【4845】株式会社スカラ 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2025年2月25日に実施したIRインタビューをもとにしております。

株式会社スカラはDX・人材・官民共創という三つの柱を軸に、持続的な成長を目指しています。

代表執行役社長の新田 英明氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社スカラを一言で言うと

「DX × 人材 × 官民共創」の未来を創る企業です。 

スカラの沿革

株式会社スカラ代表執行役社長 新田 英明氏

創業の経緯

スカラの創業は1991年です。

当時の社員数は10人程度でデータベース関連の事業を手掛けていましたが、最初から自社開発を進めていたわけではありませんでした。

米国のデータベース企業から商品を仕入れ、代理販売という形で事業を展開しており、代理店モデルでは売上や利益の拡大に限界を感じておりました。

そのような中、1998年から2000年にかけて訪れたITバブルが、当社にとって大きな転機となります。

この波に乗り、2001年には大証ナスダック・ジャパン市場(現 東証スタンダード)へと上場しました。

当時、主幹事を務めたのはSBI証券(旧 ソフトバンク・インベストメント証券)で、北尾吉孝会長からも直接ご支援をいただきました。

実際に取締役として就任していただいた時期もあります。

多角化の挑戦とピボット

上場後は潤沢な資金を活用し、M&A戦略を本格化させました。

IT企業に限らず、天気予報会社、広告代理店、人材派遣会社など、多岐にわたる業種の企業を買収し、コングロマリット(複合企業)型の経営を目指しました。

しかし、この戦略は思うように機能しませんでした。

業種が多様すぎたため、シナジーを生み出せず、2008年頃にはIT関連企業以外をすべて売却する決断をしました。

その後、新たな成長戦略としてSaaS事業へシフトし、2007年からBtoB向けのSaaSサービスを展開しました。

企業向けの検索エンジンやFAQシステムを開発し、大手企業を次々と顧客に獲得。約7〜8年かけて、ストック型の収益基盤を築きました。

現在も「スカラコミュニケーションズ」のSaaS事業だけで、年間約30億円以上の売上を確保しており、安定した事業基盤を築いています。

東証一部上場とソフトブレーン買収

こうした成長を経て、2014年には東証一部(現・プライム市場)へ区分変更しました。

この上場を機に、さらなる成長を狙い、和製セールスフォースとも称される宋 文洲氏が創業した「ソフトブレーン」を子会社化しました。

しかし、期待とは裏腹に、事業環境の変化や両社の事業戦略の方向性の違い、親子上場による課題の解消などを理由に2021年に売却することとなりました。

この売却により約30億円の利益を確保できたため、次の成長のための積極投資を展開する資金を手にすることができました。

再び多角化の壁に直面、「選択と集中」へ

売却で得た資金を活用し、新たなM&Aや事業の多角化を進めましたが、利益を生みにくい事業が増え、シナジー効果が十分に発揮できなかったことから、業績が低迷してしまいました。

この状況を打開するため、1年前から「選択と集中」の方針で構造改革を進めています。

そして、10年間にわたり経営を担った代表者と交代し、新体制へ移行しました。

振り返ると、当社は「多角化による成長を狙うものの、うまくいかず整理し、筋肉質な経営に戻す」という流れを繰り返してきました。

しかし、同じ失敗はできません。

今後は「DX・人材・官民共創」を中核に据え、強い経営基盤を維持しつつ、持続的な成長を目指します。

株式会社スカラ 2025年6月期 第2四半期決算説明資料 より引用

人材と官民共創の強化

現在、特に注力している領域が「人材」と「官民共創」です。

人材領域では、当社グループの「アスリートプランニング」が、高学歴の体育会系人材の採用支援を行っています。

この分野はニッチながら、大手企業からの引き合いが多く、安定した需要があります。

また、「スカラコミュニケーションズ」で約2年前にエンジニアの採用機能として立ち上げた人財事業部も急成長しており、年間売上はすでに1億〜2億円規模に達しています。

今後、さらなる拡大を見込んでいます。

一方、官民共創の領域では、地方創生事業の展開を加速させています。

日本全国で地方創生が重要な課題となる中、当社は自治体向けのSaaS事業を強化しています。

2022年には、鳥取県米子市のIT企業「エッグ」を買収し、自治体とのパイプラインを確保しました。

BtoB向けSaaSで培ったノウハウを活かし、BtoG(Business to Government)向けSaaSの開発を進め、DXの力を行政にも広げていきます。

スカラの事業概要と特徴

概要

当社は「DX × 人材 × 官民共創」を事業の軸に据え、SaaSやソリューションを提供しています。

取引先は大企業を中心に幅広く、様々な業界の悩み・社会課題を解決するために、新たな事業を開発しています。

株式会社スカラ 2025年6月期 第2四半期決算説明資料 より引用

事業における優位性

SaaS事業を基盤としたソリューション展開

当社は、BtoB向けSaaS事業で築き上げたストック型収益を強みとしながら、クライアントのあらゆる課題に対してソリューションを提供しています。

SaaSを導入することで得た顧客の信頼を基盤に、ソリューション型のプロジェクトを受注するビジネスモデルを展開しています。

現在、当社の取引先は拡大を続けており、特に大規模案件の受注が増加傾向にあります。

こうしたIT需要の拡大に伴い、国内の企業では優秀なエンジニアの人手不足が大きな課題となっています。

そこで、当社は「スカラコミュニケーションズ」の人財事業部によるエンジニア採用を強化し、自社内で社内リソース調整と外部派遣の両方を担うリソースを確保する仕組みを構築しました。

単に人材を確保するだけではなく、待機コストを最小限に抑える仕組みを整えています。

たとえば、採用した社員がすぐにクライアント案件にアサインされない場合でも、社内のプロジェクトに参加させたり、別の案件に配置したりすることで、効率的なリソースコントロールを実現しています。

さらに、多様な案件に関わることで社員自身のスキル向上にもつながるため、社員の成長と企業の利益が両立する形となっています。

「ソーシャル・エックス」による官民共創の推進

官民共創事業にも注力しており、その中でも特に力を入れているのが当社グループの「ソーシャル・エックス」による社会課題解決型の新規事業創出支援です。

この事業では、自治体向けのコンサルティングを展開しており、東京都や群馬県をはじめとする自治体や内閣府沖縄総合事務局をはじめとする官公庁からスタートアップ支援プログラムの運営を受託・連携しながら、スタートアップの発掘と成長支援を行っています。

また、最近では三菱UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行とのアライアンスを通じて、スタートアップのソーシングや支援事業を受託するケースも増えており、金融機関との連携を強化しながら、より大きな社会的インパクトを生み出せる事業へと成長を続けています。

実際に、三菱UFJ銀行・三菱UFJ信託銀行とのアライアンスにおいては、ふるさと納税を活用したクラウドファンディングスキームも新たに導入し、個人や企業からの寄付を優秀なスタートアップへの出資につなげる取り組みを進めています。

株式会社スカラ 2025年6月期 第2四半期決算説明資料 より引用

カスタマイズ性の高いSaaSによる安定したストック収益

当社最大の強みの一つは、安定的なストック収益を生み出すSaaS事業です。

一般的なSaaSサービスは、標準化されたパッケージが多く、個別のカスタマイズには対応しにくい傾向があります。

しかし、当社のSaaSは基盤となる「太い幹」の上に、クライアントごとのニーズに応じた「枝葉」を追加できる柔軟な設計になっています。

このカスタマイズ性の高さが、金融業界や大手企業など、高度なシステム要件を求める顧客層から高く評価されています。

大規模案件の受注と拡大

当社の取引先の中でも、特に金融業界との取引が多いことが大きな強みです。

都市銀行(メガバンク)、地方銀行、生命保険会社、損害保険会社、クレジットカード会社、証券会社など、金融機関向けのSaaSサービスを長年提供してきた実績があります。

金融業界は高い信頼性が求められる業界ですが、当社は長年の実績と品質の高さを武器に、堅実に事業を展開してきました。

その結果、SaaSサービスの提供を通じて築いた信頼関係を活かし、大規模なシステム導入やコンサルティング案件の受注へとつなげることができています。

たとえば、SaaSサービスの月額契約は20万〜30万円規模が中心ですが、これを起点にクライアントとの関係を強化し、ソリューション型のプロジェクトでは3,000万〜5,000万円、場合によっては1億〜2億円規模の案件を獲得するケースも増えています。

このように、ストック型のSaaS収益を基盤にしながら、ソリューション事業でより大きな収益を生み出すビジネスモデルを構築できていることが、当社の競争優位性の一つです。

スカラの成長戦略

市場環境とポジショニング

当社が属するDX市場は引き続き拡大を続けており、それに伴い競合も増えています。

市場の成長に伴ってプレイヤーが増加する中、当社としてはいかに差別化を図るかが重要な課題となります。

カスタマイズ可能なBtoB、BtoG SaaSを数多く創出し続け、多くの顧客のDXを実現させていく、そして優秀なIT人材が多数集い、社内外のプロジェクトに参画し、自身の能力がどんどん発揮できるような会社を目指します。

こうしたモデルを参考にしながら、当社もIT人材の確保・育成に力を入れる方針です。

日本では人口減少が進む一方で、IT人材の需要は高まっています。

当社グループには、「スカラコミュニケーションズ」や「アスリートプランニング」といった人材採用・育成のノウハウを持つ企業があるため、これらの強みを活かしながら、IT人材事業の価値をさらに高めていく計画です。

また、DXや地方創生の推進に伴い、官民共創コンサルティングを手がける「ソーシャル・エックス」の役割もますます大きくなっています。

今後、官民連携のプロジェクトが増加する中で、当社が果たすべき役割はさらに重要になってくると考えています。

IT × 人材のシナジーによる成長

これはまだ構想段階ですが、当社はITと人材のシナジーを最大限に活かすことで、新たなビジネスを生み出せると考えています。

たとえば、現在の大学生や就職活動中の人材の多くは、ITリテラシーが十分とは言えません。

そこで、ITスキルを向上させる教育サービスを提供することで、企業に入社する時点で高いITリテラシーを持つ人材を輩出できるのではないかと考えています。

また、IT人材の育成機関を設立し、アカデミックな教育と実務経験を組み合わせた仕組みを構築することも検討しています。

現在、座学形式のIT教育プログラムは多数ありますが、実践的な研修やOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の機会はまだまだ限られています。

当社のようなIT企業が育成機関を持つことで、現場に即した実践的なスキル習得が可能になります。

たとえば、実際のプロジェクトに参加することで、プロジェクト管理ツールの活用経験、Slackやチャットツールを使った社内コミュニケーションといった実務に直結するスキルを身につけることができます。

こうした「ツールに慣れる」経験も、ITリテラシー向上に貢献すると考えています。

さらに、学生が実際のプロジェクトを体験できるプログラムを提供することで、社会に出る前にIT業界の実態を知る機会を作ることも可能です。

こうした取り組みを通じて、IT人材の育成と業界全体の発展に寄与できるのではないかと考えています。

M&AとPMIについての考え方

当社は、今期中に事業構造改革を完了させ、来期以降に向けてM&Aを実施する予定です。

対象とするのはITまたは人材分野でシナジーが見込まれる企業であり、現在、具体的な候補企業のピックアップを進めています。

当社は、これまでM&Aを活用して成長してきた企業であり、M&Aは重要な成長戦略の一つです。

ただし、単なる企業買収ではなく、「仲間集め」という意識で、一緒に成長できる企業をグループに迎え入れることを重視しています。

また、M&A後のPMI(Post-Merger Integration:買収後の統合プロセス)においては、現場の意向を尊重する姿勢が非常に重要だと考えています。

M&Aの現場では、買収された企業の社員は突然の環境変化に不安を感じやすくなります。そのため、親会社側が「これをやれ」「あれをやれ」と一方的に指示を出すのではなく、伴走型の支援を行うことが、PMI成功の鍵となります。

実際、M&Aはトップ同士の決定で進むことが多く、現場の社員にとっては寝耳に水というケースも少なくありません。

そのため、当社では企業としてのルールや価値観を押し付けるのではなく、買収先の社員とともに歩む姿勢を貫いています。

注目していただきたいポイント

当社の成長戦略において、特に注目すべきポイントは「SaaS事業の再強化」「IT人材派遣および新卒採用支援の拡大」「官民共創・地方創生の推進」の三つです。

まずSaaS事業の再強化についてですが、ここ5年間、新たな投資がほとんど行われていませんでした。

そのため、システムの再強化を最優先課題としています。

AIやデータ活用を活かした新サービスの開発、企業向けDX支援サービスの拡充を進め、単なるSaaS提供にとどまらず、DX全般を支援するサービスへと進化させます。

また、「スカラコミュニケーションズ」では、エンジニアの育成・派遣を行う人財事業部を展開していますが、これをさらに拡大し、IT人材の育成および派遣事業を強化します。

そして、「アスリートプランニング」で進めている体育会系学生に特化した新卒採用支援の対象を広げ、東京・大阪・名古屋だけでなく、全国の主要都市にも展開していきます。

最後に、官民共創の分野では自治体向けの新規プロジェクトの企画・推進、SaaSサービスの開発、ふるさと納税関連サービスの拡充、地域活性化支援の強化を進めます。

地方創生がますます重要視される中、官民共創を軸としたソリューション提供を拡充し、自治体と企業の橋渡しを担う存在を目指します。

これら三つの柱を軸に、スカラはさらなる成長を遂げていきます。

投資家の皆様へメッセージ

スカラグループは、これまで培ってきた技術力と実績を活かし、安定したストック型収益を基盤にしながら、新たなビジネスモデルの創出に挑戦しています。

特に、官民共創のノウハウを活かした地方創生や、IT人材の育成・活用による新たな事業展開は、当社の強みを最大限に活かせる領域です。

市場環境が大きく変化する中でも、柔軟かつ戦略的に成長を続け、社会に貢献できる企業でありたいと考えています。

今後も、既存事業の強化と新規領域の開拓を進め、企業価値の向上に努めてまいります。

投資家の皆様のご期待に応えられるよう、さらなる成長を目指して挑戦を続けていきますので、今後の展開にぜひご注目ください。

株式会社スカラ

本社所在地:〒150-8510 東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ32F

設立:1991年12月11日

資本金:1,794,446,000円(2024年12月末時点)

上場市場:東証プライム市場(2014年12月17日上場)

証券コード:4845

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「資産運用ナビ」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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