※本コラムは2024年7月29日に実施したIRインタビューをもとにしております。
Chordia Therapeutics株式会社は研究開発型のバイオテック企業です。
RNA制御ストレスというがんの新たな特徴に着目した新薬の研究開発を進め、国内外の患者様への提供を目指しています。
代表取締役の三宅 洋氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
Chordia Therapeutics株式会社を一言で言うと
がん創薬のエキスパート集団です。
Chordia Therapeuticsの沿革
創業の経緯
私たちChordia Therapeuticsは、日本最大手の製薬メーカーである武田薬品工業株式会社(以下、武田薬品)からスピンアウトする形で、2017年に創業いたしました。
当時、武田薬品は研究開発の選択と集中を進めており、私たちが研究していた低分子を用いた抗がん薬の開発の優先順位が下がっていました。
しかし、研究開発のトップからは低分子薬が必要不可欠であることを理解していただいており、高く評価されていました。
欧米の製薬業界では、フォーカスを外された分野の研究成果を持ち出してベンチャー企業を設立するという事例が多くあります。
当社もその事例に倣い、2016年ごろから準備を始め、武田薬品からの支援を受けながら設立に至りました。
CTX-712の臨床開始とCTX-177の導出
医薬品の研究開発には莫大な資金と長い期間が必要です。
創業当初、全てのパイプライン(基礎研究から製造・販売までの開発品)は「前臨床研究」、つまり実験段階のものでした。
武田薬品やVCの支援を受け、初回の資金調達では12億円、シリーズBで30億円、シリーズCで40億円と、合計で82億円の資金を上場前に調達し、研究を継続してきました。
そして遂に、2018年8月には私たちのリードパイプラインであるCTX-712の第1相臨床試験を開始しました。
これは、私たちバイオテックベンチャーとして臨床試験に進んだ最初のターニングポイントとなっています。
また、2020年12月には2つ目のパイプラインであるCTX-177を前臨床段階でありながら、小野薬品工業株式会社(以下、小野薬品)に全世界での権利を導出しました。
これにより契約一時金として8億円、臨床試験開始時に25億円の開発マイルストンを受領し、各ライセンス料を受領する契約を結んでいます。
今後も、これらのパイプラインに加えて武田薬品時代から研究しているCTX-439やGCN2阻害薬、自社開発している新規パイプラインを前臨床に進めるべく、研究開発を進めてまいります。
Chordia Therapeuticsの事業概要と特徴
概要
私たちは他の日本のバイオベンチャーと2つの異なる特徴を持っています。
1つ目は、2024年6月14日に東証グロース市場に上場した際に、リードパイプラインであるCTX-712の全世界への権利を戦略的に社内に留保していたことです。
一方、CTX-177については、他の開発パイプラインと作用機序が異なるため、競合他社の状況を鑑みても上場後の成長原資とすることが合理的だと考え、戦略的に導出しました。
このように、当社は研究開発型のバイオテック企業であり、パイプラインの研究開発を継続して育成し、大きな価値を持たせた後に導出するビジネスモデルを展開しています。
もちろん、CTX-177のように早期に導出することもありますが、私たちが世界中での競争をリードしているパイプラインの場合、第2相臨床試験までを自社で実施し、価値を最大限に高めた上で導出することがベースケースシナリオです。
2つ目は日本国内での製造・販売は自社で行うことを計画していることが特徴です。
研究開発、製造、販売を一貫して行う製薬会社へと成長するビジョンを持って事業を進めています。
製造・販売については、全てを自社で賄うのは難しいため、戦略的パートナーの力が必要です。
現在、製造はCDMOのシオノギファーマと、販売は日本最大手の医薬品流通卸であるメディパルホールディングスと連携しています。
このように、当社は国内ではパートナーの力を借りながら自社で製造・販売を行い、国外ではライセンスアウトを目指し、製薬メーカーとしてのビジネスモデルを確立していきます。
事業における優位性
グローバルスタンダードである当社のポジショニング
当社は武田薬品工業のアセット、ノウハウ、ネットワークを受け継いだ研究開発能力で、ファーストインクラスの低分子抗がん薬を開発しています。
まず、医薬品の研究開発には高度なノウハウと知識が必要です。
創薬には、低分子と、それ以外の抗体、ペプチドや核酸などを使ったニューモダリティという手法の2つに分けることができます。
当社は低分子創薬として確立されている手法を用いているため、承認がされやすく、研究開発におけるリスクを抑えることが可能です。
また、当社には武田薬品で抗がん薬の創薬に関する研究開発に携わった経験を持つメンバーが多数おり、低分子創薬のエキスパートが集まっています。
新薬は大きく2つに分類されます。
1つは私たちが手掛けるファーストインクラス、もう1つはベストインクラスと呼ばれるものです。
ファーストインクラスは既存薬とは異なる作用機序を持つ薬で、ベストインクラスは既存薬と同じ作用機序を持ちながらも、効果や利便性が改善された薬です。
どちらも患者様にとっては必要な薬ですが、ベストインクラスの薬を作るには既存薬に対して優位性を示すために多大なリソースが必要となります。
一方で、ファーストインクラスの研究開発に必要なリソースは相対的に少なく、独自のアイデアや研究開発への挑戦するマインドが必要です。
そのような中で、当社はファーストインクラスに特化した創薬を行っています。
そして、従来の治療体系を大幅に変えるような革新的な医薬品であるため、大手製薬会社が興味を持ち、大型のライセンス契約が期待できるパイプラインです。
さらに、当社はプレシジョンオンコロジーと呼ばれるアプローチで個別化医療を目指した研究を実施しています。
従来の医療は単に治療薬を投薬する医療で、期待する効果が得られないケースも見受けられます。
一方、当社が注力しているプレシジョンオンコロジーと呼ばれるアプローチは、がんの特徴や弱点を理解し、各患者様に向けた新しい抗がん薬の開発手法です。
臨床試験においては患者様の同意を得た上で遺伝子検査を実施していることに加えて、前臨床の研究も行っており、すでにCTX-712では固形がんや卵巣がん患者様で有効性と結びつく可能性のある有望な遺伝子変化を見つけることができました。
これらの研究成果については既に特許申請中で、プレシジョンオンコロジーによる手法の効果が現れています。
このように、独自のポジションを確立していることが私たちの強みです。
RNA制御ストレスの創薬
私たちが注力しているRNA制御ストレスの創薬は、RNAが生成・成熟する過程で生じるストレスを利用するものです。
がん細胞は多くの遺伝子変化を有しており、正常細胞よりも早く、無制限に増殖していくため、大きなストレスがかかっています。
このがん細胞の増殖過程で、外部から追加の過剰なストレスを与えることで、そのストレスに耐えきれず死減させることができると期待しているのがRNA制御ストレスの抗がん薬です。
当社のCTX-439、CTX-712、GCN2阻害薬、新規パイプラインはそれぞれRNAを生成する異なる過程にアプローチしています。
例えばCTX-712では、スプライシング反応を変化させることで異常なスプライシング産物を蓄積させ、追加のストレスを加えてがん細胞を選択的に死滅させることが可能です。
このように革新的な作用機序を持つ抗がん薬を開発しており、今後の市場拡大が期待できる創薬に取り組んでいます。
Chordia Therapeuticsの成長戦略
長期的な成長モデル
当社は将来的には世界のトップ10に入るようなアムジェン社やバイオジェン社のような製薬メーカーを目指しています。
この2社は、20年前は上場してから10年間ほどは赤字続きのバイオベンチャーでしたが、新薬の開発に成功し、世界的な製薬会社へと成長しました。
私たちもこの成長モデルを追いかけ、長期的な成長計画を立てています。
現在、注力しているのは、再発難治性のAML(急性骨髄性白血病)患者様に対する効果が期待できるCTX-712の開発です。
当面の間はCTX-712の研究開発に注力し、上場時に得た資金で開発を進めていく想定です。
また、既にCTX-177では小野薬品への導出によるライセンス一時金や開発マイルストンを得ています。
今後もライセンスの販売マイルストンやロイヤリティを受領する契約を結んでいるため、数年後には売上に貢献できると考えています。
市場の拡大
現在、再発難治性のAML患者様を対象としたCTX-712の研究開発を進めています。
標準治療(ビダーザとベネクレクスタでの治療)が失敗したAML患者様の予後は悪く、平均的な生存期間は数カ月です。
今後、CTX-712が新しい延命の可能性を提供できる抗がん薬として認められれば、このような難治性の高い患者様にも広く使っていただけると考えています。
AMLに関しては、グローバル市場で約2,000億〜4,000億円の規模があり、その半分程度をCTX-712がカバーできれば、年商2,000億円も遠くはありません。
また、がん細胞の特徴を対象とした抗がん薬は、既に12の特徴にフォーカスした抗がん薬が開発されています。
そして、当社が注目したRNA制御ストレスは新たに見出された特徴として世界でも認知され始めています。
基本的にがん患者様は1種類のみの抗がん薬の使用で完治することはできません。
特に難治性のがん患者様にとって、異なる薬を順番に使用することが延命の戦略となります。
例えば、1番目に使用される抗がん薬が1年間しか効果が続かないものであったとしても、2番目の薬で1年間効果を発揮すれば、合計で2年間延命することができます。
がんの治癒を表す指標として「5年生存率」という言葉がありますが、そのためには複数の抗がん薬の投薬を続けることが必要です。
私たちの新薬は、既存の抗がん薬が効かなくなった末期患者様に新たな治療を提供することを目指しています。
一般的には、他の特徴を持つ抗がん薬と競合すると思われがちですが、抗がん薬の市場における新薬のニーズは高く、既存の抗がん薬と効果が異なるため、私たちにとっては成長ポテンシャルの高い市場だと考えています。
注目していただきたいポイント
私たちは研究開発型のバイオテック企業です。
新しい医薬品の開発には多額の資金を先行投資する必要があるため、開発が成功するまでは安定的な収益を計上することができません。
もちろん、ライセンス契約やマイルストン収入が発生することもありますが、安定した収益を上げるには上市が必須です。
まず、当社のビジネスモデルをご理解いただきたいです。
また、私たちは治療法の無いがん患者様に新たな治療機会の提供に挑戦しています。
この取り組みは社会的意義が非常に大きいと自負しています。
中長期的な目線が必要なビジネスモデルであることと、抗がん薬の創薬によって当社がもたらす社会への貢献にご注目いただければと思います。
投資家の皆様へメッセージ
私たちの成長を中長期的に見守っていただければ幸いです。
将来的にはアムジェン社やバイオジェン社のような大きな製薬会社に成長することを目指しています。
今後も全社一丸となって革新的な抗がん薬の研究開発に取り組んでいく所存です。
中長期的な視点でお付き合いいただき、将来的に大きなリターンを期待していただければと思います。
ご支援のほどよろしくお願いいたします。
Chordia Therapeutics株式会社
本社所在地:〒251-0012 神奈川県藤沢市村岡東二丁目26番地の1
設立:2017年10月12日
資本金:8億3,492万円(2024年8月末時点)
上場市場:東証グロース市場(2024年6月14日上場)
証券コード:190A