【4714】株式会社リソー教育 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年11月11日に実施したIRインタビューをもとにしております。

株式会社リソー教育は「すべては子どもたちの未来のために」という企業理念のもと、完全1対1の進学個別指導を中心に、顧客のニーズに応える「サービス業」として様々な事業を展開しています。

代表取締役社長の天坊 真彦氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社リソー教育を一言で言うと

いわゆる教育業ではなく、顧客のニーズに応える「サービス業」の会社です。

リソー教育の沿革

株式会社リソー教育代表取締役社長 天坊 真彦氏

創業の経緯

創業者であり、現在は創業者名誉会長を務める岩佐が1985年に当社を立ち上げました。

岩佐はもともと教材販売会社の子会社で教材を販売していたのですが、教材を一方的に売るだけでは満足できず、その教材を活用して実際に教えるところまでサポートしたいと考えたことが起業のきっかけです。

当初は理想教育研究所(理想研)という呼称で、1対6の少人数制の指導を行う教室展開からスタートしました。

しかし、少人数の1対6であっても個々の生徒に合わせた指導が難しく、できない生徒をそのままにしたり、できる生徒を待たせたりするという状況が生まれてしまうため、良心の呵責にさいなまれ、個別指導に切り替えようと考えたそうです。

集団塾のビジネスモデルが主流だった当時、「ビジネスとして成り立たないのではないか」、「現にどこもやっていない」と社員からの反対もあったようですが、岩佐は「少子化が進むこれからの時代には、個別指導が必要だ。どこもやっていないからこそいいんだ。」と判断し、個別指導への注力を決断しました。

その後、1990年に当社独自の「完全個室(全室黒板付)の1対1の個人教授システム」を開発し、教室名を「東京マンツーマンスクール(現 トーマス)」へと改称しました。

私が入社した1995年には、個別指導の体制が大体は整っている状態でした(まだ1対2の形が残っていました)。

株式会社リソー教育 より提供

M&Aと事業の多角化

その後、「東京マンツーマンスクール」を首都圏を中心に続々と開校していき、1998年12月に株式を店頭登録しました。

その後、2000年3月より「東京マンツーマンスクール」の愛称「トーマス」を正式名称とし、同年7月からインターネットを利用したリアルタイムによる双方向性の完全個別指導を目的とした株式会社日本エデュネットを設立しました。

このオンラインを活用した個別指導の試みは、当時、非常に画期的でしたが、まだ技術的に未熟で通信に時間がかかり、トラブルも多く、時代が追いついてこない状況でした。

その後、学習塾への導入や独自の教室の開設など色々試しましたが、それも上手くいかず、試行錯誤が続きました。

現在の学校内個別指導のスクールTOMASとしての形態で軌道に乗り始めたのはここ数年のことです。

また、2003年に「伸芽会」をM&Aしたことは当社の成長に大きく影響しました。

「伸芽会」は老舗の幼児教育事業を展開する会社で、もともとは目白に本社があった会社です。

当時、「伸芽会」のオーナーが高齢で事業譲渡したいという意向があり、上記のご縁もあってM&Aを行い、子会社化しました。

幼児期のお子さんを持つ方々もお客様とすることができるようになったことで、当社のサービスの幅が広がりました。

その後、伸芽会に託児部門を開設し、1歳からお子様をお預かりすることで、大学受験まで教育サービスを切れ目なく提供できるような体制を構築することができました。

現在に至るまで、この縦の繋がりは大きなアドバンテージになっていますが、完全にはつながりきれていない部分もあるため、まだまだ伸び代があると考えています。

リソー教育の事業概要と特徴

概要

当社は、「生徒の個性・個人差は千差万別。その個人差に的確に対応できる教育こそが本物の教育であり、理想の教育である。」という理念のもとに、5つのセグメントで事業を展開しています。

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1つ目は学習塾事業です。

直営で運営している進学個別指導塾TOMAS(トーマス)では小学生から高校生までを対象に、個々の生徒の学習速度に応じて作成したオリジナルカリキュラムをベースに、1対1の個別指導で質の高い学習機会を提供しています。

2つ目が家庭教師派遣教育事業です。

プロ家庭教師センター「名門会」や医学部受験専門個別指導塾「MEDIC名門会」、全国展開の進学個別指導塾「TOMEIKAI」、双方向オンライン授業「名門会Online」を運営しています。

3つ目が幼児教育事業です。

幼稚園・小学校受験の指導を行う「伸芽会」や託児事業・学童事業の「伸芽’Sクラブ」の運営を行っています。

そして4つ目が学校内個別指導事業です。

これまでの個別指導ノウハウを活かして、学校内に個別指導塾「スクールTOMAS」を導入し、進学実績向上のサポートをしています。

最後に5つ目が人格情操合宿教育事業です。

各種体験ツアー企画や体操教室、サッカー教室、留学事業などを運営する「プラスワン教育」を展開しております。

体験型教育プログラムや各種習い事スクールを通じて、勉強だけではなく人間の幅を広げる「プラスワン」を見つけるサポートをしています。

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事業における優位性

高品質な完全個別指導の提供

当社は生徒の個性に合わせた高品質な完全1対1の進学個別指導サービスを提供し、進学実績を着実に伸ばしてきました。

これまでは急ピッチな教室拡大に伴い、教室運営を担う人材として即戦力を必要としていたため中途採用がメインでしたが、近年では、新卒採用も開始しています。

新卒で採用した人材は教育に情熱を持った優秀な方が多く、やりがいを持って真摯に取り組む方々ばかりです。

まずは「社員講師」として、生徒を教える役割を担ってもらい、数年後には希望に応じて様々な業務に挑戦できる仕組みを整えています。

数年後、しっかりと当社に残ってもらい、中核的な役割を担うようになれば、個別指導の品質をしっかりと保ちながら、今後の当社グループの成長を牽引する人材になっていくと考えています。

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多様な教育サービスの提供

当社の強みは、幼児教育から大学受験まで幅広いサービスを提供していることにあります。

また、勉強のみならず「プラスワン教育」という形でスポーツ・芸術・文化支援活動などの機会も提供しています。

多様な教育サービスの提供は、様々なお客様との接点を設けることができるとともに、縦のつながり、横のつながりを活かした事業展開ができると期待しています。

これまで、各事業がそれぞれの専門性を高めてきており、高い品質で教育サービスを提供できていると自負しておりますので、今後当社のグループ力を活かした成長ができるはずです。

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リソー教育の成長戦略

取り巻く外部環境と当社のポジション

現在、日本では少子化が加速しています。

そもそも当社が個別指導に切り替えたのは、少子化への対応策の一つでした。

子供の数が減少することで、一人当たりの教育にかける費用や期待が高まる傾向があります。

そして、教育はやり直しがきかないため、「自分の子供だけをしっかり見てほしい」というニーズが高まっていくのです。

そうなると、安心で安全な個別指導のサービスが求められるだろうと考え、そのニーズに対してしっかりと訴求してきました。

また、一都三県への人口流入が続いているため、これらの地域では子供の数が大幅に減少しているわけではありません。

そして、受験ニーズの低年齢化が進んでいることも事実です。

以前は大学受験が中心でしたが、現在は中学受験に加え、小学校受験や幼稚園受験といった需要も増えています。

当社の場合は、これらのニーズに応えることができる教育サービスをしっかりと社内で整えています。

さらに、大学入試の早期化や総合型選抜の影響で一般入試の受験生が減少し、進路が早々に決まるケースが増えています。

一般的には、大学合格後に塾を辞めてしまうというケースが増えており、売上の減少につながるという課題もありますが、当社は進学個別指導塾ですので、難関校を目指す生徒向けの指導を継続し、進路が決まった後も各個人の必要に応じてサポートできることが強みです。

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ターゲットと各事業における開校戦略

個別指導という性質上、それなりの費用がかかりますので、「なんとなく教育を受けさせたい」というよりは、明確な目的を持ったご家庭がお客様となります。

たとえば、学力をランクアップさせたい、難関校進学など高い目標を達成したいといったニーズを持つ方々です。

そのニーズに応えるため、当社グループでは多様な教育サービスを展開しております。

開校戦略としては、「TOMAS」では引き続き、一都三県を中心に展開を続けていく予定です。

現在展開しているエリア以外にもまだ開校可能なエリアが残されていると考えているからです。

また、後でご説明します教育特化型ビルの「こどもでぱーと」が2025年4月に開業しますが、こどもでぱーとでもTOMASを展開します。

一方で、「名門会」については地方に展開しておりますが、地方の少子化は非常に深刻です。

ただ、大阪や名古屋といった大都市であれば、まだ開校が可能であると考えています。

そのほかに、ネットを活用したオンライン指導の展開を開始しており、ニーズが増えていることから拡大に向けた戦略を練っているところです。

「伸芽会」については、小学校受験者数が増えている一方で競争が激化しています。

引き続き、一都三県を中心とした小学校受験のニーズを取り込みつつ、毎年生徒数が増加している学童事業をさらに成長させたいと考えています。

また、伸芽会もこどもでぱーとに展開します。こどもでぱーと たまプラーザには伸芽会の全ブランド(伸芽会、伸芽’Sクラブ託児、伸芽’Sクラブ学童)、こどもでぱーと 中野には伸芽’Sクラブ学童が入り、それ以降に開業するこどもでぱーとにも伸芽会のブランドを積極的に展開する予定です。

そしてセグメントの中で最も成長しているのが「スクールTOMAS」です。

現在、私立中高一貫校を中心に約100校で導入されていますが、その2倍の200校程度までは十分拡大することができると見込んでいます。

今後、さらに実績を積み重ねていけば、国公立の学校にも参入できるのではないかと期待しています。

ヒューリックとの連携強化

少子化が加速度的に進む中で、業界全体として差別化が求められ、淘汰が進んでいくことは避けられません。

このような状況下で成長・発展を続けるためには、他業界との連携が必要だと考えています。

当社は2020年にヒューリックと資本業務提携を結び、教室展開において協業を進めています。

また、同時に当社とヒューリック、コナミスポーツの3社で業務提携を結び、子ども向けのサービスをワンストップで提供する教育特化型ビル「こどもでぱーと」の開発を共同で進めています。

「こどもでぱーと」は学習塾や体操教室など複数の子供向け施設を収容するビルで、教育分野に力を入れているヒューリックが新たに取り組んでいる事業です。

2025年春に中野(東京)とたまプラーザ(横浜)で開業を予定している「こどもでぱーと」には「TOMAS」、「伸芽会」、「伸芽’Sクラブ託児」、「伸芽’Sクラブ学童」を開校する予定です。

今後、渋谷など首都圏一等地のエリアで開校していく予定で、積極的に展開していきます。

このように、異業種との提携を通じて新たな価値を創出していきたいと考えています。

株式会社リソー教育 より提供

注目していただきたいポイント

現在、当社の事業で特に伸びているのは「スクールTOMAS」、つまり学校内での個別指導事業です。

これは学校の先生方の働き方改革とも非常にマッチしていて、たくさんの問い合わせをいただいています。

これまで、「学校と塾は相容れないもの」というイメージがありましたが、学校との連携が進む中で、学校と塾が足並みを揃えて指導できるということで、品質の高い学習機会の提供に繋がっています。

また、当社はこれまでの戦略や経験を活かしながら、次々と新しいビジネスモデルを展開しています。

「スクールTOMAS」のような新しい試みや、「こどもでぱーと」といった異業種との連携を積極的に進めることで、経営環境が厳しい中でも事業領域を広げ、成長の余地を創出し続けています。

現在、学習塾業界は淘汰が進んでいます。

しかし、当社は単なる学習塾の枠にとどまらず、多様な事業を展開しています。

当社の新たな試みや、異業種との提携など、中長期的な成長に向けた取り組みに注目していただきたいです。

投資家の皆様へメッセージ

当社では、株主還元を非常に大切にしており、創業者の岩佐の時代から配当を重視してきました。

これまでは配当性向100%を維持していましたが、コロナ禍や予期せぬ事態により、経営環境が変化してきたこともあり、現在は内部留保もある程度確保しています。

「配当性向50%以上」を目安としつつ、株主の皆様にしっかりと還元することを目指しています。

ただ、「1株当たり10円以上の配当」を維持するという方針も大切にしており、年によっては10円以上の配当をすることで、配当性向が90%に近づいてしまう場合もありますが、しっかりと還元を行っていきたいと考えています。

また、親会社であるヒューリックが支えてくださっているため、経営基盤は非常に安定しています。

さらに、学習塾業界は、一人一人の生徒さんや保護者の方々との信頼関係を着実に積み重ねることで、安定した成長を実現しています。

そのため、当社が突然経営不振に陥るというリスクは非常に低いと考えています。

今後も新規事業への挑戦を続け、伝統的な塾のスタイルにとどまらず、柔軟に変化しながら事業を展開していきます。

当社の成長にぜひ期待していただければと思います。

株式会社リソー教育

本社所在地:〒171-0031 東京都豊島区目白三丁目1番地40号

設立:1985年7月6日

資本金:45億9,041万円(2024年5月28日時点)

上場市場:東証プライム市場(1998年12月16日上場)

証券コード:4714

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「資産運用ナビ」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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