【6298】ワイエイシイホールディングス株式会社 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年12月12日に実施したIRインタビューをもとにしております。

ワイエイシイホールディングス株式会社はさまざまな産業の分野で、人々の生活に安心と豊かさを与える製品とその「製造装置や各種機器」を生み出すプロフェッショナルな企業の集合体です。

代表取締役社長の百瀬 武文氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

ワイエイシイホールディングス株式会社を一言で言うと

「しなやか先端技術企業集団」です。 

ワイエイシイホールディングスの沿革

ワイエイシイホールディングス株式会社代表取締役社長 百瀬 武文氏

創業の経緯

私は、もともと国際電気株式会社(現 株式会社日立国際電気)で技術者として働いていました。

昭和32年に工業高校を卒業後、産業機械部に配属され、ちょうどその頃は半導体技術が始まりつつある時期でもありました。

私はそこで機械設計を担当することになり、これが私と半導体との出会いでした。

国際電気には16年間勤務しましたが、昭和45年頃に松下電器のカラーテレビが不買運動の対象となり、その翌年にはニクソンショックやドルショックが起こったことで、半導体関連事業は売上130億円から30億円程度にまで縮小され、半導体製造装置の生産も削減されました。

このリストラの一環で、私が所属した第四技術部全員がグループ会社への2年間の出向を命じられました。

その後、同僚4人とともに会社を辞め、5人で新しい会社を立ち上げる決断をしました。

当時、私は課長職にありましたが、この決断には非常に大きな覚悟が必要でした。

一般的に、ベンチャー企業は「やりたいことがあるから始める」という動機で設立されることがほとんどですが、私たちの場合は、むしろ厳しい状況からの脱却が目的で、当時「新設企業の生存率はわずか3%」という統計を目にし、その厳しさを痛感していました。

そのような中、取引先との中小企業の経営者との交流を通じて気づいたのは、多くの経営者が「今日を乗り切れば明日もなんとかなる」という日和見的な考え方を持っていることでした。

これでは持続的な成長は望めないと考え、創業して直ぐにわが社の「創業理念」「5か年計画」「全員経営の方針」を策定しました。

事業計画の策定と安定的な経営

しかし、創業から2年半が経過した頃、不渡手形の問題が発生し、取引先の社長が姿を消し、先方の社員間では激しい対立が起こるという厳しい状況を目の当たりにしました。

そこで「会社を続けるためには何が必要か」を深く考え、たどり着いた答えは「赤字を出さないこと」でした。

この考えを貫き、結果的に創業から23年間においては、一度も赤字を出さずに経営を続けることができました。

最初の5カ年計画を達成した後、第二次、第三次と5カ年計画を策定し、長期的な目標を定めました。

創業12年目にはジャフコの担当者から「株式公開を目指してはどうか」と提案を受け、株式公開について徹底的に調査し、創立15周年の記念セレモニーで、「創立20周年までに株式を公開する」という目標を掲げました。

当時の売上は約16億9220万円、営業利益は1億50万円万円でしたが、上場までの目標は「売上50億円、営業利益5億円」と挑戦的なもので、大規模な事業拡大計画を立てました。

そして、20周年を目指して社員全員で努力し、結果的に目標を達成することができました。

しかし、時期は1993年のバブル崩壊後で、新規株式公開が1年間停止されるという想定外の事態に直面し、翌年の1994年に株式を公開しました。

初めての赤字と初めてのM&A

上場直後に新しい機械の開発を進めると発表したものの、残念ながらその開発に失敗してしまいました。

2つの重要な開発テーマで成果を出せなかったことが原因となり、創業以来初めて赤字を計上する結果となりました。

その後、事業をどう立て直すか悩んでいたとき、とある企業とのM&A(企業買収)を実施することになりました。

このM&Aが当社にとって重要な転機となり、売上が100億円を超え、その後の発展の礎を築きました。

その後も積極的にM&Aを推進し、現在に至るまでに約18社を買収することで、成長することができました。

ITバブルの崩壊と建て直し

しかし、2000年に発生したITバブルの崩壊は、当社にも大きな影響を及ぼし、リーマンショック以上とも言われるほど深刻で、日立や東芝といった大手企業も大幅な赤字を計上し、大規模な人員削減を行いました。

当社も例外ではなく、2001年3月期の決算で2回目の赤字となりました。

当社は特にハイテク業界を主力としていたため、技術進歩が早く、需要の変動が激しい「シリコンサイクル」という業界特性に対応する必要がありました。

この課題にどう向き合い、安定的な成長を実現するかを模索する中で、技術の進歩には対応できても、現場の稼働率の変動には対処が難しいと考え「ファブレス戦略」をとる事にしました。

ファブレス戦略では、営業、技術開発、サービスに注力する一方、現場での製造業務を外部に委託する形に業態を転換し、この改革の過程で、当時340人いた社員を220人に削減するという厳しい決断を行いました。

この際に赤字を計上しましたが、その後、会社は再び成長軌道に乗りました。

現在に至るまで

パソコンの普及が加速する中で、当社のハードディスク関連製品であるバニシャー装置は100%の市場シェアを持っていました。

これが急成長を遂げ、シーゲイト・テクノロジー、ウェスタン・デジタル、東芝、レゾナックといった大手企業に独占的に導入されました。

ピーク時の2007年3月期決算では、ハードディスク関連の売上が98億円に達し、営業利益も30数億円を計上したため、2007年に当社は東証一部上場を果たしました。

その後も、リーマンショックやコロナ禍など様々な苦境に立たされましたが、全社一丸となって課題に取り組む姿勢を続けながら、今後のさらなる成長に向けて邁進しています。

ワイエイシイホールディングス株式会社 より提供

ワイエイシイホールディングスの事業概要と特徴

概要

事業拡大を目指す中、現在当社は3つのセグメントで事業を展開しています。

まず1つ目が半導体・メカトロニクス関連事業です。

異なる特性を有する6社である、ワイエイシイメカトロニクス株式会社、ワイエイシイガーター株式会社、ワイエイシイビーム株式会社、JEインターナショナル株式会社、株式会社ワイエイシイダステック、YAC Systems Singapore Pte. Ltd.がリソースを最大限に活かし、あらゆるニーズに応えるべく、各社日々研鑽・向上に努めています。

次に2つ目が医療・ヘルスケア関連事業です。

メディカル・防災関連製品の製造を行うワイエイシイエレックス株式会社、独自開発した全自動毛髪スライサーやバイオ血液マーカー測定装置を通じて社会に貢献するワイエイシイバイオ株式会社の2社によって構成されております。

最後に、環境・社会インフラ関連事業です。

この領域は大倉電気株式会社、株式会社ワイエイシイデンコー、ワイエイシイマシナリー株式会社、瓦愛新(上海)国際貿易有限公司の4社によって構成されており、環境に優しく豊かな社会創造へのトータルソリューションを提供しています。

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事業における優位性

時代のニーズを意識した多角的な事業展開

当社は時代の流れに柔軟に対応しながら事業領域を拡大させてきました。

過去、私たちは多岐にわたる経験を重ねてきました。

技術者として、お客様からの要望を受けて「わかりました」と誠実に応え、製品を開発する中で技術力を磨いてきました。

これまで、どのような依頼にも柔軟に対応し、その過程でスキルや知識を蓄積し、培った技術を最大限活用し、お客様のニーズを発想の出発点としながら製品づくりに取り組んで来ました。

しかし、近年私が大切にしていることは、受注単品の装置製造だけではなく、量産できる新製品の開発です。

現在の社会ではSDGs(持続可能な開発目標)の流れが大きな影響を及ぼしています。

当社ではこれに対応するため、クリーニング業界向けの機械を製造する中で培った技術を応用し、新しい市場ニーズに応えています。

たとえば、衣類を自動的に包装したり折りたたんだりする包装機を活用し、ネット通販の拡大に対応した製品を開発しています。

かつては多くの人がデパートで商品を購入していましたが、現在ではネット通販が主流となり、配送の際に一つ一つの商品を包装する必要があります。

この新たな需要に応えるため、当社ではビニール素材を紙に置き換えたり、生分解性のシートを採用するなど、SDGsに配慮した製品開発を進めています。

また、日本国内では人口減少が進み、医療分野は今後ますます需要が高まると見込まれるため、当社にとっても最優先のテーマとなっています。

このように、時代のニーズに対応する製品を作り続け、それに対応する技術力を有していることが当社の強みです。

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ワイエイシイホールディングスの成長戦略

事業拡大と今後の方向性

アフターコロナの世界でどのようにして生き抜いていくのかを考え、3つの方向性を打ち出しました。

「プライム市場に残り、時価総額を100億円以下にしないこと」「創立50周年(2023年)を迎える際に過去最高の売上と利益を達成すること」「2030年までに売上高1,000億円超企業の仲間入りを果たすこと」の3つです。

これらの目標を掲げ、2024年から見直した3つの事業セグメントである、半導体・メカトロニクス関連、医療・ヘルスケア関連、環境・社会インフラ関連の3つに経営資源を集中させています。

当社はこれまで、顧客の要望に応じて製品を開発し、その過程で高い技術力を培ってきました。

しかし、開発した製品や技術を他の顧客にも展開する「横展開」が苦手でした。

たとえば、A社向けに開発した半導体製造装置を、B社やC社に提案するといった取り組みがほとんどなされていません。

このため、事業規模の拡大が限定的になっていたのだと反省しています。

今後は横展開を強化し、売上1,000億円を超える企業に共通する「一つのテーマで何百億円、数千億円規模の事業を構築する」という戦略を取り入れていきます。

当社には、現時点でそのような事業がないため、まずは基盤を整備し、持続的な成長を可能にする体制を構築することが重要です。

現在、売上100億円以上を目指す事業テーマを8つ立ち上げる計画を進めています。

医療・ヘルスケア関連事業の取り組み

当社が売上1,000億円企業の仲間入りを果たしていくためには、まず医療・ヘルスケア関連事業が鍵となってきます。

医療分野では、「人工透析機の拡大」「毛髪による疾病解析サービス」「血液による疾患マーカー測定装置の開発」の3つの取り組みを進めています。

まず、人工透析機の拡大についてですが、長年取り組んできた人工透析機のOEM供給をさらに拡大していきます。

当社は年間約4,000台の人工透析機を供給していますが、主要顧客であるニプロ社は「2030年までに売上1兆円を達成する」という目標を掲げており、当社製品の供給量を現状の4倍に増やす計画です。

これに対応することで、事業規模の大幅な拡大を期待しています。

次に、毛髪を利用した疾病解析サービスですが、まずアメリカのライナスバイオテクノロジー社と共同で、髪の毛を縦方向に自動で切断する装置を開発しました。

次に、この装置を使った疾病解析サービスを行う孫会社を、当社が51%、ライナスバイオテクノロジー社が49%を出資した合弁会社を間もなく設立し、日本で事業をスタートさせる予定です。

疾病解析サービスは髪の毛を縦方向に裁断し、そこにレーザーをあて解析し、健康状態を診断する仕組みで、病院経由や企業の健康管理などでの活用が見込まれており、将来鬱病はじめ多くの疾病診断にも役立つと考えています。

もう一つ、血液を利用した疾患マーカー測定装置ですが、食品工場などで利用する為にウイルス感染の有無を検査するための機械の開発から着手し、これを応用してあらゆる抗体を高感度にしかも全自動で測定する装置を開発しました。

現在、認知症の原因とされているアミロイドベータやタウ蛋白質の数値を測定することから進めています。

当社の作る機械は操作が簡単であることが特徴です。

将来的にはドラッグストアでも検査ができるように開発を進めていきたいと考えています。

さらに、この装置を使う際に必要な試薬の販売を通じて、コピー機のインクのように継続的な収益を確保するビジネスモデルを目指しています。

ワイエイシイホールディングス株式会社 より提供

注目していただきたいポイント

当社はこれまで「何をやっている会社かわかりにくい」と言われることが多かったのですが、現在では事業セグメントを明確化しました。

特に当社は医療・ヘルスケア関連事業に注力して、事業拡大を狙っています。

先ほどご紹介した髪の毛を使った疾病検査サービスは、まさにブルーオーシャン(未開拓市場)であり、この分野に取り組んでいるのは世界で当社とライナスバイオテクノロジー社のみです。

当社はこのアメリカ企業に17億円を投資しており、近い将来、この企業がIPOを果たすと期待しています。

このような取り組みも含め、医療分野は当社が最も注力している分野です。

また、血液を使った疾患マーカー測定装置に関しても、2024年11月に開催されたワイエイシイバイオ学術講演会では非常に大きな反響を得ました。

さらに、医療・ヘルスケア関連事業を早期に軌道に乗せるため、業界で著名な専門家6名を顧問として迎え入れています。

このような体制を整え、全力で事業拡大に取り組んでいます。

また、祖業である半導体分野についてはパワー半導体関連を中心に着実に成長しています。

投資家の皆様へメッセージ

当社の将来にぜひご期待いただきたいと思います。

特に近い将来、当社がどのように成長し、どのような成果を上げるのかを楽しみにしていただければ幸いです。

現在、日本の人口は急速に減少していますが、それに伴い、人命に関わる分野や、長く働く人々を支える医療分野の需要はますます高まると考えています。

創業から10年が経過した頃、「会社の存在意義とは何か」と深く考えた時期がありました。

そのときにたどり着いた結論が、「ワイエイシイは社会のものである」という理念でした。

この理念に基づき、社会に貢献することを当社の使命と定め、「利益を通じて社会貢献を実現する」という信念を掲げました。

この考え方は、これまで社員全員に徹底して共有してきたものであり、現在も当社の根幹を成すものです。

当社はこれからも、社会の一員としての責任を果たしながら、事業を通じて社会に貢献していきます。

そして、皆さまからの信頼と期待に応えるべく、さらなる成長を目指して努力を続けます。

引き続き、ご支援のほどよろしくお願いいたします。

ワイエイシイホールディングス株式会社

本社所在地:〒196-0021 東京都昭島市武蔵野3-11-10

設立:1973年5月11日

資本金:2,801百万円(2024年12月アクセス時点)

上場市場:東証プライム市場(1994年6月22日上場)

証券コード:6298

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「資産運用ナビ」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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