※本コラムは2024年5月27日に実施したIRインタビューをもとにしております。
フィード・ワン株式会社は配合飼料の製造を通じて世界の「食」を支えています。
代表取締役社長の庄司 英洋氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
フィード・ワン株式会社を一言で言うと
畜水産現場の価値向上のため生産者と真摯に向き合い、「食」の未来を創造する会社です。
フィード・ワンの沿革
創業の経緯
当社は日本配合飼料と協同飼料という2つの会社が2015年に統合してできた会社です。
特に日本配合飼料は1929年に創業したので、旧社から数えるとまもなく創業100年になります。
統合前は業界シェアが4位と5位であったため、競争の激しい飼料業界での生き残りに危機感を抱いていました。
そこで両社の強みを活かして、成長したいと考えたことが統合のきっかけです。
統合による事業基盤の確立
配合飼料業界は装置産業であることから、生産量を増やすほど固定費を低減することができます。
統合したことにより商系メーカーの中で業界シェアNo.1となったことから、そのようなスケールメリットを大きく発揮することができました。
具体的には、生産設備の統合・分業体制の確立・工場の省力化などによる生産効率の向上、仕入面においてもスケールメリットを活かした有利購買で、収益力の改善に寄与しました。
さらに業界シェアNo.1となったことで社員の自信を高めることもでき、現在は統合時に思い描いていた姿を実現し、配合飼料業界のリーディングカンパニーへと成長したと自負しています。
フィード・ワンの事業概要と特徴
概要
売上の8割以上は畜産飼料事業です。
当社は畜産飼料を370万トン(2023年度)生産し、市場の約15%のシェアを持っています。
その中でも、養牛用・養豚用・養鶏用の割合はそれぞれ約3割ずつで全国各地に販売網を構築しています。
このように畜種や地域の偏りが無く非常にバランスの取れた事業ポートフォリオが畜産飼料の強みです。
そして残りの売上は水産飼料事業と食品事業が占めています。
水産飼料の生産量は約10万トン(2023年度)で、市場の約18%のシェアを持っています。
主にブリ用とマダイ用が中心で、世界的な魚粉価格の高騰により業績が厳しい時期もありましたが、2023年度は黒字に回復しました。
食品事業においては、主に豚肉や鶏卵などの仕入・販売・生産・加工を行っています。
当社の飼料を購入していただいているお客様から仕入れた生産物(約10%)を加工し、付加価値をつけて販売しています。
事業における優位性
飼料業界トップクラスのシェア
当社は畜産飼料の販売数量を着実に伸ばし、商系メーカーの中では業界No.1のシェアを誇っています。
このシェアを維持できている理由は、当社のお客様の高いニーズに応えるサービスと商品力にあると考えています。
この業界においても人材の確保は重要な課題の一つです。
お客様から「生産性を高めるための指導をして欲しい」「飼育成績を上げて欲しい」などというような具体的な提案を求められた場合には、より専門的な能力の高い人材が必要だと考えています。
当社には学生時代に畜産・農業経済などを学んできた優秀な人材も多く入社するため、業界No.1シェアの企業として安定した人材確保が可能です。
その豊富な人材をより専門性の高い人材へと育成し、他社との差別化を図っています。
そうして育成した人材を養鶏・養豚・養牛のスペシャリストとして全国に配置し、当社の長年培った開発力と最新技術を活用し、お客様からのご要望に応え続けています。
これが、当社の飼料が選ばれている大きな理由の一つです。
また、生産拠点として北海道から九州まで全国に14カ所の飼料工場を持ち、この生産ネットワークも競争力を生み出す当社の強みの一つです。
昨今、飼料価格の高騰が話題となっていますが、ペットボトル1リットル(=1kg)の水に置き換えてみると、2024年4月時点で配合飼料価格は94円/kg1ほどで流通しています。
この単価の飼料を大量に生産・販売する必要があるため、遠方に運ぶほど輸送コストが上がり、飼料価格を押し上げてしまいます。
そこで当社はお客様により近い場所で生産・販売をすることで輸送コストを抑え、コストパフォーマンスの良い飼料を提供しています。
産地から食卓までを繋げるフードチェーンを目指して
生産者から消費者までお客様との接点を持ち、そのバリューチェーンを繋げていることが当社の強みです。
当社は多くの配合飼料メーカーとは異なり、消費者の食卓に生産物を届けることができます。
例えば「ゴールドエッグ株式会社」という子会社は鶏卵の販売を行っていますが、業界では全国で3番目の販売量を誇ります。
ただお肉に関しては大手の食肉加工業者には及びませんので、立ち位置としては、当社の飼料を給与した銘柄豚を作っていくような存在だと思っています。
このように生産者も消費者もハッピーになれるような「食」の未来を創造する会社として価値を提供していきます。
グローバルな事業展開
当社は国内で培った配合飼料の技術を活かして、市場の拡大が見込まれるアジアでの事業展開を行っています。
豚飼育頭数世界第7位のベトナムに畜産飼料製造を行う関係会社を持っています。また、世界第2位(海藻類を除いた生産量)の水産養殖生産地のインドに水産飼料製造を行う関係会社を持っています。
どちらも先行投資という位置付けですが、ベトナム・インドともに中長期的な市場の成長が期待できるため、これから先の重要な取り組みの一つです。
その中で、ベトナムにおいてはここ最近で収益貢献するほど成長しましたが、この成功に至るまで長い年月がかかりました。
海外でもジャパンクオリティを武器に営業展開しています。日本の畜産の飼育成績は海外に比べても高い水準ですが、それには畜産現場の飼育環境が影響しています。高品質な飼料は、飼育環境が整備されて初めて効果を発揮します。
ベトナムにおいては経営の近代化により飼育環境が比較的整備され始めたので、当社の飼料もそれに合わせて市場で受け入れられ始めています。
一方、インドではまだ飼育環境の整備が進んでおらず、まだ当社の出番は少ないのが現状です。
今後、当社の配合飼料が活かせる環境が整備された際には大きく事業を伸ばすことができると考えています。
フィード・ワンの成長戦略
「 1 (ONE)」 にこだわり、選ばれる企業へ
2024年度からの10年間を創業後10年間(第1フェーズ)に続く「第2フェーズ」と位置付け、当社の長期ビジョンを実現していきたいと考えています。
この第2フェーズにおいては、2029年度までの6年間で総額600億円を投資する予定です。
当社の時価総額が約400億円であることを考えると、非常にチャレンジングな計画だと思われるかもしれません。
しかし生産コストが上昇している現状と、今後もその傾向が続く可能性が高いことを考慮すると、当社が足元直面している課題や将来起こりうる事態に対処するためには、積極的な投資を行う必要があります。
例えば1991年の牛肉の輸入自由化の際には「国内の畜産業は大打撃を受ける」と言われていましたが、実際には配合飼料の需要は減少しておらず、畜産物の需要は緩やかにではありますが増えています。
足元では代替肉や人工肉が登場していますが、日本人もインバウンドの訪日外国人も日本の美味しいお肉が好きだと考えていますし、これを食べ続けられるかぎり、日本の畜産物の生産を支える飼料の需要は続くと考えています。
この長期的な需要を見据えて、継続的に収益力を上げていくために生産体制を刷新し強化していきます。
継続的収益力強化と生産体制の刷新・増強
コア事業である畜産飼料を中心とした事業間の連携を強化し、継続的な収益力強化を図ります。
その中で、畜産飼料・水産飼料ともに生産体制を強化していく方針です。
足元の畜産飼料における課題として、生産設備の老朽化が挙げられます。
これは当社に限らず業界全体としての課題ですが、当社においては中部地区で稼働50〜60年ほどの老朽化した工場が2つあります。
このような古い工場を刷新することでコストメリットを出しながら、新たな供給体制として強化したいと考えています。
この新工場の建設においては特に自動化・省力化・DX推進を進めていく予定です。
具体的にはタブレットを使ったリモート操作の導入など、新技術の投入を行っていきます。
2020年7月竣工した北九州畜産工場では旧工場に比べて各指標において大幅に改善しているので、新たな工場においても生産性向上・省力化を実現できると確信しています。
水産飼料での研究成果
近年の水産飼料業界は厳しい環境でしたが、当社はいくつかの研究成果を基に商品力で勝負できると考えています。
まずマダイ用の「サステナZERO」は初めて日本で普及した無魚粉飼料です。
主に無魚粉飼料には2つの大きなハードルがあります。
1つ目は摂餌性(食いつき)であり、魚は飼料から魚の匂いがしないと食べてくれません。
そして2つ目は、飼料中のアミノ酸組成が魚に似ていないと魚自身の消化吸収が上手くいかないということです。
そのため昆虫飼料・大豆タンパク・プロテインなどは同じタンパク質でありながらも、魚の消化管で吸収しづらく、魚は思うように成長してくれません。
当社はこれら2つのハードルを技術的に克服し、高品質の商品開発に成功しました。
また、原料となる魚粉価格の上昇も無魚粉飼料の競争力を高める要因となりました。
魚粉価格が安価である場合、いかに安価な原料を使っても無魚粉飼料のコストは割高になってしまいます。
しかし、魚粉価格が上昇したことで無魚粉飼料の価格が相対的に下がり、市場での競争力を持つようになりました。
もう1つの研究成果として「補償成長」があります。
これは、一定期間にわたって給餌を制限することで、その後のリバウンド的な成長を促し、飼料消費量をトータルで減少させるというものです。
これまではあくまで事象レベルで語られていましたが、四国地区の当社のお客様の協力のもと実施したフィールド試験でその再現性が確認されました。
ただし、四国と九州の海では水温などの飼育環境が異なるため、様々な条件下における具体的な再現方法についてはさらなる検証が必要です。
今後も試行錯誤を重ね、実証実験を進めていきます。
注目していただきたいポイント
この業界は幾度となく逆風にさらされており、足元では円安による原料価格の上昇があります。
しかし、過去の逆風をその都度乗り越え、輸入畜産物に対して国産畜産物の比率が回復傾向にあるというポジティブな要素もあります。
このような厳しい業界で重要なのは、長期的に事業を継続し、畜水産業界を支え続けることだと考えています。
そのためには決して目先の利益にとらわれず、長期的な成長を見据えた投資を行う必要があると考えています。
業界全体の課題である生産設備の老朽化に対して、資材の高騰などにより設備投資に要する費用はここ数年で大幅に上昇していますが、だからこそ“今”大規模な投資を行うことで長期的なマーケットシェアの獲得、将来の成長戦略に繋がると確信しています。
さらに、配当については安定配当を基本としつつ、段階的な増配を検討しています。
大規模な設備投資と不安定な業界環境による業績の変動性を考慮しつつ、今期の配当を27円に維持し、業績が上振れした際には機動的に増配を検討し、配当性向25%以上を目指しています。
投資家の皆様へメッセージ
「配合飼料」という単語は耳慣れない方もいらっしゃると思いますが、実際には「食」という大きなインフラを支える重要な業界です。
当社はこの分野でトップの企業ですが、業界の認知度が十分ではありません。
今後はマーケティング活動・広報活動を積極的に強化していきたいと考えています。
ぜひホームページやSNSなどにアクセスしていただき、当社のことを知っていただければと思います。
また、これからは投資家の皆様との接点を増やし、より深く事業について知っていただきたいと考えています。
その一環として、経営陣のより積極的なIR活動を行っていく方針です。
大規模な設備投資による短期的な業績への影響はありますが、中長期的な高い視点で経営に取り組み、高水準な企業価値向上に挑戦していることをしっかりと発信していきます。
もちろん、プライム上場企業として単年度業績達成にはコミットしていきます。
今後も日本の食文化を支える重要な役割を果たしていきますので、引き続きご支援いただければ幸いです。
フィード・ワン株式会社
本社所在地:〒220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい5丁目1番2号
設立:2014年10月1日
資本金:100億円(2024年6月アクセス時点)
上場市場:東証プライム市場(2014年10月1日上場)
証券コード:2060