※本コラムは2025年3月3日に実施したIRインタビューをもとにしております。
ニッポンインシュア株式会社は不動産管理会社としてのノウハウを活かし、様々な保証サービスを提供しています。
代表取締役社長の坂本 真也氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
ニッポンインシュア株式会社を一言で言うと
「地域社会の進歩・発展に貢献する」保証会社です。
ニッポンインシュアの沿革

創業の経緯
当社は2002年に設立しましたが、最初から家賃債務保証事業を手がけていたわけではありません。
もともとは「エム・サポート」という社名で、建築コンサルタント業を営んでいました。
建築コンサルタント業を選んだ背景には、賃貸管理会社が管理物件を増やしていく際、建築の段階から関与することでスムーズに管理を拡大できるという考えがありました。
賃貸市場の発展を見据え、建築と管理の連携を強化することが重要だと考えていたのです。
その後、時代の流れとともに、福岡の大手不動産管理会社である三好不動産の家賃管理業務を請け負うようになり、2006年からは専門の人員を配置して業務を本格化させました。
そして、2008年には家賃債務保証事業をスタートさせました。
家賃債務保証業務を拡大
2012年に三好不動産以外の会社とも取引を開始したことは、当社にとって大きなターニングポイントとなりました。
これをきっかけに、事業の幅を広げながら、より多くの不動産管理会社様やオーナー様にサービスを提供できるようになりました。
それに伴い、拠点の拡大にも力を入れてきました。
直近では2024年3月に名古屋にも拠点を開設し、現在は福岡、神奈川、東京、大阪、新潟、仙台、名古屋の7拠点で事業を展開しています。
今後もさらなる拡大を視野に入れ、より多くのエリアで家賃債務保証サービスを提供していきたいと考えています。
DX化への積極的な対応
また、近年、不動産業界全体でデジタル化が進む中で、当社も積極的にオンライン化を推進しています。
具体的には、電子署名の導入やオンライン申込のシステム化を進めることで、契約手続きの利便性を向上させました。
それに加えて、社内業務にも新しいシステムを導入し、業務効率化を図っています。
これにより、コストの削減やリスクの低減にもつなげています。
不動産業界は「なかなかDXが進まない」と言われています。
実際、私自身が前職で不動産管理会社に勤めていた際も、紙の書類が非常に多く、昔ながらのアナログな業界だと感じていました。
オンライン申込やIT重要事項説明の試験運用が行われたこともありましたが、当時はまだ浸透しきれていませんでした。
しかし、コロナ禍を経て、業界全体の環境は大きく変わりました。
来店の方法や顧客対応の在り方が見直され、デジタル技術の活用が進んだことで、オンラインでの契約手続きやリモート会議などが一気に普及しました。
当社も、社内の会議の進め方を見直し、少子化による労働力不足の問題も踏まえながら、システムを活用した業務効率の向上に取り組んでいます。
変化の激しい時代だからこそ、業界の動向を敏感に捉え、柔軟に対応していくことが求められます。
当社は、これからも家賃債務保証業務の拡大とデジタル化の推進を両立させながら、より良いサービスを提供していきたいと考えています。
上場とその後
当社が上場を目指すことを決めたのは、私が入社して1年後の2019年のことでした。
ちょうど2020年に民法改正があり、連帯保証人に関するルールの変更に伴って家賃債務保証業の需要がさらに高まると業界内で予測されていました。
そこで、社内で「今後ニッポンインシュアをどのように成長させていくか」を議論し、いくつかの方向性を検討しました。
具体的には、現状の延長線上で成長を続ける、M&A(企業買収・合併)を行う、上場を目指す等の方向性です。
当時、当社は出店地域も限られており、業界内では後発組という立場でした。
規模も決して大きくはなく、競争の激しい市場の中でどのように成長していくかが課題でした。
しかし、家賃を扱う事業である以上、「信用力の確保」が何よりも重要です。
より多くの不動産管理会社様やオーナー様に安心してご利用いただくためには、社会的信用を高める必要があると考え、上場を目指すことを決断しました。
そこから約4年の準備期間を経て、2023年10月に上場を実現しました。
この過程では、社内のガバナンス体制を整え、業務の透明性を高めることに注力しました。
そして上場後は、株主をはじめとするさまざまなステークホルダーの意見を受ける立場となり、「自分たちだけのために仕事をしているのではない」という意識が社内に根付いたと感じています。
これにより、適度な緊張感を持ちつつ、より一層業績拡大に向けた取り組みを進めるようになりました。
また、上場による影響は採用面にも表れており、「面接に来る応募者の質が向上した」という声が現場から出てきています。
さらに、新規の取引先開拓においても、「上場企業であることが信頼の証となり、取引がスムーズに進むようになった」というメリットを実感しています。
とはいえ、上場したからといって、信用力が自動的に向上し、仕事が次々に舞い込むわけではありません。
むしろ、より高い基準での業務遂行が求められます。
今後もこれまでと同様に、新規開拓や既存顧客のフォローに全力を尽くしながら、成長を続けていきたいと考えています。

ニッポンインシュアの事業概要と特徴
概要
当社は、家賃債務保証サービスを中心とした保証事業を展開しています。

主力となるのは、家賃債務保証サービス「スマートサポート」です。
このブランド名のもと、不動産管理会社様や入居者様の安心を支える保証サービスを提供しています。
収益の柱となるのは、申込者からいただく保証料です。
仕組みとしては、入居希望者が不動産会社を訪れ、希望する物件に申し込む際、審査を経て保証契約が必要になります。
その際、当社と「保証委託契約」を締結し、保証料をお支払いいただくことで、保証サービスが適用されるという流れです。
また、当社は不動産管理会社とも契約を結んでおり、入居者の契約手続きが完了した時点で保証サービスがスタートします。
万が一、入居中に家賃の滞納が発生した場合は、管理会社から報告を受け、当社が立て替え払いを実施しています。
その後、滞納者に対して督促を行い、未払い分の回収を進めていきます。
当社の家賃債務保証には、「一般保証型」と「支払委託型」の2種類があります。
「一般保証型」は、入居者が家賃を直接管理会社に支払い、もし滞納が発生した場合にのみ、管理会社から報告を受け、当社が対応するモデルです。
そして、「支払委託型」は家賃の引き落としを当社が代行し、入居者の支払い状況に関わらず、毎月決まった日に管理会社へ送金するモデルです。
もし家賃が引き落とされなかった場合、当社が直接入居者へ請求を行うことで、管理会社の負担を軽減する仕組みになっています。
このように、家賃債務保証を軸に、円滑な家賃回収を支援することが当社の役割です。

そして、この保証の仕組みを応用し、介護費債務や入院費債務の保証事業へも展開しています。
医療での未払いリスクや介護分野での保証人確保問題は大きな課題となっており、新領域として開拓を進めています。
このように当社は、これまで培ったノウハウを活かし、新たな分野での保証サービス提供にも力を入れています。
これからも、不動産業界だけでなく、さまざまな分野で「保証」を通じた安心を届けていきます。
事業における優位性
独自の審査基準と回収の仕組み
当社の家賃債務保証サービスにおける大きな強みのひとつが、独自の審査基準と効率的な回収体制です。
審査に関しては、複数の外部機関のデータベースを活用しながら、独自の基準を適切に運用しています。
詳細はお伝えできませんが、これにより滞納の発生率を抑え、高い回収率の維持につながっていると考えています。
契約件数も堅調に増加しており、現在の審査基準は理想的な形で機能していると判断しています。
また、家賃の回収においては、ノウハウの活用が非常に重要です。
滞納される方を期間ごとに分類すると、最も多いのは「1か月の滞納」となります。
このケースでは、「口座引き落としの手続き不備」や「初回引き落とし時の残高不足」など、一時的な支払い遅延が原因であることがほとんどです。
そのため、この段階で迅速に対応することで、回収率を大幅に向上させることができます。
当社では、システムを活用した通知やリマインドを徹底し、回収のスピードと精度を最大化しています。
一方で、2か月・3か月以上の滞納になると、交渉や訪問といった対応が必要になるため、システムと人の力を適切に使い分けることが重要です。
特に、支払いの意思があるにもかかわらず引き落としができなかった場合、当社からの通知が遅れると次の支払い期日が到来し、支払額が膨らんでしまうケースがあります。
これを防ぐためにも、滞納が発生した際の初動対応を迅速に行うことを徹底しています。
また、審査基準についても常に見直しを行い、2か月・3か月の滞納に至る前に回収できる仕組みを構築しています。
売上を優先しようと思えば、審査を緩くして契約数を増やすこともできます。
しかし、それではリスクが高まり、管理会社様やオーナー様からの信頼にも関わる問題になります。
そのため、当社では「契約数」と「回収リスク」のバランスを重視しながら、堅実な運用を行っています。
これが、当社が長年にわたり高い回収率を維持し、業界内で確固たるポジションを築いている理由のひとつです。
積極的なシステム活用
当社独自の契約管理クラウドシステム「Cloud Insure」は、申し込み手続きや契約処理を効率化するためのシステムです。
これにより、契約のスムーズな進行を実現し、不動産管理会社様や入居者様にとっての利便性を向上させています。
特に、滞納処理の分野ではAIオペレーターやロボットコールを活用し、回収業務の効率化を図っています。
たとえば、従来であれば担当者が個別に対応していた業務の一部を自動化することで、より迅速な対応が可能になりました。
現在は、一人当たりの処理件数を増やしながらも、従業員の増加を最小限に抑える体制を整えているところです。
もちろん、「人を増やさない」わけではありませんが、業務量の増加に対して単純に従業員数を増やすのではなく、テクノロジーを活用して生産性を向上させることを重視しています。
こうした仕組みにより、より少ないリソースで効率よく業務を遂行できる体制を構築しています。
また、ロボットコールに加え、SMSを活用した通知システムも導入し、滞納処理の精度とスピードを向上させています。
従来の電話や郵送に加えて、より迅速に入居者とコンタクトを取る手段を取り入れることで、支払いの遅延を防ぐ効果が期待できます。
とはいえ、すべての業務が完全にシステム化されているわけではありません。
現在も、さらなる業務効率化を目指しながら、社内で検討と改善を続けています。
テクノロジーを活用しながらも、人の判断が必要な部分は適切に残し、バランスの取れた運用を実現することが、当社の強みであると考えています。

不動産管理会社との長期的な取引
当社の大きな特徴のひとつが、長期間にわたる取引を続けている管理会社様が多いことです。
これは、単なる契約関係ではなく、それぞれの管理会社様のニーズに合わせた柔軟な対応を行っていることが大きな要因になっています。
たとえば、カスタマイズ商品の提供を通じて、各管理会社様に最適な保証サービスを提案し、継続的にご利用いただける関係を築いています。
また、当社自身がもともと不動産管理会社からスタートしたという背景もあり、業界内でのコネクションが強いことも特徴のひとつです。
実際に現場の課題を理解しているからこそ、管理会社様と相談しながら取引を進め、単なる保証会社という立場ではなく、パートナーとしての関係性を築いています。
取引先の規模としては、地場の大手管理会社や中小規模の管理会社が中心です。
ただし、一部では全国展開している不動産管理会社とも取引があります。
不動産業界の特徴として、地域ごとに管理会社が存在し、それぞれ独自のネットワークを持っているケースが多くあります。
一方で、保証会社は基本的に全国対応となるため、地域ごとの垣根があまり影響しません。
当社が新しいエリアに展開する際も、いきなりゼロから始めるのではなく、既存の取引先を活用しながら基盤を作るという戦略を取っています。
たとえば、2024年3月に名古屋に拠点を開設した際も、まずは地場の管理会社にサービスを利用していただき、一定の実績を確保したうえで拠点を開設しました。
このように、既存のネットワークを活かしながら、慎重かつ着実にエリア展開を進めているのが当社の強みです。
もちろん、コネクションだけでビジネスが成立するわけではありません。
長期的にご利用いただくためには、管理会社様との信頼関係を深め、継続的に相談し合える環境を作ることが不可欠です。
そのため、当社では、管理会社様の課題に寄り添いながら、共に成長していく姿勢を大切にしています。
これからも、地域に根ざした管理会社様との連携を強化しながら、安定した事業運営を続けていきたいと考えています。

ニッポンインシュアの成長戦略
主要都市への展開
家賃保証業界は競争が非常に激しくなっていますが、当社はこれまで地道にエリア拡大を進めてきました。
そして今後も、主要都市への展開を継続していく方針です。
主要都市を選ぶ理由としては、単に人口が多いというだけでなく、賃料相場が高いため、当社のサービス単価が適切に反映されやすいという点があります。
加えて、たとえば仙台に支店を開設した場合、宮城県だけでなく、福島県やその他の周辺県にも対応を広げていくことで、より広いエリアでの事業展開を実現していきます。
もちろん、全国展開している上場保証会社と比べると、当社のカバーエリアはまだ限定的です。
他社は広範なエリアを網羅している点で強みがあるかもしれません。
しかし、当社の強みは、お客様とのつながりを大切にし、きめ細やかな提案を行うことで、着実に契約を獲得していることです。
不動産管理会社にとって、保証会社の切り替えは決して簡単な作業ではありません。
契約書やシステムの変更、入居者への通知など、負担がかかるため、単に価格が安いからといって乗り換えを決断するわけではありません。
そのため、当社が切り替えていただくためには、管理会社に「切り替えるだけの価値がある」と感じてもらうことが何よりも重要になります。
確かに、当社のエリア展開の規模はまだ大きくありませんし、他の保証会社と比較すると小規模な部分もあります。
しかし、その分、成長の余地は大きいと考えています。
これからも、単なる価格競争ではなく、不動産管理会社にとって本当に役立つ提案を行いながら、少しずつ着実に実績を積み上げていくことを大切にしたいと思っています。
各地域での信頼を築きながら、事業の拡大を進めていきます。

新領域の成長
当社は今後の持続的な成長を見据え、介護費債務保証サービスと入院費債務保証サービスの2事業に注力しています。
これらの事業をスタートさせたのは、2019年、民法改正が決定したタイミングでした。
家賃債務保証とは異なり、介護費債務保証では介護施設が取引先となり、入院費債務保証では病院が取引先となるため、それぞれまったく異なる市場になります。
賃貸住宅の保証事業で培ったノウハウを応用しながら、新たな市場に挑戦しているところです。
しかし、この事業を開始した直後にコロナ禍が発生し、営業活動が一時的に停滞しました。
介護施設や病院からは「外部の訪問は控えてほしい」という要請が相次ぎ、思うように提案ができない時期が続きました。
現在はコロナ禍が落ち着き、営業活動を本格的に再開しています。
そのため、売上規模としてはまだ大きくありませんが、取引件数は徐々に増加してきました。
この市場での課題は、保証会社を利用する文化がまだ浸透していないことです。
賃貸住宅では今や保証会社の利用が一般的になっていますが、介護施設や医療機関ではまだその概念が広まっていません。
そのため、介護施設や病院の関係者に対し、保証サービスのメリットを丁寧に伝え、理解してもらうことが不可欠だと考えています。
「滞納が発生した際にスムーズに回収できる」「施設側が未回収リスクを負わずに済む」といった具体的な利点を伝えながら、少しずつ導入を進めていく方針です。
賃貸住宅の保証と同じように、介護や医療の現場でも保証が当たり前のものになるよう、市場の意識を変えていくことが私たちの使命だと考えています。
これからも、新しい分野での保証サービスの可能性を広げながら、安定的な成長を目指していきます。

注目していただきたいポイント
保証業界において差別化を考えたとき、当社の大きな特徴として挙げられるのが、上場企業の中で唯一、不動産管理会社から生まれた保証会社であること、これが当社の強みにつながっています。
不動産管理の現場を知り尽くしているからこそ、管理会社や入居者が抱える課題を深く理解し、それに対応した実用的な保証サービスを提供できるのです。
確かに、規模感では他の保証会社と比べてまだ小さく、業界の中でも後発の企業です。
しかし、当社は何でも手を広げるのではなく、自社の強みを活かしながら、着実に成長し、市場でのシェアを拡大しています。
当社がエリアを着実に拡大しながら事業を伸ばし続けていることに注目していただきたいと思います。
投資家の皆様へメッセージ
当社は、不動産管理会社から生まれた強みを活かし、家賃債務保証を中心に、安心と信頼のサービスを提供しています。
現在、日本社会では人口減少や少子高齢化が進み、それに伴い賃貸業界では空室の増加、高齢化、連帯保証人の確保といった課題が深刻化しています。
こうした環境の変化に対応するためには、不動産管理会社とともに解決策を見出し、業界全体の発展に貢献していくことが重要です。
当社は、保証サービスを通じて、管理会社様や入居者様が直面する問題に寄り添いながら、より安心できる賃貸市場の実現を目指しています。
また、デジタル技術の活用にも積極的に取り組んでいます。
業務の効率化を進めることで、リスクや経費の削減を実現し、企業としての成長につなげていきます。
これからも、社会の変化に柔軟に対応しながら、持続的な成長を目指してまいります。
投資家の皆様にとっても、長期的な視点でご期待いただける企業であり続けられるよう、努力を続けてまいりますので、今後とも変わらぬご支援をよろしくお願いいたします。
ニッポンインシュア株式会社
本社所在地:〒810-0001 福岡県福岡市中央区天神二丁目14番2号 福岡証券ビル6階
設立:2002年4月10日
資本金:347,564,000円(2024年9月末時点)
上場市場:東証スタンダード市場(2023年10月3日上場)
証券コード:5843