【4462】石原ケミカル株式会社 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2025年3月11日に実施したIRインタビューをもとにしております。

石原ケミカル株式会社は界面化学の技術をコアとして「表面の機能を創造する」をコンセプトに、「研究開発型企業」として「三つの開発」を企業理念に掲げ、新製品による市場開拓を進めています。

代表取締役社長の藤本 昭彦氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

石原ケミカル株式会社を一言で言うと

化学を用いて社会に貢献する「研究開発型企業」です。 

石原ケミカルの沿革

石原ケミカル株式会社代表取締役社長 藤本 昭彦氏

創業の経緯

当社は1900年に創業しました。

現在の本社は神戸市兵庫区にありますが、もともとはこの地域にあった「石原永壽堂」という会社が始まりです。

創業当時は薬局業を営む傍ら、工業用品や医薬品なども取り扱う卸売業としてスタートしました。

神戸という地域には、海沿いに造船や重工業メーカーが数多く立地しており、その地理的な特性が当社のビジネス成長に大きな影響を与えました。

高度経済成長の波に乗り、工業薬品の需要が急激に拡大していったのです。

これに伴って、当社の業態も次第に工業薬品の卸売へと変化していきました。

そんな中、三代目社長の石原三郎がアメリカを訪問した際に、ある運命的な出会いがありました。

現地で見つけた商材をいくつか日本へ持ち帰ったのですが、そのひとつが「シリコン」でした。

このシリコンを何かに活かせないかと検討を進めた結果、光沢剤としての可能性に気がついたのです。

そして開発されたのが、楽器や家具向けの艶出し剤「ユニコン」でした。

ユニコンは日本の大手メーカーから高い評価を得て採用され、当社が本格的に化学品メーカーとして歩みを進める基礎を築いたのです。

これは、1953年のことでした。

事業領域の拡大

その後も、当社のケミカル分野で事業領域を大きく発展させていきました。

日本国内での自動車生産と販売が本格的になり始めた、1959年に自動車用の液体ワックスを開発したのです。

これが非常に好評で、自動車業界向けのワックス供給メーカーとしての地位を確かなものにしました。

さまざまな用途での経験を積むうちに、次第にめっき技術にも着目するようになりました。

そこから生まれた製品が、電子部品の光沢スズめっき、光沢はんだめっき用添加剤「ユニコン ティンブライト」です。

この製品が業界で高く評価され、メーカーとしての基盤がさらに強化されました。

こうした経緯から、当社は電子関連、自動車など、表面加工技術を中心に事業を拡大し、関連する領域にも着実に展開してきました。

さらに、1970年代後半にはアメリカのコーニング社と提携し、機械加工が可能なセラミックス素材「マコール」の輸入販売を開始しています。

メーカーとして事業を拡大するに伴い滋賀県に滋賀工場(高島市)を開設し、生産能力の拡大にも取り組みました。

また最近では、2019年に樹脂などへの装飾めっき薬品を手掛けるキザイ株式会社をグループに迎え入れ、事業領域をさらに広げています。

そして、祖業である工業薬品事業においては、創業時からのお客様との取引を拡大しつつ、新しいお客様も開拓し、取引先及び商流の拡大を継続しています。

このように、私たち石原ケミカルは120年以上にわたって時代の変化に柔軟に対応しながら、「メーカー」と「商社」の両方の強みを活かし、幅広く事業を展開してきました。

石原ケミカル株式会社 2025年3月期 第2四半期 決算説明会資料及び中期経営計画 より引用

石原ケミカルの事業概要と特徴

概要

当社は約120年にわたり培ってきた「界面化学」の知見をベースに、自社での研究開発から製造、そして産業界への販売までを一貫して手掛けています。

販売面では、取引先となる業界ごとにそれぞれの商流を構築しています。

現在は主に「電子関連」「自動車用品」「工業薬品」という3つの分野で展開しています。

まず、当社の主力である電子関連分野では、金属表面処理薬品(めっき液など)を電子部品や半導体メーカー、プリント基板メーカーに販売しています。

これらの製品は、パソコンやスマートフォン、テレビ、自動車など、さまざまな製品に搭載される半導体部品の製造工程で広く使われています。

また、機能材料加工品の加工販売も行いメーカーに供給しています。

次に、自動車用品分野では、自社ブランド「ユニコン」の製品に加え、国内自動車メーカーのOEM供給品を全国各地の自動車ディーラーに向けて展開しています。

当社の戦略としては、一般のカー用品量販店向けの製品ではなく、業務用途に特化したプロ向けの製品販売を行っています。

工業薬品分野では、鉄鋼メーカーや重工業メーカーといったお客様に対して、必要な化学薬品を仕入れ、安定的に供給するという商社機能を担っています。

さらに、国内だけではなく、グローバル市場への展開も積極的に進めています。

中国やタイ、台湾にも現地拠点を設け、アジア地域のニーズにも迅速に対応し、新規顧客の開拓にも取り組んでいます。

石原ケミカル株式会社 2025年3月期 第2四半期 決算説明会資料及び中期経営計画 より引用

事業における優位性

技術開発力とアフターフォロー

当社の強みは、高い技術開発力ときめ細かなアフターフォローです。

製品開発を進める際は基本的にお客様のニーズに基づいて進めていきます。

最終的に製品を実際に使用されるのはお客様自身ですから、お客様の現場を定期的に訪問し、直接ニーズを把握することが何よりも重要です。

私たちの事業は専門性の高い分野に特化しているため、現場の細かな声を拾うためのアフターフォローは欠かせません。

積極的に現場を訪れ、お客様の抱えている課題や、「次はこういった製品が欲しい」という要望を的確に収集しています。

そのご要望を開発テーマに反映し、新たな製品を研究・開発して、再びお客様に提案するという流れを作っています。

このサイクルを支えるため、当社は売上の約10%を研究開発費に投資しています。

また、社員に占める研究員の割合が約3分の1という点も、当社の強みを物語っているのではないでしょうか。

このように、お客様と一体となって製品を作り上げていくという姿勢が、当社の特徴であり、他社との差別化要素になっています。

石原ケミカル株式会社 より提供

高付加価値製品で高いシェア

当社の技術や製品は、高い専門性を背景に特定の分野でシェアを高めてきた歴史があります。

その積み重ねにより、電子部品用の錫めっき液では、現在、国内トップシェアを獲得するまでに成長しました。

自動車用のケミカル分野においても、多くの製品はディーラーや整備工場向けに展開しており、主力のエアコン洗浄剤はメーカー純正品として多くの国内自動車メーカーに採用されています。

このため価格競争に巻き込まれにくく、高い利益率を維持しています。

ただ、最近はグローバル化が進んだことで、市場が拡大し、求められるニーズや技術も急速に変化してきました。

その結果、従来の枠組みを超え、新しい領域への商品展開が求められるようになってきました。

現場では、お客様から次世代のテーマを頂いており、

そのような新しい要望に応えた付加価値の高い新製品を生み出し続けています。

このような事業活動を通じて、常に新しいニーズや技術への対応と創造を繰り返し、事業領域の拡大を図って行きたいと思います。

社員一人一人のスキルの高さと教育体制

最後に、社員一人ひとりのスキルの高さと、それを支える教育体制も大きな強みだと思っています。

当社は幅広い製品群を取り扱うのではなく、専門分野に特化している企業ですから、営業や研究開発、アフターフォローの各分野で、深い専門知識が求められます。

そのため、社員一人ひとりが高度な知識を持ち、お客様の信頼を獲得しています。

新入社員が文系出身の場合は主に営業職に配属されますが、当社の製品はケミカル品のため、部門によっては長い期間をかけて研修を行います。

特に高度な電子関連分野の製品に携わる場合は半年ほどかけて基礎知識を学び、独り立ちできるようサポートしています。

理系出身の社員も、最初の数ヶ月は研究部門での研修を通じて、当社独自の技術や製品をしっかりと学びます。

また、私たちの経営理念には「三つの開発」という考え方があります。

「自己の開発」「商品の開発」「市場の開発」という三要素です。

最初にこの「三つの開発」を聞いた時、これらをそれぞれ別のものと捉えがちです。

しかし、これらは相互に結びついていると考えています。

自己の成長があってこそ新しい製品を生み出すことができ、その製品が市場で拡大していくことにより、新たな市場を開拓できるのです。

この理念は社内全体に浸透しており、社員一人ひとりが主体性を持って働く原動力にもなっています。

現在、単体で約230名、連結で約270名が在籍していますが、この規模だからこそ、自分たちで主体的に仕事を進めることができます。

一人ひとりが自ら考え、主体的に行動できる環境こそが、当社の競争力の源泉であると私は考えています。

石原ケミカル株式会社 より提供

石原ケミカルの成長戦略

中期経営計画

まず、現在進めている中期経営計画に関してですが、隣接分野、新地域への参入によりプラスアルファ売上を創造することを掲げております。

近年では新しい技術が誕生すると、以前のように時間をかけて拡大するのではなく、一気にグローバル市場を席巻していく時代になってきています。

そのため、当社もこれまで培ってきた技術とノウハウを最大限に活かし、既存事業の成長を加速させるとともに、「新製品の開発」「隣接分野への参入」、そして「新エリア・海外への参入」という戦略を着実に進めていきます。

石原ケミカル株式会社 2025年3月期 第2四半期 決算説明会資料及び中期経営計画 より引用

既存事業の成長加速

まず主力事業である金属表面処理剤は、電子部品・半導体分野の市場環境が良好であり、当社にとって追い風の状況です。

そのため、私たちが持つ研究開発力を最大限に活用し、付加価値の高い新製品を市場に投入することで、さらなる成長を目指します。

たとえば電子部品業界では、データセンター投資の活発化や高性能半導体の量産化拡大に伴い、先端半導体向けの高機能なめっき液の販売が好調で、新規顧客の獲得も順調に進んでいます。

また自動車分野においても、全国のカーディーラーに向けてエアコンクリーナーの販売を拡大するとともに、新たに車室内消臭抗菌剤やコーティング剤など、新製品を積極的に投入し、市場の拡大を図っています。

新製品の開発

次に、新製品の開発については、引き続き電子関連分野、自動車用品分野において、付加価値の高い新製品を開発し市場投入していく方針です。

特に金属表面処理剤は、近年急速に超微細化・高密度化が進む半導体・半導体パッケージへの技術対応が求められています。

当社では次世代のニーズに対応した、スズめっき液の開発はもちろんのこと、銅めっき液の開発・市場投入も進めております。

直近では、粒子径や物性を制御した、銅をナノレベルまで小さくした銅ナノ粉の製造技術を開発しました。

銅は導電性、放熱性、抗菌性に優れた金属であり、当社が開発した銅ナノ粉は様々な用途での活用を見込んでいます。

たとえば、銅ナノ粉をインク状にした銅ナノインクを使って、印刷による回路形成が可能になり、現在、具体的に量産へ向けたテストをお客様と進めております。

その他にも、パワーデバイスの放熱用途での活用など、多方面から問い合わせを頂いております。

この銅ナノ粉の新規電子材料の事業化を加速させたいと考えています。

隣接分野への参入とM&Aの方針

そして、隣接分野への参入についても、積極的に進めていきます。

ただ、新しい市場への進出には様々なハードルがあり、難易度によってはM&Aを選択肢の一つとして検討しています。

特に、ターゲット市場に技術面や経営面で高い参入障壁がある場合は、M&Aによってスムーズな事業拡大を図る方針です。

現在進めているキザイ株式会社の統合(PMI)は、まさにその取り組みの第一歩です。

当社にとって初めての経験なので、試行錯誤もありますが、お互い共通する分野の企業同士ですので、一方的に「石原ケミカルのやり方に合わせろ」ということではなく、相手企業の良い部分を尊重し、お互いの強みを融合させていくことを大切にしています。

現在も双方で意見を出し合いながら、新しい価値創造の可能性を模索しています。

海外における競合の存在

金属表面処理剤の分野では、アメリカの大手化学メーカーとのグローバルな規模での競争が激しくなっています。

また日本国内でも、直接の競合というわけではありませんが、同じ業界内で海外に積極的に進出し、現地に拠点や工場を設立している企業も少なくありません。

そのため、海外に競争相手がまったくいないということは、まずありません。

そうした中、当社として重要視しているのは、現地市場のマーケティングを徹底的に行い、「どの地域で、どのような戦略を取って、どのように収益を生み出すか」というポイントを明確にした上で事業展開を進めていくことです。

また、自動車用化学製品についても、昔と比べ、ASEAN等の地域でも多くの自動車が販売されており、それに伴いカーケア用品の需要も高まってきていると感じております。

そのような状況の中で、日本製の製品を単純に輸出するだけではコスト面で競争力が低下してしまいます。

ですので、現地市場の特徴をしっかり見極めた上で、「どのように差別化を図るか」、「日本で評価されている製品をそのまま展開すべきか、それとも現地の仕様に合わせた製品を開発するべきか」といった点を慎重に検討し、さまざまな要素を踏まえながら最適な戦略で海外展開を進めていく方針です。

新エリアへの参入

新たなエリアへの参入に関しては、これまで基盤を築いてきた東アジアを中心に、徐々に拡大していく予定です。

まず中国ですが、もともとは当社が直接営業活動を行いながら現地のお客様を徐々に増やしてきました。

成長が続く中国市場においてより一層の市場開拓を達成するため、中国に現地法人を設置したという経緯があります。

また台湾については、電子部品業界の大手企業が多く集積している地域です。

そのため、現地のお客様と密接に取引を行うには物理的に近くに拠点を構える必要があり、台湾への進出を決めました。

ASEAN市場に関しては、10年以上前にタイに駐在所を設け、そこを拠点に事業展開を進めてきました。

将来的にはASEANを中心とした電子部品業界の生産動向を見極めながら、タイを中心に周辺エリアへ広く展開する可能性もあります。

ただ、最近は地政学リスクや国際情勢の変化が非常に激しいため、外部環境の変化をしっかりと見極めながら、柔軟に対応し、着実に海外事業を拡大していきたいと考えています。

注目していただきたいポイント

ここまでお読みいただいた方は、当社が120年以上の歴史を持ち、高い技術に裏付けされた、開発力でしっかりと収益を上げている企業であることを感じていただけたかと思います。

もちろん、これからもそれぞれの事業分野をさらに成長させていく方針に変わりはありません。

今後当社がさらに発展していく上で必要になることは「知名度の向上」だと考えています。

社名に「ケミカル」と入っていますので、どうしても化学メーカーや理系企業というイメージが先行し、文系の学生さんなどから敬遠されてしまう場面も少なくありません。

取引先企業や業界関係者の方々の間では「石原ケミカルさん」、「石原さん」やブランド名の「ユニコンさん」と呼ばれ、一定の認知度をいただいているのですが、個人の投資家や学生さんの反応を見ていると、「まだまだ社名が浸透していないな」と感じることが多いのが現状です。

そこで、私たちも少しずつですが、企業の認知度を高める取り組みを始めています。

たとえば、駅構内に企業看板を設置したり、一昨年、阪神タイガースが優勝した際にはパレードに企業看板を出したり、多くの方の目に触れるようなプロモーションを行いました。

今後もさらに多くの方に「石原ケミカルって面白い会社だな」と感じていただけるように、PR活動を積極的に行っていきたいと考えています。

ぜひ、私たち石原ケミカルという会社を知っていただければと思います。

投資家の皆様へメッセージ

当社はここ数年、安定的に増収増益を続けており、それに伴って株主の皆様への配当も増やしてまいりました。

株主還元策として自社株買いも積極的に実施しています。

これからも安定的な成長を目指し、さらなる発展を遂げていく方針です。

石原ケミカル株式会社 2025年3月期 第2四半期 決算説明会資料及び中期経営計画 より引用

先ほどもお話ししましたが、私たちは「研究開発型企業」として、「三つの開発」という考え方を経営の軸に据えています。

特に現在取り組んでいる金属表面処理剤や半導体・電子部品関連の業界は、技術革新が非常に速く、それに対応できる高い技術力と優秀な人材が不可欠です。

当社はまさにその両方を持っており、それが継続的な増収増益という結果に結びついていると考えています。

今後も最先端の技術開発を続け、市場の変化に柔軟に対応しながら、さらなる企業価値の向上を目指してまいります。

ぜひ、石原ケミカルという会社に興味を持っていただき、投資対象としてもじっくりご検討いただければ大変嬉しく思います。

石原ケミカル株式会社

本社所在地:〒652-0806 兵庫県神戸市兵庫区西柳原町5番26号

設立:1939年3月3日(創業:1900年4月)

資本金:1,980,874,000円(2024年3月末時点)

上場市場:東証プライム市場(1991年11月28日上場)

証券コード:4462

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「資産運用ナビ」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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