【7030】株式会社スプリックス 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年3月22日に実施したIRインタビューをもとにしております。

株式会社スプリックスは森塾、湘南ゼミナールなどの学習塾事業や、国際基礎学力検定TOFASを中心とした検定事業などを実施しています。

代表取締役社長の常石 博之氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社スプリックスを一言で言うと

「教育」を通して、世界中の人に「人生の新たなステージ(春)」を届ける会社です。 

スプリックスの沿革

株式会社スプリックス代表取締役社長 常石 博之氏

創業の経緯と社名の由来

1997年に新潟県長岡市に設立された「森塾」が始まりです。

この名前には、多様な生命が共存する「森」という自然が象徴するように、すべての生徒が成長できる場を提供したいという思いが込められています。

また長岡は雪深いので冬が長く、だからこそ「春」という季節がとても特別です。

その春を意味する「スプリング」が「スプリックス」という名前の由来で、教育を通じて新たなステージ(春)を届けたいという想いで、現在まで事業を展開してきました。

創業当初、塾と言えば合格実績をうたう進学塾がほとんどで、成績が優秀な生徒にリソースを割き、成績が中位以下の生徒(以下ミドル層)への教育が整備されていないことに、私たちは疑問を持っていました。

実際、トップクラスの生徒には奨学金が出る一方で、それ以外のクラスの生徒は授業料相応の十分な支援を受けられずにいるという状況でした。

そこで教育の本来の目的に反すると感じ、”すべての生徒が平等にチャンスを得られる環境を作るべきだ”という強い想いから当社が設立されました。

我々が展開している「森塾」では、成績が上がらなければ授業料を返金するという成績保証制度を導入しました。

この取り組みは当時としては非常に斬新な試みで、他の塾からは懐疑的な意見も出ましたが、実際のニーズは多く足元では全国に221校舎(2024年3月現在)を展開しています。

事業の拡大と多角化

創業以来、全国への展開を考えていたもののリソースの限りもあり、まずは新潟県内で「森塾」の教室数拡大を目指すという選択肢もありましたが、そうはせず、2004年に思い切って大宮に「森塾」を開校しました。

埼玉県でもうまくいったので、その後「森塾」を首都圏に拡大していきました。

コンテンツ事業の転機は、ベネッセコーポレーションと業務提携し、2003年には全国で国語力を高めるための「グリムスクール」の教室展開を始めたところにあります。

また同時期にコンテンツ事業として、個別指導塾専用テキストの「フォレスタ」を全国に向けて販売し始めました。

自社で開発した教材を他の塾にも販売し、スプリックスの教育ノウハウを広めるとともに運営のコンサルティングを行うビジネスが始まりました。

我々の教材は、生徒ごとに異なる学習レベルに応じてカスタマイズが可能で、教師の質に依存せず、一貫して高い教育結果を提供できるため非常によく受け入れられ、短期間でトップシェアを獲得しました。

その後、2018年に東証一部市場(現 東証プライム市場)に上場し、2019年にはサイバーエージェントと協業しプログラミング教育事業を開始しました。

現在は2021年から開始した国際基礎学力検定の「TOFAS」に注力し、事業を多角化しています。

株式会社スプリックス 2024年9月期 第2四半期決算説明資料 より引用

スプリックスの事業概要と特徴

概要

当社の売上のセグメントとしては大きく四つに分けています。

まず、小中高生を対象とした個別指導型の「森塾」は当社売上高の5割以上を占めています。

また、神奈川県を中心に展開している集団指導型塾の「湘南ゼミナール」で売上の3割、現役高校生を対象とした大学進学塾の河合塾マナビスが1割を占めています。

そしてその他事業として、世界44か国に展開している「TOFAS」やプログラミング検定等が残りの売上の1割を占めています。こちらは海外展開を含め、将来伸びが期待できるセグメントでもあります。

株式会社スプリックス 2024年9月期 第2四半期決算説明資料 より引用

事業における優位性

「森塾」のユニークなビジネスモデル

「森塾」が始まった時、学習塾業界ではかなりユニークなビジネスモデルでした。

まず森塾の拡大の鍵は、明確なターゲット層の設定と事業の仕組み化にあると考えています。

特に、教育市場でしばしば見過ごされがちな「ミドル層」—つまり有名進学校を志望しない生徒たち—に焦点を当てたことが、我々の事業展開において大きな差別化要因となっています。

そして森塾は定期テストの対策に特化しており、生徒が中間試験や期末試験などの学校のテストで良い成績を取ることが目標です。

そのコンセプトのもと我々は個別指導のコスト効率を大幅に改善することに注力しました。

例えば、他の塾では有名講師を呼び込むために高額な講師費用がかかりますが、「森塾」では質の高い教材を使用し、大学生のアルバイト講師でも高い教育成果を出せるようシステムを構築しました。

この結果、教室運営の効率化が進み、低コストで質の高い教育を提供できるようになりました。

株式会社スプリックス 2024年9月期 第2四半期決算説明資料 より引用

AIの活用と学習ツール

教育指導方針と現場のギャップを埋めるために、我々はAIとの親和性を活かして効率的な学習方法を開発しています。

例えば、英単語の「beautiful」という単語を学ぶ際に、一回で覚えてしまう生徒もいれば、十回以上繰り返し書いて覚える必要がある生徒もいます。

特に「森塾」の生徒層であるミドル層の子どもたちは、学習してもすぐに忘れてしまう傾向があります。

そこでAIはそれぞれの生徒がどのくらいの繰り返しで情報を記憶するかを学習し、個人差に合わせた問題出題・指導が可能です。

また漢字一つをとっても、例えば私の名前にも含まれる「博」という漢字を書く際に右上の点を書き忘れてしまうミスをよくしてしまうような生徒には、似たような漢字を重点的に練習させるようプログラムを調整し改善を図っています。

このように個別指導ならではの生徒一人一人の学習ペースに合わせた教育を最新技術を用いて行うことができるのは当社しかいないという点も特徴的です。

「TOFAS」の拡大

2021年から現在に至るまで、約350万人が世界44か国で国際基礎学力検定「TOFAS」を受験しました。

株式会社スプリックス 2023年9月期 決算説明資料 より引用

この「TOFAS」は基礎学力の計測に特化しており、語い、計算、プログラミングスキルが主な検定内容です。

これまで基礎学力は、教育の根幹をなす重要な要素であるにもかかわらず、しばしば見過ごされてきました。

元々、当社のミッションは世界中の子どもたちに最高の教育機会を提供することにあります。

現状、英語における高いレベルに関してはTOEICやIELTSなどの世界基準があるのにも関わらず、基礎学力においては指標がありません。

そこで国際的な基準が必要だと考え始めたのが「TOFAS」です。

現在は東南アジアや南アメリカを中心に広がっており、例えばミャンマーの工場では多国籍の労働者の能力をTOFASの測定結果にて評価し、評価に応じて適切に人材配置を行い、処遇が改善したという好事例もあります。

また「TOFAS」を始めることができたのは、当社がミドル層をターゲットに事業を展開し続けてきたからであり、この分野において他社の参入は難しいと考えています。

株式会社スプリックス 2023年9月期 決算説明資料 より引用

スプリックスの成長戦略

学習塾事業の基盤強化

今後は「森塾」を首都圏から関西エリアに拡大させていく方針で、2024年の今春より大阪に7校を開校しております。

我々の「森塾」は教科書に準拠した独自教材を開発・運用しているため、地域(受験校)に左右されず、全国展開が可能です。

株式会社スプリックス 2023年9月期 決算説明資料 より引用

これまでも首都圏での成功を皮切りに、新潟から始まったモデルを地域に応じて調整しながら展開してきました。

また個別指導に特化することで、生徒一人一人に対する教育サービスの質を落とすことなく運営を続けてきました。

日本全体では少子化が進んでいますが、コスト管理を適切に行っているため、損益分岐点は非常に高いレベルで保たれており、利益を維持しつつ拡大を続けることができます。

今後も森塾の独自性を活かしてエリアを拡大していく方針です。

株式会社スプリックス 2024年9月期 第2四半期決算説明資料 より引用

基礎学力のパイオニアへ

国内での実績を基に、海外での教育事業を育てていくことでグローバルな教育ブランドとしての地位を確立していきたいと考えています。

特に当社がこれから注力していくのは先ほどお話しした「TOFAS」です。

検定事業の潜在市場は世界の子どもの約20億人をターゲットとしていますが、まずは2025年にその0.5%である1,000万人を目標受験者数として設定しています。

株式会社スプリックス 2023年9月期 決算説明資料 より引用

特にニーズが高くアプローチしていくのは東南アジア、南アメリカ、アフリカなどの基礎学力が先進国に比べて遅れている途上国です。

既に国内外の教育委員会や官公庁への導入も進んでおり、今後は当社の検定事業の伸びが学習事業へ良い影響を与えるような「基礎学力事業のエコシステム」を構築する予定です。

株式会社スプリックス 2023年9月期 決算説明資料 より引用

注目していただきたいポイント

教育業界・学習塾業界では少子化がしばしば議論の的になりますが、我々には「勝ち筋」があります。

当社は非常にシステマティックな運営かつ確かな実績によって、学習塾事業において競合を大きく引き離していると考えています。

そのしっかりした既存事業が生み出すキャッシュを積極的にTOFASなどの新規事業に投資しているのが私たちの特徴です。

このように非常にユニークなポジションで事業を展開している当社のビジネスに是非注目していただければと思います。

株式会社スプリックス 2023年9月期 決算説明資料 より引用

投資家の皆様へメッセージ

当社は短期的な成果にとらわれることなく、長期的なビジョンに基づいています。

今後もミッションとビジョンに忠実に、業界をリードする教育サービスを提供し続けていきます。

投資家の皆様には、我々の取り組みを長い目で見ていただき、暖かいご支援を心からお願い申し上げます。

株式会社スプリックス

本社所在地:〒940-0066 新潟県長岡市東坂之上町2-2-1

設立:1997年1月13日

資本金:1,438百万円(2023年9月時点)

上場市場:東証スタンダード市場(2018年6月29日上場)

証券コード:7030

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「わたしのIFA」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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