【6099】株式会社エラン 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2025年2月19日に実施したIRインタビューをもとにしております。

株式会社エランは「CSセットのエラン」から「ヘルスケアのエラン」へと変革を遂げるため、新たな挑戦を続けていきます。

代表取締役社長COOの峯崎 友宏氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社エランを一言で言うと

お客様の心豊かな生活環境の実現に貢献する会社です。 

エランの沿革

株式会社エラン代表取締役社長COO 峯崎 友宏氏

創業の経緯

エランが誕生したのは1995年、創業メンバー3名で相模原市に会社を設立し、布団の訪問販売を手がけたのが始まりでした。

しかし、神奈川県内には同業他社が多く、競争が非常に厳しい市場で、この環境の中で長く事業を続けるのは難しいと判断しました。

そこで、1998年に長野県松本市へ移転し、心機一転、新たなスタートを切ることになったのです。

移転後もしばらくは布団の販売を続けていましたが、次第に布団のリフォーム業へとシフトしていきました。

当時、日本では粗大ゴミの処分が社会問題となっており、その中でも布団は大量に廃棄されるアイテムの一つでした。

「布団を再利用し、ゴミを減らすことで社会に貢献できるのではないか」—そのような想いから布団のリフォーム事業を本格的にスタートさせました。

「CSセット」の誕生

現在の主力事業「CSセット」のスタートは2003年5月のことでした。

そのきっかけは、ある病院の院長先生からの何気ない相談でした。

「布団を販売しているのなら、病院の寝具も取り扱えないか?」

この言葉を受け、病院の寝具市場について調べてみたところ、一定の基準を満たした洗濯工程が必要であり、専用の機械や設備が不可欠であることが分かりました。

しかし、市場はすでに成熟し、競争が激しいレッドオーシャン。新規参入しても大きなメリットはないと判断し、この話は見送ることになりました。

ところが、その際に院長先生から新たな提案がありました。

「患者さんのご家族によっては、身の回りの品を持参しないケースも多い。タオルや寝間着、消耗品などを患者さんにレンタルするサービスはできないか?」

この言葉が「CSセット」誕生のきっかけとなりました。

当時は、入院中の身の回りの世話は家族がするのが当たり前という価値観が根強く、病院がケアを業者に委託するという発想はほとんどありませんでした。

しかし、長期入院や高齢化が進む中で、こうしたサービスには大きな可能性があると考え、事業の方向性を「CSセット」一本に絞る決断をしました。

エムスリーからの出資

「手ぶらで入院・退院」を実現するソリューションとして、「CSセット」は全国の医療機関へ広がり、多くの病院で導入されるようになりました。

そして、さらなる事業拡大を目指す中で、より広範なネットワークを活かし「CSセット」を一層普及させるために、アライアンスの必要性を感じていました。

そのような中、2024年9月19日より、エムスリー株式会社(以下、エムスリー)が当社に対するTOB(公開買い付け)を実施しました。

2024年10月21日をもって、エランはエムスリーの連結子会社となりました。

これからは、エムスリーとのシナジーを活かし、医療・介護の分野でより幅広いサービスを提供することを目指していきます。

患者さんやそのご家族がより安心して治療に専念できる環境をつくるため、今後も挑戦を続けてまいります。

株式会社エラン 2024年12月期 決算説明資料 より引用

エランの事業概要と特徴

概要

エランが展開する「CSセット」は、病院や介護施設向けに、入院や入所時に必要な衣類や生活用品を日額定額制で提供するサービスです。

患者さんが身の回り品を用意しなくても、「手ぶらで入院」「手ぶらで面会」「手ぶらで退院」ができるようになるという画期的な仕組みです。

入院生活に必要な衣類やタオルのレンタルに加え、紙おむつや日常生活用品の提供もセットになっており、必要なものを必要な時に利用できます。

株式会社エラン 2024年12月期 決算説明資料 より引用

現在、全国47都道府県で事業を展開しており、すでに導入施設は2,000を超えています。

さらに、オプションサービスとして、「CSセットR(入院・介護費用保証サービス)」や「CSセットLC(利用患者に起因する損害事故補償付き)」といった商品も提供し、利用者のさらなる安心をサポートしています。

株式会社エラン 2024年12月期 決算説明資料 より引用

事業における優位性

医療機関・患者双方の負担を軽減する「CSセット」の価値

「CSセット」は、患者さんやそのご家族、そして医療機関にとっても大きなメリットをもたらします。

ある病院では、患者さんの9割近くがこのサービスを利用しており、その利便性の高さがうかがえます。

一般的に、病院から入院時に必要な品物を案内されると、リストにあるものをすべて揃えるだけで12,000〜13,000円程度の費用がかかることがほとんどです。

しかし、実際にはそれらの用品は退院後に使う機会がほとんどなく、結果的に一度しか使わないものに高額な出費をすることになります。

一方で、「CSセット」を利用すれば、たとえば1週間の入院で3,000〜4,000円程度で必要なものをすべて揃えられ、さらに洗濯サービスも付いてきます。

コストの面でも、利便性の面でも、レンタルサービスの方がはるかに合理的だと、多くの患者さんやご家族に支持されているのです。

株式会社エラン 2024年12月期 決算説明資料 より引用

また、病院にとっても、患者さんやそのご家族の負担を軽減できるだけでなく、入院時の持ち物に関する問い合わせ対応が減ることで、業務負担の軽減にもつながっています。

株式会社エラン 2024年12月期 決算説明資料 より引用

トップシェアを誇る事業基盤と参入障壁の高さ

「CSセット」は、エランが業界のパイオニアとして築き上げた事業モデルであり、現在も市場トップシェアを維持しています。

近年では同業他社の参入も増えていますが、当社の長年のノウハウや運用体制は簡単に真似できるものではなく、一定の参入障壁があると考えています。

この事業は、単にサービスを提供するだけではなく、採算管理、現場での導入、サービスの運用、回収・サポート体制の整備といった要素が成功の鍵を握っています。

そのため、新規参入してもすぐに軌道に乗せるのは容易ではありません。

さらに、当社のサービスは、医療保険や介護保険の制度にも適合した運営を徹底しています。

たとえば、病院では、医療行為や治療行為に必要な物品は保険点数内に含まれているため、患者さんから追加料金を徴収できないルールがあります。

介護保険でも同様の規定があり、違反すると行政指導の対象となる可能性があります。

エランは、これらの制度を深く理解し、法令遵守を徹底した運営を行っています。

そのため、仮に行政指導が入ったとしても問題が生じることはありません。

一方で、新規参入の業者の中には、制度を十分に理解せずに事業を始め、行政指導を受けたり、トラブルに発展したりするケースも多いと聞いています。

こうした点も、当社のサービスが信頼される理由の一つです。

株式会社エラン 2024年12月期 決算説明資料 より引用

「共存共栄モデル」で築く長期的な信頼関係

エランの事業戦略の根幹にあるのは、「Win-Win-Win」の関係を築くという考え方です。つまり、「敵を作らないこと」が重要だと考えています。

一般的な入院セット業者は、サービス導入時に自社に有利なサプライヤーを持ち込むことが多く、それによって病院と長年取引をしてきた既存の業者が排除されるケースが少なくありません。

しかし、エランは創業当初から「既存の取引先と協力しながらCSセットを導入・運営する」という方針を貫いてきました。

新規導入の際も、病院とすでに取引のある業者とともにサービスを展開することで、共存共栄の関係を築いています。

その結果、業者の方々が新たな病院を紹介してくれたり、病院側が他社の営業を受けた際に当社と連携している業者から情報が共有されるなど、自然と当社のネットワークが強化される仕組みができています。

この話をすると、「業者がエランを紹介するメリットは何か?」と聞かれることがあります。

一見、既存の取引先にとっては利益にならないように見えるかもしれません。

しかし、実際にはCSセットを導入することで、これまで取引のなかった商品が増えたり、物量が増加することで取引業者にもメリットが生まれるのです。

そのため、当社のモデルは取引先にとっても価値がある仕組みになっています。

株式会社エラン 2024年12月期 決算説明資料 より引用

エランの成長戦略

「CSセット」市場のさらなる開拓

現在、日本全国の病院の約6割で、何らかの入院セットが導入されています。

その中には、当社の「CSセット」を利用している病院もあれば、他社のサービスを選択している病院もあります。

全国には50床以上の病院が約8,000施設ありますが、そのうち当社の「CSセット」を導入しているのは約2割です。

市場全体を見ると、すでに入院セットを導入している病院が6割程度ですが、まだ4割の病院には導入されていません。

この未開拓の市場が、今後の成長の鍵を握っていると考えています。

特に、未導入の病院は地方に多く、従来から「入院中の世話は家族がするもの」「病院側が備えるべきもの」という価値観が根強く残っています。

しかし、核家族化の進行や老々介護の増加により、家族だけで十分なケアを行うことが難しくなっています。

また、看護師の働き方改革の影響で、従来のようにサービス残業で対応することが難しくなっている病院も少なくありません。

こうした背景から、業務の効率化や負担軽減のために、「CSセット」の導入を検討する病院が増えてきました。

今後は、この未開拓の4割の病院に対して、積極的に導入提案を進めていく予定です。

株式会社エラン 2024年12月期 決算説明資料 より引用

退院後を見据えた新サービスの開発

これまで「CSセット」は、入院中のサポートに特化したサービスとして展開してきましたが、退院後から再入院まで全方位で困りごとを解決する事業を開発していきます。

株式会社エラン 2024年12月期 決算説明資料 より引用

実際に、近年では退院後の生活においても、同様のサポートを求める声が増えています。

退院後の生活は、病状によってはスムーズに日常生活に戻れるとは限りません。

療養が必要な場合や、一定期間リハビリを要するケースもあります。

そこで、当社では退院後のサポートをカバーする新サービスの開発を進めています。

これまで築いてきた医療機関とのネットワークを活用し、患者さんが退院後も快適に過ごせるようなサポートを提供することで、より包括的なケアを実現したいと考えています。

株式会社エラン 2024年12月期 決算説明資料 より引用

海外市場へのアプローチ

国内市場にとどまらず、海外市場にも目を向けています。

すでにインドとベトナムのリネン工場3社に出資しており、海外展開の足がかりを築いています。

しかし、日本で成功した「CSセット」のビジネスモデルをそのまま海外に持ち込むのは難しいと考えています。

その理由のひとつは、日本の医療保険・介護保険制度の充実です。

日本では世界に先駆けて高齢化が進み、それに対応するための制度が整っています。

この環境があったからこそ、「CSセット」が普及したという側面があります。

一方で、インドやベトナムの平均年齢は28〜30歳と若く、医療インフラはまだ発展途上の段階です。

病院の設備やサービスは今後拡充されていく過程にあり、日本と同じ形で「CSセット」を導入するのは現時点では現実的ではありません。

とはいえ、将来的に医療インフラが整えば、「CSセット」の導入も視野に入れていく考えです。

現状では、「CSセット」の展開ではなく、より広い視点で日本の医療・介護関連のソリューションを提供することを検討しています。

具体的には、日本の先進的な治療機器や介護用品の導入、さらには衛生環境を強化できる商材の提供といった取り組みを考えています。

これらはまだアイデア段階であり、特定の分野に注力しているわけではありませんが、今後の事業展開において重要な要素として捉えています。

足元では現地のリネン業者が持つ病院とのネットワークを活用し、医療機器や衛生関連商材を供給することを目指しています。

こうした取り組みを通じて、現地の医療環境の向上に貢献していきたいと考えています。

特にインドは、非常に興味深い市場です。

人口は約14億人と日本の12倍にのぼりますが、病院や病床の数は日本とほぼ同程度しかありません。

つまり、圧倒的に医療施設が不足しており、今後の発展が期待できる分野です。

ベトナムも同様に、現在の人口は約1億人ですが、地方にはまだ医療インフラが整っていない地域も多く存在します。

こうした成長市場に対し、当社の強みを活かして貢献できる部分は大きいと考えています。

株式会社エラン 2024年12月期 決算説明資料 より引用

「ヘルスケアのエラン」を目指して

これまで、「CSセットといえばエラン」という認知が広がってきました。

しかし、私たちはその枠を超え、「ヘルスケアのエラン」として、より広範な領域での貢献を目指しています。

具体的には、入院セットの枠にとどまらず、ヘルスケア領域全般において、当社の商材やサービスを強化できる企業・事業への出資を進める予定です。

これまで培ってきたノウハウとネットワークを活かしながら、医療・介護の未来を支える存在として、さらなる成長を遂げていきます。

注目していただきたいポイント

エムスリーとの提携について、まだ十分に理解されていない部分が多いと感じています。

しかし、私たちは短期的な施策だけでなく、中長期的な戦略をしっかりと練りながら、シナジーを最大限に活かす取り組みを進めています。

短期的には、すでに相互紹介やクロスセルを開始し、当社の約2,500の医療機関とのネットワークと、エムスリーの約6,000の医療機関とのシナジーによる新たな展開が期待されています。

株式会社エラン 2024年12月期 決算説明資料 より引用

そして、中長期的には、IT技術を活用したDX化の推進や、海外展開におけるノウハウの活用、さらにはM&Aを通じた事業拡大にも取り組んでいきます。

エムスリーは、すでに17カ国で事業を展開しており、海外市場への進出に関する知見も豊富です。

この知見を活かしながら、当社の「CSセット」だけでなく、医療・介護領域全般での事業展開を加速させていく計画です。

国内のみならず、海外事業も含めた広い視野での成長戦略に、ぜひ注目していただきたいと思います。

株式会社エラン 2024年12月期 決算説明資料 より引用

投資家の皆様へメッセージ

私たちは、「CSセット」の提供を開始して以来、20年以上にわたり、患者さんやご家族の「困った」を解決することに全力を注いできました。

これからも、その姿勢を貫きながら、日本国内だけでなく、世界にも目を向け、より多くの課題解決に取り組んでまいります。

また、2025年3月をもって、創業者の櫻井が引退いたします。

しかし、彼が築き上げた「CSセットを通じて患者さんとそのご家族を支える」という想いは、会社としてしっかりと受け継ぎ、次のステージへと進んでいきます。

今後は、「CSセットのエラン」から「ヘルスケアのエラン」へと進化を遂げることを目指します。

デジタル化の推進や、エムスリーおよびそのグループ会社とのシナジーを活かし、新たな価値を創出していく方針です。

新規事業の創出や「CSセット」のさらなる成長はもちろん、海外展開にも積極的に取り組み、皆様にご満足いただける成果を上げられるよう努めてまいります。

これからのエランの挑戦に、ぜひご期待ください。

そして、引き続き温かいご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

株式会社エラン

本社所在地:〒390-0826 長野県松本市出川町15-12

設立:1995年2月6日

資本金:5億7,349万6,250円(2023年12月末時点)

上場市場:東証プライム市場(2014年11月7日上場)

証券コード:6099

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「資産運用ナビ」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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