【6223】株式会社 ⻄部技研 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年5月31日に実施したIRインタビューをもとにしております。

株式会社 ⻄部技研は福岡でハニカム技術を応用したものづくりを行いながら事業を伸ばし、2023年10月に上場を果たしました。

2025年7月に創業60周年を迎えますが、元は大学発のベンチャー企業という一面もあります。

代表取締役社長執行役員の隈 扶三郎氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社  ⻄部技研を一言で言うと

高い技術力でハニカム素材を扱う大学発のベンチャー企業です。 

⻄部技研の沿革

株式会社 ⻄部技研代表取締役社長執行役員 隈 扶三郎氏

創業経緯

当社は1965年7月に私の父親が設立し、来年で設立60周年を迎えます。

父は九州大学工学部の研究者で、大学での基礎研究やアカデミックな活動よりも実際にモノを作ることに興味を持ち、ものづくりにおける特許取得など、大学の研究者としてはかなり異質な存在でした。

研究成果を聞きつけた企業からの委託研究を受けるようになり、キャンパス前の倉庫を借りて個人の研究所を設立しました。

大学勤務の傍ら、夜には個人の研究所で委託研究を進めて、いくつかのテーマで成功を収め、報奨金を獲得しました。

その資金を元に1965年に前身となる株式会社西部技術研究所を設立しました。

1972年に、社名を「西部技研」と改め、初期には面状ヒーターや繊維強化プラスチックといった製品の製造・販売をしていました。

しかし、1970年代のオイルショックによりヒーターの材料調達が困難になり、事業継続が厳しい状況でした。

その際、父は日本進出を目指していたスウェーデンのムンタース社のハニカム構造を使った全熱交換器に注目し、ムンタース社に先んじて自社で事業化することに成功しました。

現在の主力製品の一つであるデシカント除湿機については、通商産業省(現 経済産業省)の開発補助金を受け、2年間の開発期間を経た後、1984年にシリカゲルを使った除湿ローターを世界で初めて開発しました。

このローターを搭載したデシカント除湿機は、従来の冷却除湿方式では成し得ない、15℃以下の低温環境での除湿制御を可能にします。

また1988年にはゼオライトを使ったVOC濃縮ローターを世界に先駆けて開発しました。

このローターは、VOC(揮発性有機化合物)のみを吸着・濃縮し、排ガスを効率的に浄化するVOC濃縮装置の性能を左右する重要部品です。

部品メーカーから完成品メーカーへ

1997年の創業者の死後、事業の方針転換を図ったことが大きなターニングポイントとなりました。

創業者はカリスマ的な存在だったので、その後経営は一時危機に瀕しましたが、元々財務を担当していた母が5年間社長を務めました。

私は1997年から専務になり、2002年に社長に就任しました。

そのような中で、これからの業界を生き抜いていくためには、他社の追随を許さずにハニカム技術を用いた完成品メーカーになるべきだと考えました。

営業やエンジニアを新たに採用・育成しながら、自社でデシカント除湿機を設計・製造し、国内外で大きく業績を伸ばしました。

環境ソリューションへの拡大と上場

エンドユーザーへのアプローチを強化するために、自社製品の据付・試運転・定期的なメンテナンスなどのサービスが必要だと考え、サービス事業部を立ち上げました。

また、単に製品を販売するだけではなく、ドライルームと呼ばれる空間(工場内での湿度管理を行う)を施工するためのソリューション事業を立ち上げました。

このようにして、日本国内での競争力を高め、環境ソリューションを提供する企業として事業を伸ばし、2023年10月に東証スタンダード市場に上場を果たしました。

株式会社  ⻄部技研 より提供

⻄部技研の事業概要と特徴

概要

当社はコア技術であるハニカム技術を用いて、デシカント除湿機やVOC濃縮装置等の製造・販売・据付・保守などのサービスを行っています。

売上の多くはデシカント除湿機とVOC濃縮装置で、約9割を占めています。

デシカント除湿機は、センシティブな湿度調整が必要な食品工場・医薬品工場・発電所・物流関連施設などの様々な産業用途で活用されています。

特に近年、リチウムイオン電池の製造工程で活用され大きく需要が伸びています。

また、VOC濃縮装置は、自動車塗装や半導体製造の際に発生する排気ガス中の大気汚染物質のみを吸着して、濃縮させる装置です。

VOCは有害物質で、国ごとに「工場の外に排出する濃度を〇%まで抑えなさい」という規制がかかっているため、処理が必要です。

またVOCは燃焼させることで水と二酸化炭素に分解されますが、その燃焼処理には大量の燃料及びエネルギーがかかるとともに、大量のCO2が発生します。

そこでVOC濃縮装置を使って濃縮されたVOCを燃焼させることで、処理コストを削減しながら、環境負荷の低減にも貢献しています。

株式会社  ⻄部技研 より提供

事業における優位性

コア技術

西部技研のコア技術の特長・強みは、ハニカム構造を持つ特殊な機能性ペーパーの開発力にあります。

ハニカム構造に成形するための機械も自社で独自に設計しています。

このハニカム成形技術は市場に出回っていないため、他社は容易に模倣できません。

また、当該技術の流出を防止するため戦略的に特許を取得しておらず、製造工程をブラックボックス化させています。

1980年代に特許取得を検討していましたが、特許取得による設計書の公開が、他社にヒントを与えてしまうリスクが高いと考え、見送りました。

技術の漏洩を防ぐためにも、デシカント除湿機・VOC濃縮装置の心臓部であるローターは日本国内でのみ生産し、海外拠点へ輸出し、現地で完成品に組み立てています。

株式会社 ⻄部技研 2023年12月期第3四半期決算説明会資料 より引用

開発・生産からアフターサービスまで一気通貫

心臓部のローターの開発、完成品の生産、そして導入やアフターサービスまで一気通貫できることが当社の強みです。

先ほども沿革の中でお話ししましたが、デシカント除湿機・VOC濃縮装置の販売力を高めるためにこの一気通貫の体制を整備しました。

これまで装置の導入や施工はサブコン(設備業者)が行い、当社は単なるメーカーという立場だったため、エンドユーザーに直接販売することができませんでした。

競合他社は、特にデシカント除湿機に関して、日本法人を持つスウェーデンのムンタース社があります。

ムンタース社は世界的メーカーでグローバルでのシェアや影響力が当社よりも大きいです。

その他の競合としては、地域ごとにローカルメーカーも存在するため、単なる装置の販売では価格競争に巻き込まれてしまいます。

当社製品は高い性能を維持できていることが他社との差別化に繋がっています。

また、国内においては、据付やドライルームの施工からアフターサービスを充実させていることも差別化のポイントです。

このように顧客のニーズに応える総合的なソリューションを提供しており、他の装置メーカーでここまでワンストップで対応できる会社はないと自負しています。

株式会社 ⻄部技研 2023年12月期第3四半期決算説明会資料 より引用

グローバル供給体制

グローバルな供給体制も当社の強みです。

ヨーロッパ・中国・韓国・アメリカに拠点を構えています。

ヨーロッパでデシカント除湿機の販売を行うために、1993年にスウェーデンの現地メーカーを買収しました。

同社はヨーロッパでの販売力が強く、当社製品をヨーロッパ市場で拡販しています。

近年は中国でのバッテリー需要の急増とともに、現地バッテリーメーカーとの取引が増えています。

さらに韓国やアメリカでも、現地のバッテリーメーカーや除湿環境を必要とするメーカーからの引き合いが多くなっています。

当社製品の心臓部となるローターは効率的な技術の開発・改良・量産を行うために国内で製造しています。

そして完成品は現地で組立をすることで、各国のお客様のニーズに迅速に対応しながら高品質・高性能な製品を供給しています。

株式会社  ⻄部技研 より提供

⻄部技研の成長戦略

2つの巨大成長市場領域

当社は成長セグメントとして、特にEV電池・次世代電池と半導体に注力しています。

まずEV電池・次世代電池領域では自動車業界で車載用電池の需要が急速に拡大しています。

当社は国内・海外においてバッテリーメーカーへのアプローチを数年前から始め、すでに多くのお取引をいただいていますが、今後も成長余地の高い分野だと考えています。

また半導体市場においても成長余地が大きく、当社のポジションが優位だと考えています。

例えば、某大手ファウンドリーとは1995年来の導入実績があります。

ただし直接のお取引ではなく、燃料装置のメーカーを通しての販売のため、あまり開示することはできませんが、かなりのシェアを持っています。

今後はこの2分野に注力して事業を伸ばしていきたいと考えています。

株式会社 ⻄部技研 2024年2月14日 中期経営計画 2024-2026 より引用

電池領域での戦略

中国市場では、ここ4〜5年でバッテリーへの投資が急増し、それに伴って当社も大きく成長しました。

ただし、中国経済が一時的に低迷している影響で投資案件が減少している状況です。

今後もEV市場自体は引き続き堅調なため、市場動向に注意しながら、再び成長が加速する時を待っています。

一方でアメリカや日本の市場は拡大していくと考えています。

特にアメリカでは韓国系バッテリーメーカーが進出し、大規模な投資をしています。

株式会社 ⻄部技研 2024年2月14日 中期経営計画 2024-2026 より引用

これまでは彼らはアメリカの自動車メーカーとのJVを通じて進出していたこともあり、アメリカ主導で工場を設立していたため、アメリカの設計事務所と取引の多いムンタース社が選ばれていました。

しかし今後は韓国系バッテリーメーカーが単独で進出して工場を設立していきます。

そのため韓国で高く評価していただき、取引実績も多い当社が選ばれるのではないかと期待しています。

直近では大型案件も受注しました。

これからは韓国系バッテリーメーカーの進出とともにアメリカのシェアを拡大させていくことができると考えています。

株式会社 ⻄部技研 2024年2月14日 中期経営計画 2024-2026 より引用

そして、国内で培った施工まで行えるソリューション提案も行うことで、当社が提供する付加価値を高めていきたいと考えています。

株式会社 ⻄部技研 2024年2月14日 中期経営計画 2024-2026 より引用

半導体領域での戦略

今後10年間は半導体市場は継続的に伸びていくと見込まれています。

そこで中期的な目標として、半導体材料製造に最適なクリーン環境のソリューション提案を行っていきます。

現在、連結売上高に占めるサービス全体の売上比率は7%ですが、今後、海外のサービス体制を本格拡充させ、2030年には15%を狙います。

株式会社  ⻄部技研 より提供

まずは中国・台湾・韓国で、VOC濃縮ローターの交換によるサービス事業の拡大です。

すでに築いてきた現地の燃料装置メーカーとの関係性を強化しながら、サービス供給体制を拡充させます。

基本的には半導体製造工場の設立とともに当社のVOC濃縮装置が設備として導入されていくため、安定して成長していくと考えています。

引き続き半導体業界の成長とともに、当社が対応可能な事業領域・地域を拡大させていきます。

注目していただきたいポイント

オリジナリティの高いコア技術を持っていることに注目していただきたいです。

ハニカム技術を応用し、現在では完成品の提供に加え、トータルエンジニアリングや環境ソリューションの提供も行っています。

特にバッテリー分野においては多くの成果を上げており、今後も成長が期待されます。

これからは車載用・パワーデバイス・ドローン用バッテリーが増産されるため、それらの製造ラインの拡充に伴って当社の技術が必要とされていきます。

また、ペロブスカイト太陽電池などの新しい分野にも進出しています。

ペロブスカイト太陽電池の製造工程はバッテリーの製造工程と類似しており、当社のデシカント除湿機で製造に適した環境を提供することができます。

ペロブスカイト太陽電池以外にも様々な用途に応用させていくことができると見込んでいます。

今後も西部技研が持つコア技術を基盤に新製品やサービスの開発と実用化を進めていくので、ぜひ注目していただければと思います。

投資家の皆様へメッセージ

西部技研は独自のコア技術にこだわるメーカーです。

EV電池や次世代電池、半導体などの成長市場で必要となる技術を持っています。

まずは私たちの技術力や製品の必要性を知っていていただければ嬉しいです。

そして技術や成長性に期待していただくとともに、温かいご支援を心よりお待ちしています。

株式会社 ⻄部技研

本社所在地:〒811-3134 福岡県古賀市青柳3108番地3

設立:1965年7月15日

資本金:711,000千円(2023年10月3日時点)

上場市場:東証スタンダード市場(2023年10月3日上場)

証券コード:6223

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「わたしのIFA」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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