommの成長戦略

AI業界の現状と当社のポジション

AIの進化は特定の業界に依存せず、あらゆる分野で進展していくと考えられます。

医療や気象分野では技術開発が進み、AIの導入が始まっていますが、まだ十分に浸透していない業界も多く存在します。

その要因の一つが、個人情報の取り扱いや規制の問題です。

新しい技術の導入には必ず抵抗勢力が存在し、それが普及の遅れを招くことがあります。

しかし、こうした業界に対しても積極的にアプローチし、AI導入の支援を進めていくことが当社の使命です。

また、AI市場全体の規模は非常に大きく、当社が特に注力しているコールセンター市場にも一定の需要があります。

確かに、コールセンター業界は一部で縮小傾向が見られますが、その一方で、新しいテクノロジーを活用した業務の効率化や最適化のニーズが高まっています。

Hmcomm株式会社 2025年3月 事業計画及び成⻑可能性に関する事項 より引用

市場の変化に応じて新たなソリューションを提供できることが、当社の大きな強みであり、今後の成長を語る上で重要なファクターです。

AIプロダクトの拡販

当社のAIプロダクトは、今後さまざまな業界で必要とされるものと確信しています。

そのため、クロスセル戦略を活用し、一社あたりの導入件数を増やすことで販売を強化していきます。

また、販売代理店を活用し、当社のプロダクトを他のサービスや製品に組み込むことで、さらなる市場拡大を図ります。

今後は代理店との連携を強化しながら、プロダクトの普及を加速させていく方針です。

共創プロジェクトの積み上げ

当社は研究開発型企業として、お客様との対話を重視しています。

業務要件を深く理解しながら、どのような課題があるのかを明確にし、損益計算(PL)も考慮した最適なソリューションを提供することが目標です。

これまで、業務要件の整理やマーケット戦略を専門とするメンバーは在籍していませんでしたが、現在はコンサルタントを迎え入れ、マーケットインの視点から共創プロジェクトを積極的に推進しています。

共創プロジェクトでは、市場のニーズを的確に把握しながら、確実に利益を生み出せるプロダクトの開発を進めています。

そのため、上流工程から製品化、さらには市場展開までを一貫して手掛ける体制を整え、ワンストップでのサービス提供を強化していく方針です。

この取り組みにより、プロダクトの数が増加し、市場でのコンバージョン率(実際に販売に結びつく割合)の向上が期待されます。

今後3年から5年の間に、共創プロジェクトをさらに拡大し、そこから生まれるプロダクト数を大幅に増やすことを目指しています。

AIプロダクトは、製造原価が低く、人手をほとんど必要としないため、高い利益率を確保できるビジネスモデルです。

この特性を活かし、当社としても積極的にこの領域を拡大していきたいと考えています。

Hmcomm株式会社 2025年3月 事業計画及び成⻑可能性に関する事項 より引用

注目していただきたいポイント

当社の成長戦略の根幹は、既存事業の確実な成長にあります。

現在、AIの利活用やDX化の大きな波が来ています。

この追い風を活かし、いかに大企業や事業会社と連携し、共創パートナーとしての価値を高めていくかが重要であると考えています。

また、業界ごとの特性に応じたデータを持つ中堅・中小企業とも積極的に協業し、AIプロダクトを共に開発していくことも一つの戦略です。

単なるパートナーシップにとどまらず、複数の企業が連携し、相互に補完し合うエコシステムを構築していきたいと考えています。

たとえば、画像解析を得意とする企業や、特定業界の専門データを保有する企業と連携することで、それぞれの業界に適したAIソリューションを開発・提供することが可能になるはずです。

こうした「共創プロジェクト」の規模を拡大し、より多くの業界にAIの活用を広げていくことが、今後の成長戦略の鍵となると考えています。

この点については、さらに整理を進め、より明確な形で投資家の皆様にお伝えできるよう努めていきます。

特に、決算発表時には、今後のビジョンや成長戦略について、具体的かつ分かりやすく説明できるよう準備を進めてまいります。

投資家の皆様には、当社の成長スキームや戦略について、より時間をかけて丁寧にお伝えしていきたいと考えています。

Hmcomm株式会社 2025年3月 事業計画及び成⻑可能性に関する事項 より引用

投資家の皆様へメッセージ

当社は2024年10月に上場したばかりの会社ですので、現時点では投資家の皆様と十分なコミュニケーションを取る機会が限られていると感じています。

今後は、より積極的に情報を発信し、事業内容や成長戦略について、的確に理解していただけるよう努めてまいります。

引き続き、ご支援のほど何卒よろしくお願いいたします。

Hmcomm株式会社

本社所在地:〒105-0012 東京都港区芝大門2-11-1 富士ビル 2階

設立:2012年7月24日

資本金:221,141千円(2024年12月末時点)

上場市場:東証グロース市場(2024年10月28日上場)

証券コード:265A

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「資産運用ナビ」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

目次