※本コラムは2025年2月18日に実施したIRインタビューをもとにしております。
株式会社サンリツは社会的に信頼され、ステークホルダーの皆様に「選ばれる存在」を目指しています。
代表取締役社長の三浦 康英氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
株式会社サンリツを一言で言うと
美しく魅力のある会社を目指す「ロジスティクスパートナー」です。
サンリツの沿革

創業の経緯
当社は1948年に設立し、創業77年の歴史を誇る企業です。
創業者が着目したのは「梱包」でした。
当時の梱包は単なる輸送の一環として捉えられ、運送を円滑にするための手段に過ぎませんでした。
縄で荷物を縛ることから始まり、酒瓶6本入りの梱包なども行われていました。
しかし、その役割は輸送の利便性を高めることにとどまり、技術として認識されることはほとんどありませんでした。
では、なぜ創業者は梱包に注目したのでしょうか。
BtoCの観点では、梱包は「商業包装」として、商品の価値や魅力を維持・向上させる役割を果たします。
商品価値を守るために不可欠な要素であり、単なる輸送手段以上の重要性を持つと考えました。

そこで、当社は日本からの輸出品の梱包、特に高品質が求められる防衛庁向けの梱包に着手しました。
製品の特性に応じた最適な包装設計を進めることで成長の可能性を見出し、創業時の社名「三立社」から「三立梱包」へと変更し、梱包を事業の核とする決断を下しました。

梱包事業の確立
当時、防衛庁には独自の梱包規格がなく、基準はアメリカの「MIL規格」に依存していました。
しかし、この規格は非常に厳格で、梱包仕様が過剰になりがちでした。
創業者は、技術的にいかに簡素化し、コストダウンを実現しながら標準化していくかを模索。同業他社と協力しながら、日本工業規格(JIS)の制定に尽力しました。
その結果、「JIS 1402(木箱の構造)・1403(枠組箱の構造)」の策定に関与し、梱包が対価を得られる技術として認められるようになりました。
こうして梱包の標準化が進み、教科書も作られ、基本的な技術を学べる体制が整いました。
しかし、梱包には材料力学や高度な技術力が求められます。
私はこれを「匠の技」と呼んでいますが、現在でも職人による高度な技術が必要とされる業界です。
ただし、標準化が進んだことで、メーカーや荷主の間で「梱包は当たり前のもの」という認識が広まりました。
この流れの中で、当社は店頭公開の時期を迎え、二代目社長の判断により「梱包だけでは大きな成長につながらない」と考え、物流業へと事業を拡大しました。
こうして、梱包を軸としながら、物流全体を視野に入れた事業領域の拡大を進め、現在に至ります。

海外への挑戦
当社が初めて海外に進出したのは、2005年の中国でした。
段ボールや緩衝材の販売を手がける企業でしたが、後継者不在という事情があり、銀行の紹介を受けて慎重にデューデリジェンス(企業調査)を重ねた上で買収を決定しました。
結果として、中国市場での売上は大きく伸び、年間10億円以上を達成しました。
当時(2005年)は日本のメーカーが次々と中国へ進出し、日本の品質が高く評価されていた時代でした。
しかし、その後、中国事業からの撤退を決断しました。
現在では、中国国内の品質向上と価格競争の激化により、日本人スタッフの人件費を維持することが難しくなりました。
これは当社に限らず、多くの企業が直面した課題です。
2015年に4拠点の順次撤退を進め、最後に残っていた上海拠点でも梱包事業を継続していましたが、中国政府の政策や設備投資の低迷を踏まえ、役員会で最終的な撤退を決定しました。
こうして、2025年3月に中国事業からの全面撤退を完了しました。
次にアメリカについてですが、進出を決めたのはリーマンショックにより世界的に景気が低迷していた時期です。
当社にはアメリカ市場でのノウハウが一切ありませんでしたが、あえてそのタイミングで進出を決断しました。
グローバル展開を進める上で、まず必要なのは人材の確保と教育です。
当時、リーマンショックの影響で、多くのアメリカの物流会社が縮小・撤退しており、優秀な人材が市場に流出していました。
当社はその人材を確保し、小規模なフォワーディング業務をスタートしました。
これが今から約15年前のことです。
事業の第一歩として、海上輸送や航空貨物のフォワーディングから小規模に開始しました。
日本で取引のある工作機械メーカーが新たに工場を設立したタイミングで、サービス提供を模索しました。
まずは梱包事業から参入し、加えて日本から輸出される部品のノックダウン(部品ごとに分解された状態での輸送)を行い、現地工場での納品オペレーションを提案していきました。
こうした取り組みの結果、ロサンゼルスとノースカロライナの2拠点を中心に、事業を拡大してきました。
現在、新たにジョージア州サバンナに拠点を建設中であり、ここでも同様のビジネスモデルを展開する予定です。今後もアメリカでの事業拡大を積極的に進めていきます。

サンリツの事業概要と特徴
概要
当社のビジネスは、大きく「梱包事業」「運輸事業」「倉庫事業」の三本柱で成り立っています。
梱包事業では、スチール梱包や木箱梱包など、製品の特性や輸送形態に応じた最適な梱包を提供しています。
単に製品を包むだけではなく、安全に届けるための技術が詰まっているのが当社の梱包の特徴です。
運輸事業に関しては、「販売物流」に特化して提供しています。
すなわち、製品が完成した後、最終ユーザーや海外の取引先へ届ける物流を担っています。
一般的に物流は「調達物流」「生産物流」「販売物流」の三つに分かれます。
このうち、調達物流はメーカーが自社で管理するケースが多く、生産物流は以前は当社の主力でしたが、最近では多くの企業が内製化を進めています。
倉庫事業の役割は、この物流網の中で完成品や半完成品を適切に保管することです。
業界ごとに物流の流れは異なりますので、倉庫を介さずにすぐに出荷するケースもあれば、一時的に保管が必要なケースもあります。
いずれにしても、当社はお客様のニーズに応じた最適な形で、梱包・運輸・倉庫のワンストップサービスを提供しています。

事業における優位性
参入障壁の高い貨物に特化
当社の最大の強みの一つは、高度な技術と知識が求められる貨物を取り扱っている点です。
たとえば、医療機器や金属加工機械、通信機器といった精密機器は、衝撃や湿度の影響を受けやすいため、慎重な梱包と輸送が求められます。
当社では、こうした貨物の特性を熟知し、製品ごとに最適な梱包設計を行っています。

一方で、食品やアパレル製品の取り扱いは行っていません。
特に食品や衣類は「虫」のリスクが高く、精密機器と同じ倉庫で保管することが適切ではないためです。
理論的には区分管理することも可能ですが、当社は精密機器関連の分野に特化することで、より高品質なサービスを提供できる体制を整えています。
ほとんどの梱包は一品一様のオーダーメイドです。
お客様の製品が安全に目的地に届くように、細部までこだわった設計を行い、長年にわたるノウハウを活かして最適な梱包技術を提供しています。

効率的なオペレーションを実現する倉庫
倉庫事業においても、当社ならではの工夫を随所に取り入れています。
たとえば、空調管理された倉庫を運用し、製品の品質維持だけでなく、従業員の働きやすさにも配慮しています。
作業環境を快適に保つことは、結果として業務の効率向上にもつながると考えています。
また、倉庫内の照明もオフィスフロア並の照度を確保し、作業のしやすさを追求しました。
さらに、天井の高さを適切に設計することで、保管効率を高め、スムーズなオペレーションを実現しています。
こうした細やかな取り組みが、当社の倉庫事業の強みとなっています。
強固な顧客基盤
当社の倉庫サービスには、固定契約でスペースを借りるお客様と、物流の流れに応じて変動制で利用するお客様がいます。
それぞれのニーズに応じた最適なプランを提供し、お客様にとって最もコストパフォーマンスの高い形でサービスを設計しています。
また、当社の取引はメーカーとの直接契約も多く、さまざまな企業と長年にわたりお付き合いをさせていただいています。
中には50年以上にわたってご利用いただいているお客様もおり、こうした信頼関係が当社の事業を支えています。
これからも、精密機器に特化した高品質な物流サービスを提供し、お客様のビジネスを支えるパートナーとして成長を続けていきたいと考えています。

サンリツの成長戦略
物流業界の動向とその対応
物流業界では、2024年問題をはじめ、燃料費の高騰などの課題が次々と浮かびあがっています。
当社もその影響を受ける立場にありますが、迅速かつ柔軟に対応しながら事業を進めています。
運輸事業においては、自社保有の車両は限られており、およそ8割は協力会社との提携による全国ネットワークで構築しています。
そのため、燃料費の高騰は間接的な影響にとどまりますが、特に重要視しているのが「待機時間」の問題です。
たとえば、当社の成田の航空貨物専用倉庫では、1日に約100台のトラックが入出庫します。
この状況では、スムーズな荷さばきを行わなければ、トラックの待機時間が増加し、非効率なオペレーションにつながります。
その対策として、新たなシステムを導入し、ドライバーとの連携を強化しながら、スムーズな入出庫を実現する取り組みを進めています。
また、輸送効率の向上を目指す上で、中間倉庫の確保も欠かせません。
お客様との交渉を進めながら、新たな物流体制を構築していきます。
加えて、環境負荷の軽減という観点から、モーダルシフトの推進も進めています。
外航船の活用をはじめとした取り組みを実施していますが、鉄道輸送に関しては振動の影響が大きく、精密機器の輸送には向かないという課題もあります。
加えて、ドライバーの長時間労働に関しても、法律を遵守しつつ、持続可能な物流体制の構築を進めていきます。
時代の変化に対応しながら、安定した物流ネットワークを提供していきます。
オペレーションからソリューションへ
当社が大切にしているのは「オペレーション力」、すなわち現場力です。
この現場力がなければ、お客様の信頼を得ることはできません。
そのため、まずはこの基盤をしっかりと築き、さらに磨きをかけていくことを重視しています。
しかし、それだけでは不十分です。
物流の世界は、単なる「運ぶ」だけの仕事ではなくなっています。
お客様の抱える課題を発見し、解決する「ソリューション型」のアプローチへとシフトすることが求められています。
お客様のニーズには、すでに明確になっているものだけでなく、潜在的なものも数多くあります。
当社では、そうした潜在的な課題を引き出し、提案型の営業を強化することで、より価値のあるサービスを提供したいと考えています。
物流の視点から課題を解決し、「受け身型の営業」から「提案型の営業」へと転換することが、当社の中長期的な目標です。
ソリューション提案を強化
ソリューション提案を進める中で、「デザイン・フォー・ロジスティクス」という考え方が重要になってきます。
これは、梱包や物流の視点から製品の設計を見直し、最適化を図るアプローチです。
たとえば、製品に突起物があると、それだけで輸送効率が下がり、運送費が増加する可能性があります。
しかし、その突起物をなくすことで、積載効率の良い標準パレットに収めることができれば、コストを削減できます。
また、海上輸送においては、コンテナ単位での最適化が重要になります。
コンテナサイズは規格化されているため、その規格に合わせた梱包設計を行うことで、スペースを無駄なく活用できます。
こうした視点から、お客様の製品設計や物流フローの改善を提案し、単なる運送業務にとどまらず、お客様のビジネス全体に貢献する取り組みを進めていきます。

成田新倉庫(仮称)の建設
現在、成田地区では自社倉庫2拠点、外部倉庫5拠点を活用していますが、すべての倉庫がフル稼働に近い状態となっています。
特に関東近県では輸出入貨物の需要が高まっており、成田空港が物流の要としての役割を強めています。
羽田空港もありますが、滑走路の拡張が進まず、旅客向けの運用が中心となっているのが現状です。
そのため、2026年に第三滑走路が拡張される成田空港が、今後の物流拠点としてさらに重要視されています。
また、半導体業界の成長も、当社の成田への投資を後押しする要因の一つです。
半導体関連の輸送は、依然として航空輸送が主流であり、精密機器や製造装置の取り扱い需要は今後も増加すると予想されます。
これらの要因を踏まえ、当社は成田に新倉庫の建設を進め、物流需要の増加に対応するとともに、事業拡大を目指していきます。
海外事業の強化
海外事業では、アメリカ市場で工作機械関連の事業を展開しています。
工作機械工場向け部品の輸送も当社が取り扱う分野の一つです。
現在、懸念されるのはアメリカの関税政策の行方です。
特にメキシコやカナダとの貿易交渉の影響がどう出るかが鍵になります。
また、日本製品に対する一律関税が課されることになれば、円安のメリットが相殺される可能性もあります。
現時点では、メーカー各社も慎重な姿勢を取っており、大規模な投資の動きはまだ見られません。
市場の動向を見極めながら、当社としても最適な戦略を立てていきます。

DX化と業務効率化について
当社の強みである梱包業務においては、DX化が難しい部分が多く残っています。
特にスチール梱包などは、職人技が必要な領域であり、現時点ではロボットによる代替が難しいと考えています。
しかし、業務プロセスの中にはデジタル化できる部分もあります。
たとえば、梱包作業時に撮影する記録写真の管理をデジタル化し、破損クレームの対応を効率化するための取り組みを進めています。
当社のDX戦略は、「デジタル化(デジタルパッチ)」「データ分析とAI活用(インテグレーション」「トランスフォーメーション(DXモデルの確立)」の三段階で考えています。
まずは紙ベースの業務をデジタル化し、データの蓄積を進めます。
その後、AIを活用して業務の最適化を図り、最終的にはDXモデルの確立を目指します。
今後ますます人材確保が難しくなる中、DXを活用した業務効率化を進めながら、持続可能な物流サービスの提供を実現していきます。
注目していただきたいポイント
梱包について
まず、多くの方に「梱包」という仕事について理解を深めていただきたいと考えています。
この業界には、日本梱包工業管理連合会という上部団体があり、そこから東日本と西日本に分かれています。
私は現在、東日本の理事長を務めるとともに、日本全体の副会長としても活動しています。
業界の発展に向けて、ここ数年でさまざまな取り組みを進めてきました。
とはいえ、一企業だけで業界全体を変革するのは難しいのが現実です。
そのため、省庁と連携しながら業界の価値向上に努めてきました。
その結果として、これまであまり注目されてこなかった「梱包」という分野が、より広く認知されるようになってきたと実感しています。
具体的な成果の一つが、外国人技能実習生制度の改革です。
最近、この制度が大きく変更され、今後は「育成就労制度」へと移行します。
そして、新たに雇用が認められる業種の一つに「梱包」が正式に追加されました。
この決定に至るまで、私は経済産業省と協力しながら尽力してきました。
これにより、「梱包とは何か?」という認識が広がりつつあります。
皆さんが日常的に使っている製品は、当然のように適切な形で手元に届きます。
しかし、その背後には高度な梱包技術があり、製品の安全性を守る重要な役割を果たしているのです。
この技術はメーカーからも高く評価されており、物流の根幹を支えるものだと自負しています。
これからも業界全体の発展に貢献しながら、次世代へと技術を継承していく仕組みづくりにも力を入れていきます。
このような取り組みを、ぜひ投資家の皆様にもご理解いただきたいと思っています。
100年続く企業にするために
私は、70周年の記念式典で「100年続く企業を目指す」というメッセージを発信しました。
これは、単に長く存続することが目的ではありません。
継続的に成長し、社会に貢献できる企業でなければならない、という信念を込めたものです。
そのためには、企業としての自己変革が欠かせません。
ステークホルダーの皆様に貢献し続けるために、社員一人ひとりが変革を起こし、進化し続ける組織をつくっていくことが重要です。
3年後には80周年を迎えますが、それはあくまで通過点にすぎません。
さらにその先を見据えながら、成長戦略を加速させていきます。
具体的には、売上高の目標を明確に掲げ、営業利益率を重要なKPIとして管理しながら、確実に向上させていきます。
この営業利益率の向上には、DX推進や業務効率化の取り組みが不可欠です。
現在、物流業界全体の営業利益率は5%前後と言われていますが、当社は6%を目標に設定し、収益性の向上を図っています。
「お客様から選ばれる企業」であり続けるためには、単なる価格競争に巻き込まれるのではなく、価格以上の価値を提供することが必要です。
お客様が求める以上のサービスを提供し、その品質や信頼性によって選ばれる企業でありたいと考えています。

投資家の皆様へメッセージ
サンリツは、「梱包」というコア事業に付加価値を加え、総合的な物流サービスを提供する企業です。
当社の最大の強みは、一貫した物流体制にあります。
物流の最適化というと、個別の課題解決を考えがちですが、当社は全体最適を追求しています。
製品の流れを止めることなく、お客様であるメーカーの競争力を最大限に引き出し、最終ユーザーにも満足いただける物流を実現することが当社の使命です。
今後、事業領域やビジネスモデルをさらに拡大し、より強固な成長基盤を築いていく必要があると考えています。
また、株主の皆様への還元についても、創業以来36期連続で配当を継続しています。
安定した成長を続けることで、株主の皆様にしっかりと利益を還元していく方針です。
これからも企業価値を高め、長期的な視点で株主の皆様とともに成長していけるよう努めてまいります。
今後とも、変わらぬご支援をよろしくお願いいたします。
株式会社サンリツ
本社所在地:〒108-0075 東京都港区港南2-12-32 SOUTH PORT品川 12階
設立:1948年3月27日
資本金:2,523,866,287円(2024年3月末時点)
上場市場:東証スタンダード市場(1987年9月9日上場)
証券コード:9366