※本コラムは2025年2月10日に実施したIRインタビューをもとにしております。
ナトコ株式会社はあらゆる表面のリノベーションを実現するイノベーションカンパニーを目指しています。
代表取締役社長の粕谷 太一氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
ナトコ株式会社を一言で言うと
「ユニークな発想で新しい価値を創造する会社」です。
ナトコの沿革

創業の経緯
ナトコは1948年に創業し、2025年で77周年を迎えます。
創業者は私の祖父であり、社名の「ナトコ」は、「名古屋塗料株式会社」の頭文字から取っています。
「ナ」は名古屋、「ト」は塗料、「コ」はコーポレーションを意味しており、創業当初から塗料メーカーとしてのアイデンティティを持ち続けています。
事業のスタートは名古屋市瑞穂区の高田町でした。
しかし、塗料は化学製品であり、危険物としての制約があるため、都市部での事業展開には課題がありました。
そこで、1966年に当時の愛知県西加茂郡三好町(現在の愛知県みよし市)に本社工場を移転しました。(本社は1998年に移転)
三好町は名古屋市と豊田市の中間に位置し、周囲には自動車関連企業が多く立地しています。
塗料メーカーとしての独自性を確立
本社工場を移転後、私たちは物流センターの建設を進め、1979年には本社工場内に樹脂生産工場を新設しました。
塗料は通常、化学メーカーから原料を仕入れ、それをブレンドして調色したものを提供するのが一般的です。
しかし、私たちは塗料の主原料である「合成樹脂」を自社で生産することで、他社との差別化を図ってきました。
大手塗料メーカーであればこうした設備を持つ企業もありますが、中堅規模の企業では珍しい取り組みです。
当社では、樹脂の設計や配合を手掛ける技術者を抱え、自社内での開発を進めています。
この技術力の高さが、私たちの強みの一つです。
さらに、1987年には名古屋市内に研究所を設立し、塗料の研究だけでなく、新たな分野にもチャレンジしてきました。
特に、当時注目を集めていた液晶ディスプレイ(LCD)向けの高分子化合物の研究を進め、塗料とは異なる事業領域への進出を試みました。
また、1994年には関東圏のお客様のニーズに応えるため、群馬県みどり市に新たな工場を設立しました。
現在、国内の生産拠点は、愛知と群馬にあり、愛知の本社工場では主に金属用塗料や建材用塗料に加え樹脂合成を、群馬工場では環境負荷の少ない粉体塗料や金属用塗料を製造しています。
海外展開と蒸留事業への参入
2000年を過ぎた頃から、日本の塗料市場が伸び悩むと予測し、海外展開に注力し始めました。
最初の進出先は中国・青島で、2003年に現地法人を設立しました。
その後、2011年には韓国に支店を設立し、2014年以降、フィリピン、タイ、ベトナムにも拠点を拡大しています。
こうした海外展開の積極的な推進により、グローバル市場での競争力を強化しています。
また、当社は塗料事業だけでなく、新たな分野への挑戦も行っています。
その一つが蒸留事業です。
2005年から関連会社としていた「巴興業」を2013年に完全子会社化し、塗料を使用する工場から発生する廃液を回収し、蒸留・精製して再利用可能な状態でお客様に戻すという事業を展開しています。
今後は、半導体、セラミックコンデンサー、医薬品分野など、より付加価値の高い分野にシフトし、廃液の再利用を通じて持続可能なものづくりに貢献していく考えです。
次なる成長に向けて
私は現在、社長として4期目を迎えています。
就任後はコーポレートロゴの刷新、中期経営計画の策定など、現状に満足することなく、事業拡大に向けた様々な戦略を推進してきました。
私たちは、これまで培ってきた技術力と独自性を生かしながら、さらなる成長を目指して挑戦を続けます。
ナトコは、塗料業界にとどまらず、環境負荷の低減やグローバル展開を視野に入れ、新たな可能性を追求しています。
これからも、お客様のニーズに応えながら、より高品質な製品とサービスを提供し続けることで、持続的な成長を遂げていきたいと考えています。

ナトコの事業概要と特徴
概要
当社のビジネスは、大きく三つの事業セグメントに分かれています。
まず、一つ目が塗料事業です。
工業製品から住宅建材まで、幅広い用途に対応できる塗料を製造・販売しています。
特に、住宅用建材の分野では、「ニチハ」との取引が多く、外壁材向けの塗料を供給しています。
ニチハは、サイディングボードのトップメーカーであり、当社にとって重要なパートナーです。
また、フローリングや塩化ビニル製の床材向けコーティング剤も手がけており、工場の生産ラインで使用される塗料も提供しています。
金属用塗料に関しては、建設機械メーカーや自動車部品メーカー向けにルーフレールやホイール用の塗料を供給しています。
さらに、大手オフィス家具メーカーにも塗料を提供しており、コンビニの冷凍ショーケース用塗料の供給実績もあります。
金属製品を扱うあらゆる業界が取引先となり、非常に多岐にわたる分野で当社の塗料が活用されています。
次に、ファインケミカル事業です。
スマートフォンやタブレット、パソコンといった情報端末向け塗料の需要が高く、キーボードや天板、アクセサリーに使用される塗料を供給しています。
特に光学フィルム向けの塗料は、日本国内だけでなく、韓国や台湾の光学フィルムメーカーにも提供しています。
電子機器の進化とともに求められる性能も変化しており、日々、新たなニーズに応えるための技術開発を進めています。
最後に、蒸留事業です。
こちらは、グループ会社の「巴興業」と「アイシー産業」が中心となって展開しています。
お客様の工場で発生する廃液を回収し、蒸留・精製することで、再利用可能な状態にして提供する事業です。
現在、この蒸留事業の売上比率は連結売上の約25%を占めるまでに成長しており、当社にとって重要な柱の一つとなっています。
特に、半導体や医薬品といった分野への展開を視野に入れ、さらなる拡大を目指しています。
このように、当社は多様な業界のお客様と取引を行い、それぞれのニーズに応じた製品やサービスを提供していることが大きな特徴です。

事業における優位性
技術と研究開発
当社は70年以上の歴史の中で、多岐にわたる業界と関わりながら技術を磨いてきました。同じ塗料でも、お客様の生産ラインによって仕上がりが異なるため、それぞれのラインに合わせた最適な塗料の調整が求められます。
そのため、塗料の開発段階から、お客様の生産現場と密接に連携し、カスタマイズ対応を行うことで、より高品質な製品を提供しています。
特に、住宅建材向けの塗料では、機能性だけでなくデザイン性も重要になります。
外壁材には色や柄のトレンドがあり、単に塗料を提供するだけではなく、お客様にデザインの提案まで行うことが、当社の強みの一つです。
塗料メーカーの多くは、指定された色に基づいて塗料を作るのが一般的ですが、当社はそれを超えたデザイン提案を積極的に行っています。
市場の動向を踏まえたカラーバリエーションの提案や、意匠にこだわった仕上がりを提供できることが、他社との差別化につながっています。
きめ細やかな対応と品質の管理
ファインケミカル事業では、特に品質管理と細やかな対応が求められます。
スマートフォンやタブレットの製造は、現在ではほとんどが中国で行われており、その多くが台湾系EMS(電子機器受託製造サービス)企業によって生産されています。
当社はこれらのEMS企業だけでなく、エンドユーザーであるスマートフォンメーカーとも直接連携し、製品の品質向上に努めています。
情報端末向けの塗料では、仕上がりの品質が非常に重要です。
わずかな不具合が発生した場合、その原因の分析を求められることも多く、塗料の製造工程での問題点や不具合の原因を特定し、迅速に改善策を講じることが不可欠です。
こうした対応は、大手企業にとっては手間がかかる部分ですが、当社のような中堅企業だからこそ、柔軟かつスピーディーに対応できるのが強みです。
また、蒸留事業においても、ただ廃液を回収・精製するだけではなく、より高純度な原料としてお客様に提供できるよう、精度の高い管理体制を整えています。
特に、半導体や医薬品分野では、極めて高い純度が求められるため、当社の技術力を最大限に活かし、品質向上に努めています。

ナトコの成長戦略
塗料事業の成長戦略
塗料業界は一見成熟しているように思われますが、実はまだ未開拓の市場が多く存在しています。
塗料が必要とされる分野は多岐にわたりますが、当社がカバーしきれていないカテゴリーや新しい市場も数多くあります。
今後は、こうした未開拓の領域に積極的に進出し、事業のさらなる拡大を図っていきたいと考えています。
しかし、新規顧客の開拓や塗料の開発には時間と労力がかかります。
そこで、国内の同業他社との資本業務提携や業務提携を進めていく方針です。
M&A(企業買収・合併)についてもケースバイケースで検討し、市場の重複を恐れず、むしろ統合することでコスト削減や事業規模の拡大を狙っていきます。
塗料メーカーは共通する原料を使用することが多いため、同業他社と協力することで原料の共同購入によるスケールメリットを生かすことが可能です。
さらに、塗料事業においてコスト競争力を高めるためには、一定の生産量が不可欠だと考えています。
そのため、中堅規模の塗料メーカーとの提携を視野に入れ、競争力のある価格で製品を提供できる体制を整えていきます。

ファインケミカル事業の成長戦略
ファインケミカル事業の成長には、エンドユーザーからの信頼をどれだけ獲得できるかが鍵となります。
特に競争相手は海外メーカーが多いため、当社の塗料が「性能やサービス面で優れている」と評価されることが重要です。
これを実現するため、海外市場でのサービス体制を強化していきます。
現在、米中関係の影響により、一部の生産が東南アジアやインドにシフトしている状況です。
当社はこれらの地域にも対応できるよう、現地の顧客との関係を強化し、細やかなフォロー体制を整えています。
特に、スマートフォンやパソコン、タブレットなどを製造する大手メーカーと継続的に信頼関係を築くことが、新規案件獲得のカギとなります。
そのため、日本国内にとどまらず、海外の営業体制をさらに強化していく考えです。
たとえば、中国市場では日本式のビジネスアプローチだけでは成功が難しい場面もあるため、現地の代理店を活用するなど、各地域に適した販売戦略を展開しています。
また、他の塗料メーカーで経験を積んだ人材の採用を積極的に行い、専門知識を生かした提案ができる体制を整えています。

蒸留事業の成長戦略
蒸留事業を拡大するためには、より高純度な製品を安定して提供できる設備投資が欠かせません。
この分野では、大規模な設備投資が求められますが、設備の償却期間が短いため、付加価値の高い製品を提供しなければ、投資の回収が難しくなります。
そのため、設備投資の判断が事業の成長を左右する重要なポイントとなります。
特に今後は、半導体分野をターゲットとし、パワー半導体、セラミックコンデンサー、電池関連製品向けの洗浄剤など、高度な技術が求められる分野での需要拡大を狙っています。
こうした市場に対応するため、生産拠点の拡充を進めていく予定です。
現在、半導体関連の主要な生産拠点は九州と東北に集中しています。
当社は特に東北地域に注力しており、福島県にある関連会社の生産能力はほぼ限界に達しています。
そのため、新たな生産拠点の設立を検討中であり、最終的には北海道を含めたさらなる拠点展開も視野に入れています。

注目していただきたいポイント
株主の皆様からは、「内部留保が多すぎるのではないか」というご意見をいただくことがあります。
これまではやや保守的な経営姿勢を取っていましたが、今後は2030年に向けて成長投資を積極的に進める方針です。
具体的な投資計画については、IRを通じて随時発表していきますので、ぜひ注目していただきたいと思います。

また、当社は「あらゆる表面のリノベーションを実現するイノベーションカンパニー」というビジョンを掲げています。
将来的には塗料にこだわらず、より幅広い表面処理技術を提供する企業へと進化したいと考えています。
その背景には、環境面での課題があります。
たとえば、VOC(揮発性有機化合物)の排出や、塗装の乾燥工程で発生するCO₂の問題があります。
すでに一部の業界では、塗装をやめてフィルムを貼る方法に切り替えたり、プラスチック製品の成形時に色を付けることで塗装工程を省略する動きが進んでいます。
こうした変化に対応するため、塗料以外の選択肢も提供できる企業であることが重要です。
もし、お客様が「塗料を使わない選択」をした場合でも、新たな提案ができる体制を整えています。
たとえば、「塗料の代わりに使えるフィルム」や「成形時に色を付けるプラスチック材料」など、多様な選択肢を提供することで、お客様のニーズに柔軟に応えています。
実際に、当社の研究所では、塗料以外の研究開発にも力を入れています。
フィルムやプラスチック成形材料の開発を進めており、これらの分野を今後さらに強化していく考えです。

投資家の皆様へメッセージ
私は社長として、現状に満足することなく、常に新たな挑戦を続ける姿勢を大切にしています。
どんなに小さなことでも、一歩ずつ積み重ねることで、企業は成長できると信じています。
これからも、より良い会社を築き、次世代へとつないでいくことが私の使命だと考えています。
今後も、さらなる成長を目指し、皆様の期待に応える企業であり続けるために努力を続けてまいります。
引き続き、ナトコへのご支援をよろしくお願いいたします。
ナトコ株式会社
本社所在地:〒470-0213 愛知県みよし市打越町生賀山18番地
設立:1948年11月1日
資本金:1,626,340,000円(2025年2月アクセス時点)
上場市場:東証スタンダード市場(1993年6月1日上場)
証券コード:4627