【4825】株式会社ウェザーニューズ 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年10月29日に実施したIRインタビューをもとにしております。

株式会社ウェザーニューズは気象・気候ビジネスの市場を切り拓いてきたフロントランナーです。

代表取締役社長の石橋 知博氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社ウェザーニューズを一言で言うと

気象・気候ビジネスのフロントランナーです。 

ウェザーニューズの沿革

株式会社ウェザーニューズ代表取締役社長 石橋 知博氏

創業の経緯

ウェザーニューズの創業のきっかけは、1970年代にさかのぼります。

当時、創業者である石橋 博良は商社に勤務しており、木材をアメリカから日本へ運ぶためにチャーター船を手配する業務に従事していました。

ある時、その船が「爆弾低気圧」と呼ばれる急速に発達する低気圧に遭遇し、15名の船員の命が失われるという悲劇が起きました。

この悲劇によるショックは大きく、「船員の命を守る仕事をしよう」と決意し、数年後、アメリカ西海岸にあったオーシャンルーツという船の航路をサポートする会社に転職しました。

日本国内では海だけでなく陸上や航空分野においてさまざまな気象ビジネスを展開しました。

そして1986年にウェザーニューズとして独立し、最終的にはオーシャンルーツを買収する形で、事業を統合しました。

これが当社の創業のきっかけです。

BtoBからBtoS(BtoC)へ拡大

創業当初は、法人向けに、船舶や航空、流通、エネルギー分野にBtoBで事業を展開してきました。

その後、徐々に個人向けにBtoS(Business to Supporter)事業を展開していきました。

1999年2月からDocomoのiモードがスタートした際、最初の64個の公式アプリの一つとしてウェザーニューズの天気予報コンテンツがリリースされました。

サービス開始当初の会員数はごくわずかで、そこから各種手数料を差し引かれ、最終的な入金はほぼありませんでした。

「本当にビジネスとして成り立つのか?」という声も社内であがっていましたが、振り返ってみると、個人向けビジネスの先駆けとして大きなターニングポイントだったと思います。

その後、個人ユーザー(サポーターとの)双方向性のコミュニケーションを深め、気象でつながるコミュニティを一緒に育てていきながら、個人向けの気象コンテンツの充実や気象制度の向上に取り組み続けてきています。

数年前から広告事業も始めており、アプリのサブスクリプション売上や広告収入を中心に、現在では、全社売上の37%ほどを占める事業にまで成長しています。

株式会社ウェザーニューズ 中期経営計画 第5成長期 Stage1(2023-2025) より引用

ウェザーニューズの事業概要と特徴

概要

私たちの価値は、お客様に気象情報を提供することで、さまざまな業界で直面する気象リスクを軽減することにあります。

船舶業界を例にとると、台風の情報が無かった場合、強風によりコンテナ船に積まれているコンテナが落下することで大きな被害が発生してしまうという恐れがあります。

また、半導体工場では落雷により生産が停止し、その瞬間に数十億円規模の損害を被ることになります。

こうしたリスクを回避するために、安全な航路を提供したり、雷が接近した際には「雷モード」に電源を切り替えるアドバイスをしたりなど、気象情報を元にした対策を提示することで、リスク回避に貢献しています。

また、マーケティングの支援にも当社の気象情報は活用されています。

例えば、コンビニでは急な雨の発生などにより傘が売れる可能性が増えるため、売り場に傘を出すかどうかの指標を提示しています。

このように、気象とビジネスの関係性を分析し、被害を回避したり、売上を向上させたりする予測ができる場合にオペレーションを最適化するアドバイスをしています。

こうしたコンサルティングサービスが、BtoBを対象とした気象ビジネスです。

そして、法人で培ったノウハウやサービス力を元にBtoSとして個人向けに提供しているのがアプリ「ウェザーニュース」です。

ユーザーによる月額課金体制のサブスクリプションの収益が発生していますが、ほとんどの機能は無料で利用できます。

無料ユーザーにはアプリやブラウザ上に広告が表示され、それによる広告収入も得ています。

基本的にはBtoB、BtoSの両方でサブスクリプションモデルを採用していますが、サービスを一度利用いただくと、その価値を実感していただきやすく、解約率(チャーンレート)は非常に低くなっています。

特に、企業にとっては月額料金を支払うことで、「年に数回でも大きな損害を被る気象リスクを回避できるのであれば」ということで価値を感じていただいています。

事業における優位性

Data・Forecast・Communityの好循環

当社の強みはData・Forecas・Communityのサイクルを回し続けることで成果を上げていることです。

BtoBの代表例として船舶業界を挙げますと、まず、データに関しては、船からの気象データや船長からのリポート、最近ではCO₂排出量や燃費などの情報も、我々が独自のテンプレートを使って収集しています。

地上の観測機がないような海上でも、船そのものを観測機のように活用し、衛星画像やグローバルで集めた情報を駆使して予報を行っています。

そして、この予報を元にして、最も安全でコストが低く、燃料消費が少ない航路を提案しています。

さらに、データが増えることで予測精度が上がり、それによってお客様が増え、結果としてコミュニティが形成されます。

コミュニティができると、新しいデータが効果的に集まり、高精度の予測に繋がる、という好循環が生まれるわけです。

また、法人向けだけでなく個人向けでもこのサイクルを実現しています。

当社には「自分の地域の予報に貢献したい」と考えるユーザーからの「ウェザーリポート」が毎日20万通以上集まっています。

このウェザーリポートとは、ユーザーがアプリから自身のいる場所の「曇り」や「晴れ」といったリアルタイムの気象情報を発信するもので、写真や動画なども合わせて送っていただくこともあります。

これらのデータを独自の予測モデルに組み込むことで、高精度な予報を実現しています。

外部機関による調査でも2年連続で予報精度はNo.1と評価されており、アプリの利用者も年々増加しています。

現在ではダウンロード数が4,500万を超えるまでに成長しました。

株式会社ウェザーニューズ 中期経営計画 第5成長期 Stage1(2023-2025) より引用

高精度な未来予報を実現するために

当社では創業以来培ってきたノウハウとビッグデータを活かした高精度な予報が可能ですが、予報を作る現場では人の力が必要不可欠です。

例えば、船舶業界では、単に「東の海上は晴れです」と伝えるだけでは不十分です。

どの航路を通れば最も安全で燃費効率がよいかといった適切なルート情報を提供することが”価値”となります。

また、流通業界でも「明日の千葉市は晴れのち曇り、最高気温15度」といった情報だけでは、商品発注を担当しているスタッフはピンと来ません。

「明日は気温が前日よりも大幅に下がるため、おでんの売れ行きが期待できます」という具体的な情報であれば、有益な情報として活用できます。

このように、私たちが提供しているのは、「晴れ・雨(天候)」「寒い・暑い(気温)」などの単なる気象情報ではなく、何が売れやすくなるか、どのようなリスクが高まるか、安全なルートはどこかなど、当社の気象情報を活用したコンテンツです。

このようなコンテンツを提供するには、各分野に精通した専門知識を持つスタッフが必要になります。

当社の従業員は世界で約1,100名を超えていますが、その半数は24時間体制で運営を行うオペレーションスタッフです。

特に船舶業界では24時間体制が必須で、日本、アメリカ、ヨーロッパに予報センターを設置し、時差に応じて引き継ぎながら3交代制でサポートしています。

このように、多くのスタッフが関わるサポート体制は、各業界の専門知識を持ったスタッフが担っています。

そのため、気象情報を自社で管理しようと考える企業でも、最終的に当社に依頼する方がコストや精度面で優れていると判断し、当社を活用していただいています。

ウェザーニューズの成長戦略

SaaS型ビジネスモデルによる新たな顧客層の開拓

今後は、特にBtoB向けサービスにおいてSaaS型のビジネスモデルへのシフトを進めます。すなわち、シンプルな価格体系・サービス体系にシフトし、中小企業や個人事業主までの様々な顧客層にサービスを拡販していきます。

このSaaS型ビジネスモデル推進の背景には、創業当初からのDNAとも言える「船乗りの命を守りたい。」というドリーム(夢)があります。

現在サポートしているのは主に1万トン以上の大型船舶ですが、海で亡くなる方の多くは、小型船舶や漁船の乗組員で、気象情報の不足でリスク回避ができていなかったというケースが多いのです。

こうした中小企業や個人事業主に対しては大手海運企業向けのサポートは過剰であり、またコスト面でも高額になります。

そうした顧客層にもマッチする形のサービスをSaaS型で展開していきます。

また、サービスの運営方式もSaaS型にシフトさせることで、従来行っていたコンサルティングの手間をかけることなく、低コストで提供できるため、事業として大きくスケールすることができると考えています。

株式会社ウェザーニューズ 中期経営計画 第5成長期 Stage1(2023-2025) より引用

データ分析から始まる新たなAI型運営モデルの確立

近年のAI技術の急速な進化に伴い、世の中のサービスの多くが、AIで代替可能になりつつあります。

当社においては、高精度な予報を実現する上で必要である人手が必要な部分についてAIを活用し、サービスレベルを担保しながら業務効率化を図りたいと考えています。

現在はオペレーション全体の中でAI導入が可能な部分とそうでない部分を精査し、段階的にAIを活用しています。

これにより、サービスの品質を下げることなく、更新頻度や対応速度といったサービスレベルの向上を目指しています。

また、オペレーションスタッフをAIに置き換えていきますが、これまでオペレーションを担当していたスタッフは、よりお客様に近い位置でカスタマーサクセスを推進する存在として役割を変えていきます。

このようなAIによる運営モデルを確立させ、社内改革をしていくことが事業成長への大きな鍵となっています。

株式会社ウェザーニューズ 中期経営計画 第5成長期 Stage1(2023-2025) より引用

個人と法人を繋ぐシナジー効果による価値創造

当社の強みはBtoBとBtoSの両方の事業を展開しているという点です。

すなわち、BtoB企業向けの高品質のサービスを実現するノウハウを持っていることと、BtoS向けのアプリ運営を通じて培った、多くの人々に情報をタイムリーに伝達する知見を持っていることです。

我々はこのBtoBとBtoS両方の知見やノウハウといったアセットを繋ぐことで、事業における新たなシナジーを生むことを目指しています。

象徴的な例が「ウェザーニュース for Business」です。これは個人向けアプリのインターフェーズを法人向けにカスタマイズしたものです。

日頃使い慣れているアプリなので直感的に操作することが出来ますし、管理部門の特定のスタッフのみならず現場のスタッフに数多く展開することも容易です。

そうした環境の中でスマホアプリを通じて必要な気象情報やアラートを受け取ったり、現場のオフィスではパソコンで気象情報を確認しながら、安全性や施工スケジュールの判断に利用いただくケースが増えています。

株式会社ウェザーニューズ 中期経営計画 第5成長期 Stage1(2023-2025) より引用

将来への継続的成長に向けたGlobal体制の構築

海外展開の成功の鍵は主に2つあると考えています。

1つ目は海外の陸上の気象データを取得できるかどうかです。

空と海に関する気象データは世界的に整備が進んでいる一方で、陸上データについては現地の気象機関や報道機関がどれだけ提供してくれるかに依存しています。

また、日本にもある「気象業務法」のような規制が各国にもあるため、それらをクリアしながらデータを収集し、現地に合わせた形で予報を提供していくことが重要なポイントです。

2つ目は営業体制です。

SaaS型のビジネスモデルへのシフトを通じて、インターネット経由で契約が完結する方向を目指しているものの、現地に合わせた営業体制は引き続き重要です。

ただし、フェイストゥフェイスでの営業というよりも、デジタルマーケティングを活用し、その国に合ったプロモーションやアプローチを推進していくような人財が重要であり、引き続き体制構築をすすめていきたいと考えています。

陸・海・空・インターネットの各ドメインの市場環境によってグローバル展開の進行速度にも差はあるものの、すでに一部の領域においてグローバル展開している当社にアドバンテージがあると認識しています。

引き続き業界のフロントランナーとしてグローバル展開を推進していきたいと思います。

株式会社ウェザーニューズ 中期経営計画 第5成長期 Stage1(2023-2025) より引用

CO2削減サービスを通じた地球環境への貢献

当社の夢としてもう一つ掲げているのが「地球の未来も守りたい。」です。

CO₂削減について、船舶業界では、化石燃料を燃やして航行することで多額の罰金が科せられるという時代になっています。

そして、一見、最短ルートを取ることが燃料消費の削減(=CO2の削減)に最も経済的だと思われがちですが、実際には潮の流れや風向きによっては、スピードが出ず、燃料を多く消費してしまいます。

場合によっては、少し遠回りして潮の流れに乗ったルートを選択した方が、燃料消費を抑えられ、結果としてCO₂の排出も削減でき、地球にも優しいということがあります。

このように当社は総合的に適切な航路をお客様にアドバイスし、コスト削減とCO₂削減の両方に貢献しています。

当社のサービスには、こうしたESGの視点が自然と組み込まれており、結果としてお客様のESGにも貢献するサービスとなっています。

これから環境対策に関連する市場はさらに拡大していくと考えており、私たちもこうした取り組みや新しいサービスを継続的に提供していく予定です。

株式会社ウェザーニューズ 中期経営計画 第5成長期 Stage1(2023-2025) より引用

注目していただきたいポイント

当社は現在39期目を迎えており、この間に築いてきたお客様からの信頼、ブランド、そして気象データ、ビジネスデータを豊富に蓄積してきました。

加えて、気象を基にした予測技術や、それをビジネス価値に変えていくノウハウも非常に大きな資産となっています。

これまでの実績を見ても、順調に売上を積み上げてきたことはご理解いただけるのではと考えています。

株式会社ウェザーニューズ 中期経営計画 第5成長期 Stage1(2023-2025) より引用

さらに、近年の気候変動や局所的な異常気象が世界規模での重要な課題として認識されており、この市場は今後ますます活性化していくと予測しています。

そして、当社がこれまで苦戦してきたスケール化の部分についても解決の兆しが見え始めています。

これまではお客様数の増加に伴って、社内リソースも増加していましたが、AI技術の進展により、当社の事業拡大に必要な技術が整い始めています。

遅咲きのルーキーといったところですが、今後大きな成長を期待できる会社だと自負しています。

競合も少なく、当社の成長を通じて、市場全体の認知度もこれから高まっていくはずです。

ぜひ、当社の事業に興味を持っていただき、今後の展開に期待していただけると幸いです。

株式会社ウェザーニューズ 中期経営計画 第5成長期 Stage1(2023-2025) より引用

投資家の皆様へメッセージ

当社ではBtoS(Business to Supporter)という考え方を掲げ、お客様を「サポーター」と表現しています。

株主の皆様も「サポーター」としてお迎えし、個人、法人、自治体、スタッフ、そして株主など、すべてのステークホルダーが一丸となって事業を支え、ドリームを実現したいと考えています。

投資家の皆様にも、単なる投資対象としてだけでなく、ぜひ事業にご参加いただき、ウェザーリポートなどを通じて地球を守る取り組みに加わっていただきたいです。

みんなで一緒に地球を守るコミュニティを作っていく、そんな気持ちでご参加いただければと思います。

株式会社ウェザーニューズ

本社所在地:〒261-0023 千葉県千葉市美浜区中瀬1-3幕張テクノガーデン

設立:1986年6月11日

資本金:17億6百万円(2024年10月アクセス時点)

上場市場:東証プライム市場(2000年12月25日上場)

証券コード:4825

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「わたしのIFA」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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