※本コラムは2024年9月12日に実施したIRインタビューをもとにしております。
株式会社MFSは独自の分析で住宅ローンの情報を提供する「モゲチェック」やオンライン不動産投資サービス「INVASE」を提供しています。
代表取締役CEOの中山田 明氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
株式会社MFSを一言で言うと
テクノロジーと分析の力でユーザーにパワーを与える日本初のオンライン・モーゲージ・ブローカーです。
MFSの沿革
創業の経緯
創業以前、私はアメリカの投資銀行で住宅ローンの証券化に従事していました。
住宅ローンがどのように構築されるのか、住宅ローンの仕組みはどうなっているのかを学びました。
アメリカは住宅ローンの証券化が進んでいる国でした。
住宅ローンは長期の固定金利で提供されることが一般的ですが、銀行がリスクをすべて負担するわけではありません。
住宅ローンを証券化して機関投資家に販売することで、様々なリスクを軽減しているのです。
この仕組みを支える重要な存在が、モーゲージ・ブローカーです。
彼らは、ユーザーと銀行の間に立ち、住宅ローンに関する専門的なアドバイスを提供しています。
最適なローン選定をサポートする存在で、アメリカでは広く普及しています。
しかし、日本ではモーゲージ・ブローカーの役割を担う機関が存在せず、住宅ローンを選定する際には、不動産会社が間に入り、銀行とユーザーを繋いでいます。
不動産会社は専門家ではないため、ユーザーは最も適したローンの提案を受けることができません。
実際にローンの契約後、市場環境が変わっても、ローンの借換がなかなか行われず、放置されてしまうケースが多いのが現状です。
私はこの問題に着目し、日本にもモーゲージ・ブローカーのように専門知識を持ち、ユーザーに適切な情報を提供する存在が必要だと感じ、2009年に当社を立ち上げました。
「モゲチェック」のビジネスモデルを確立
最初に直面した大きな課題は、日本の銀行制度に関する規制でした。
銀行の商品を扱うためには、銀行代理という登録が必要です。
信用力の兼ね合いもあり、当社が複数の銀行と銀行代理の関係を結ぶことはできませんでした。
そのため、ユーザーと様々な銀行の間に立ち、銀行から手数料を直接貰いながら、住宅ローンの斡旋を行うモデルは実現不可能でした。
そこで目をつけたのがASP(Affiliate Service Provider)と呼ばれる広告代理店です。
ASPは広告主となる企業とメディア運営者を仲介する広告代理店で、メディアを通じて収入を得る際に活用されています。
当社はこのASPを活用して銀行から間接的に手数料をいただくというビジネスモデルを考え、具体的なローンの斡旋やアドバイスを行うためには、貸金業の登録が必要であるため、その認可も取得しました。
最終的に法的要件を弁護士含む関係各者に確認の上、2015年8月に「モゲチェック」のサービスを開始しました。
「INVASE」の開始と上場
2018年10月から「INVASE(旧サービス名:モゲチェック・プラザfor 不動産投資ローン)」を開始しました。
このサービスは、「モゲチェック」で得た住宅ローンのノウハウを活用し、投資用物件のローン借換や購入をサポートするために考案しました。
そして、単にローン周りのサポートだけではなく、投資用不動産の売買もサポートするために、2022年2月にコンドミニアム社を買収し、不動産仲介業を開始しました。
そして、「モゲチェック」と「INVASE」のビジネスモデルを確立し、成長ドライバーとして事業を伸ばせると考え、2024年6月に東証グロース市場に上場を果たしました。
MFSの事業概要と特徴
概要
現在、2つの主要サービスを展開しています。
1つ目は、オンライン・モーゲージ・ブローカーの「モゲチェック」です。
このサービスは、ユーザーの信用情報や要望に基づいて、最適な住宅ローンの情報を提供するためのプラットフォームです。
2つ目は、オンライン不動産投資サービス「INVASE」です。
不動産投資家向けに、リスクを最小限に抑えながら、安心して資産を形成できるプラットフォームを提供しています。
事業における優位性
「モゲチェック」の独自性と競合優位性
「モゲチェック」は住宅ローン提案からローン実行まで、オンラインでフルサポートするサービスです。
借入、借換双方に対応しており、ユーザーは無料で利用することが可能です。
ユーザーが「モゲチェック」に情報を登録完了いただいた後、当社はユーザーの信用情報を基に信用力分析を行います。
その信用力分析の結果を活用し、20以上の金融機関が提供しているローンからどの商品を紹介できるのかを判断しています。
ただし、住宅ローンには金利に加えて、団体信用生命保険(団信)がセットになっているケースが多く、ユーザー側から見て複雑な商品と考えています。
そこで、ユーザーが保険を含めた実質金利を比較できるようにし、ニーズに応じた最良の選択ができるような結果をお示ししています。
また、登録した情報を活用し、そのまま審査を申込むことも可能です。
一般的な情報比較サイトは、金融機関のHPのご紹介しかしていません。
一方、当社はユーザーにとってシンプルで使いやすい UI(User Interface)を目指しているため、最小限の追加情報で申込みできるような機能を加えています。
さらに複数の審査申込みも可能で、ユーザーは金融機関に申し込む手間や、無駄な審査落ちのリスクを軽減できます。
そして、ローン提案からローン実行までチャットを通じてオペレーターやAIに相談することも可能です。
住宅ローン全般のお悩みや不安を解消し、スムーズな契約を促しています。
このように独自システムを用いて、日本初のオンライン・モーゲージ・ブローカーとしてのポジションを確立しています。
「INVASE」の独自性と競合優位性
「INVASE」は、投資用不動産の透明性を高め、投資家がリスクを抑えて資産形成できるプラットフォームです。
プライシングモデルとアプリを活用した画期的な不動産投資サービスを提供しています。
私たちの投資家層は、公務員やサラリーマン、医師など、本業で忙しくしている方がほとんどです。
そこで当社は、不動産保有リスクを軽減し、安心して資産形成のための不動産投資ができるプラットフォームを目指したサービスを心がけています。
主に対象としているエリアは、将来的にも高い流動性と安定性が期待される東京23区や横浜市、川崎市の区分マンションが中心です。
また、AIを利用したプライシングモデルを開発し、「Pスコア」という独自の不動産のリスク指標を持っています。
適切な不動産価格はキャップレートで年間賃料を割り戻す事で物件価格を算出可能です。
そのため、立地や間取りなどの条件に対してスコアリングを行い、様々な情報を考慮した上で「Pスコア」を導き出し、その結果を基に価格評価を行っています。
さらに、アプリを用いて手軽に不動産の売買や情報を取得できる環境を提供しています。
物件の時価評価など、最新情報を更新し、買主が適切なリスクを選べるような環境に整えています。
また、実際の売買の際には不動産仲介を行うコンドミニアム社がサポートし、スムーズな売買を執り行うことで不動産の流動性を担保しています。
不動産売買におけるスタンスも、通常の不動産会社とは異なり、債券や投資信託といった金融商品を販売するような立場で物件を提供しています。
不動産情報は不動産会社によってブラックボックス化されているため、不動産業界に所属していなければ見ることはできません。
一方、当社は画期的なプラットフォームで、常に投資家が安心して投資や運用ができるように不動産情報を透明化しています。
このような価値を提供している企業は業界内でも珍しく、当社の競争優位性に繋がっています。
MFSの成長戦略
「モゲチェック」の成長戦略
限定優遇金利の拡大
私たちは「モゲチェック」を通じて、クローズドな形で提供できるモゲチェック限定優遇金利の商品の提供を拡大していきます。
限定優遇金利は、「モゲチェック」ユーザーの信用力分析を行い、スクリーニングした上で、ユーザーの信用力やニーズに応じて優遇した条件のローン商品を提案することで成り立っています。
これまで住宅ローンの業界では、金融機関同士のダンピングなど、無駄な価格競争により収益性を毀損してしまうケースが多数発生していました。
また、複数社に申し込むことで実行率が下がってしまうという課題もありました。
しかし、モゲチェックを活用した優遇金利であれば価格競争に巻き込まれることなく、ピンポイントでユーザーを指名できるため、クローズドな環境で良い条件を提案し、実行率を高めることができると考えています。
金融機関同士の過当競争と実行率、この2つの問題を解決する有効な手段として多くの金融機関に拡大していきたいと考えています。
サービス改善
「モゲチェック」の品質を高めるため、これまでの審査結果データを活用し、さらなる精度向上を目指します。
既に1万件の審査結果のデータが蓄積されているため、このデータをAIに学習させ、信用力分析モデルを洗練させていきます。
現在、最低限の情報で審査申込み可能なクイック申込みを導入している金融機関は6つです。
このクイック申込みの対象となる金融機関を増やしていくことでUIを高めたいと考えています。
また、AIを活用してユーザーサポートを自動化していくことで業務負荷の軽減や、迅速な対応を実現したいと考えています。
そして、アプリの改善も重要な成長戦略です。
借入や借換、不動産売却までをワンストップで利用できるサービスに仕上げることで、継続的に利用していただけるサービスを目指します。
さらに、アプリの導線を変更し、申込みまでのスムーズな流れができるように、UXを改善する取り組みを行っています。
オフラインマーケティングチャネルの拡大
住宅ローンの選定において、未だリアルチャネルの存在感が大きいため、オフラインでのプロモーションも積極的に行います。
現在、不動産業者を中心に、保険代理店や住宅ローン事業者などの幅広い企業がモゲチェックパートナーとして活動しています。
モゲチェックパートナーのお客様に対して、「モゲチェック」のサービスを紹介していただいています。
パートナー経由で「モゲチェック」でローンが実行された場合は、成約手数料をお支払いするというモデルです。
今後もモゲチェックパートナーを増やし、より多くの人々に「モゲチェック」の利便性を広めていきたいと考えています。
「INVASE」の成長戦略
当社は投資家に本質的な不動産リスクを負わせるべきではないと考えています。
不動産投資のリスクは、一般の方々にとって非常に理解しづらい部分があるからです。
当社が対象としている投資家は、本業が別にある傍ら不動産投資をしている方がほとんどです。
ユーザーが頭を悩ませることなく、安心して投資できる環境を提供するのが私たちの役割です。
このため、私たちが取り扱う物件は、区分マンションかつ東京23区、横浜市、川崎市のエリアに絞っています。
大阪や福岡、札幌など地方都市の物件、リノベーションを必要とするような物件は利回りは高い傾向にありますが現時点ではリスクも高いと当社では判断しているため、掲載していません。
当社の対象範囲とするエリア、物件の情報に特化して「INVASE」の価値を高めてまいります。
賃料が将来どう推移するのか、キャップレートの構成要素がどう変化するのかを綿密に分析し、独自に開発した「Pスコア」の精緻化を進め、より正確な価格評価を提供していきます。
足元ではインフレが進み、この市場トレンドが続く限りは不動産売買は活発になるため、「INVASE」の情報価値は高まっていくと考えています。
注目していただきたいポイント
私たちのビジネスを長期的な視点で見ていただきたいです。
今後、住宅ローンの申込みはますますオンライン化が進んでいくと予測しています。
現状、住宅ローンの審査に必要な情報として、年収や勤務先、家族構成といった基本情報のほか、源泉徴収票や確定申告書が必要です。
しかし、こうしたプロセスは全てデジタル化されると考えています。
例えば、収入などに関する情報はマイナンバーカードと紐付けされるようになります。
最終的には、ユーザーが不動産会社に依存せず、自分の持っているデータだけで、オンラインで瞬時に審査が完了するという世界はそう遠くないと思っています。
ただ、各金融機関によって異なる審査基準やローンの種類は異なります。
私たちが提供している「モゲチェック」は審査ロジックをしっかりと分析し、団信なども含めた利回りを提供し、独自のシステムを確立しています。
当社はユーザーに対して有益な情報を与え、中核的な役割を果たしていくと考えています。
「INVASE」では”長期的な資産形成ができるように”と考え、投資用不動産を金融商品として見ています。
私を含むボードメンバーは金融機関出身者が多く、不動産を生業とする企業とは異なる視点で判断しています。
当社が適正なバリエーション(価値評価)を行い、ユーザーに必要な情報を提供することで、個々人が価格に対する感覚を持ち、不動産会社に依存せず、物件の価値を自分で評価できるようなマーケットを実現したいと考えています。
投資家の皆様へメッセージ
2024年は、MFSにとって重要な節目の年となります。
「モゲチェック」のサービスは当初、銀行代理の問題を始めとしてビジネス化には多くの壁がありました。
しかし、私たちは日本で初のオンライン・モーゲージ・ブローカーとして、事業基盤をしっかりと築き上げてきました。
そして、投資用不動産の領域も成長させ、成長ドライバーとなる2本の柱を確立しています。
私たちはいよいよ黒字化に向けたフェーズに入っています。
これまでの取り組みが実を結ぶ年になると確信していますので、ぜひ今年度の業績にご期待いただければと思います。
株式会社MFS
本社所在地:〒100-0004 東京都千代田区大手町1-6-1 大手町ビル2階 FINOLAB
設立:2009年7月1日
資本金:596,800千円(2024年6月末時点)
上場市場:東証グロース市場(2024年6月21日上場)
証券コード:196A