【5597】ブルーイノベーション株式会社 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年4月20日に実施したIRインタビューをもとにしております。

ブルーイノベーション株式会社はBlue Earth Platform(BEP)を軸にドローン業界の成長を牽引していく会社です。

代表取締役社長 最高執行役員の熊田 貴之氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

ブルーイノベーション株式会社を一言で言うと

自律分散型の社会インフラを支えるロボットシステムのプラットフォーマーです。 

ブルーイノベーションの沿革

ブルーイノベーション株式会社代表取締役社長 最高執行役員 熊田 貴之氏

創業経緯

当社は私の父が1999年に創業した会社で、私が2012年に引き継ぐ形で第二創業期に入りました。

2004年に世界初となる「海岸地形と底質粒径の変化が予測できる数値計算モデル」を開発し、海岸防災に焦点を当てたコンサルティング事業を行っておりました。

私は大学院時代に海岸防災の研究に取り組み、津波対策や砂浜の浸食対策など、災害の原因を航空写真を用いて解析していました。

しかしリアルタイムでの航空写真を入手することは難しく、災害直後の現場写真が手に入らないことが大きな課題となっていました。

そのような中、航空業界の第一人者でもある東京大学の鈴木教授と出会い、共同でドローン技術の研究をし、実用化を目指していきました。

このドローン技術が事業方針を大きく変えるきっかけとなりました。

実際にはドローンの研究を始めてから約6年間、市場でのブームは訪れませんでした。

ブルーイノベーション株式会社 2024年2月13日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

ドローンに対する世間からの注目

2013年からドローンを配送に使うと発表したAmazonが動画を公開したことをきっかけに、ドローンがただのおもちゃではなく、空の未利用な空間を有効に活用できる小型の無人航空機としての可能性を持つことが広く認識されるようになりました。

その後はあまり良いニュースではなく、2015年に無人機が首相官邸に落ちるという事件があり、そこでドローンの存在がさらに注目され、当社にも問い合わせが来るようになりました。

そのような中で、当社は2018年にドローン(・ロボット)統合管理システムのBlue Earth Platform(以下BEP)を発表し、ドローン等を運航管理するためのプラットフォームを構築しました。

そして2020年頃からのコロナウイルスの流行により、多くの企業がDX化を推進する動きが盛んになりました。

そこで省人化を実現するドローンとロボットが注目され、当社の売上は一気に伸びていきました。

また近年ではウクライナ戦争が勃発し、ドローンの軍事利用が進み、ドローン技術の進歩は様々な形で加速しています。

さらに2024年1月の能登半島沖地震など、ドローンが災害対応においても重要な役割を果たしており、これが新たな市場拡大の契機となっております。

上場経緯

当社は2023年12月に東証グロース市場に上場を果たしました。

ドローンは社会インフラを支える重要なツールとしての役割を担っており、戦争や災害時に活躍する一方で、産業の分野での普及は十分ではありませんでした。

このため、上場を通じてロボティクス業界、特にドローン業界の社会的認知を高め、産業分野での普及を促進していきたいと考えています。

ブルーイノベーション株式会社 2024年2月13日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

ブルーイノベーションの事業の概要と特徴

概要

当社はドローンのメーカーではなく、ドローンに関する業界をサポートするためにソフトウェアを提供し、ドローンのインフラを担っている企業です。

具体的には、ドローンやロボットと連携して遠隔で自動制御できるシステムの開発、ドローン操作のパイロット育成、そしてドローンの発着基地となるドローンポートの開発を行っています。

ブルーイノベーション株式会社 2024年2月13日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

そのようなシステム・人材・インフラを支える独自のプラットフォームとして構築したBEPを活用しながら、点検ソリューション・教育ソリューション・物流ソリューション・ネクストソリューションの4事業を展開しています。

まず点検ソリューションにおいては、当社の位置情報を核としたセンシング技術を用いて、屋外だけでなく、GPSの届かない屋内や特殊な環境でもドローンの自動飛行を可能にするセンサーモジュールとクラウドサーバーアプリを組み合わせたシステムを提供しています。

従来、送電線の点検は人による宙吊り点検等が主流でしたが、ドローンを用いた点検ソリューションを開発し、点検の自動化を実現しました。

またGPSの届かない環境でも安定的に飛行し、データを取得することが可能なため、一般的なドローンでは飛行ができないようなプラント内部の点検や巡回点検も提供しています。

また教育ソリューションにおいては、民間企業や国と連携して人材育成の分野に注力しております。

後ほど詳しくお話ししますが、ドローンパイロットの育成プログラムを提供することで、新たな職業創出と技術普及に貢献しております。

そして2016年より国土交通省や東京大学と共同研究を進めてきたドローンポートシステムを軸に、物流にドローンを活用する取り組みを進めています。

2023年6月には世界初となる物流用ドローンポート設備要件の国際標準規格化を当社が実現し、国内外での拡大が見込まれる分野です。

ブルーイノベーション株式会社 2024年2月13日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

事業における優位性

ユニークなポジショニング

当社の主力事業はBEPを軸にしたソフトウェアの開発と販売です。

多くのドローンベンダーが屋外のGPSが届く環境下でのドローンソリューションに注力している中、当社はGPSが届かない場所や特殊な環境でも飛行を可能にするセンシング技術を持っています。

これが当社の強みの1つです。

また一般的なドローンメーカーが1つのデバイスの開発に焦点を当てる中、当社はドローンだけではなく、自動搬送車やロボットなど複数のデバイスを統合したソリューションを提供しています。

さらに当社は全国に広がるパイロットネットワークを有しており、約10万人のパイロットと数十カ所の拠点で同時に運用することができます。

このように全国各地で迅速にサービスを提供できる体制を整えているため、電力会社などの大手顧客に対して一貫したサービスを提供することが可能です。

ブルーイノベーション株式会社 2024年2月13日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

また自社開発したBEPの技術を、各種ハードウェアメーカー・システム開発者・サービスプロバイダに対して、API連携して提供することでサービスの機能を拡充したり対象領域を拡大させたりしています。

ブルーイノベーション株式会社 2024年2月13日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

このようにあくまでドローンを実用化させるために、ドローン等のメーカーのインフラを整備している会社なので、各社とカニバリゼーションを起こさずに開発と実装を進めることができます。

このユニークなポジショニングは当社の最大の強みだと考えています。

教育ノウハウの蓄積による教育×点検の相乗効果

国内有数のドローンの教育実行機関であるJUIDA(一般社団法人日本UAS産業振興協議会)とドローンパイロット育成体系を構築し、豊富な教育アセットを保有していることは当社の強みです。

JUIDAは全国各地にドローンスクールを保有しており、2023年12月末時点ではパイロットの会員数は28,345名に上り、年々その数は増え続けています。

ブルーイノベーション株式会社 2024年2月13日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

そして日本全国のドローン専用飛行支援地図サービスSORAPASSを運営し、パイロットの会員数は2023年12月時点で約6万人を達成しました。

またこのサービスではドローンパイロットの飛行申請やドローンの保険など多岐にわたるサービスを提供しながら、パイロットの情報を蓄積して人材育成に活かしております。

ブルーイノベーション株式会社 2024年2月13日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

このような強固なアセットを活用して、点検ソリューションにおいて一気通貫のサービス提供サイクルを提供し、持続可能なサービスモデルを実現しております。

ブルーイノベーション株式会社 2024年2月13日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

ソリューションにつながる強固なパートナーシップ

私たちはドローンという新産業を扱っているため、その成長と発展に向けて技術革新・人材育成・法規制の3つの障壁を突破していく必要があります。

そのために当社は様々なパートナーシップを結んでいます。

ブルーイノベーション株式会社 2024年2月13日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

特に法規制に関しては大きな障壁で、国や自治体と密に連携し、ドローンの使用に関するルール・ガイドライン作りや参入障壁を下げるための国際標準化を進めています。

またドローン事業を主力化するまでに行っていた海岸防災のビジネスでは、国や自治体が顧客だったこともあり、官公庁とのコミュニケーションにおいては一日の長があると考えています。

人材育成の面では、大学教授や航空業界有識者が理事となっており、JUIDAとの連携を深めて教育カリキュラムの開発や人材育成を行っています。

さらに技術面ではハードウェアとソフトウェアの両面からパートナー企業や大学と共同で開発を進めております。

大学においては、私が大学院に所属していた期間も長く、研究において論文を執筆することの大切さを理解しているので、良好な関係性を築くためにも積極的に共同研究を行いながら論文を発表しております。

そして顧客でもあるインフラ企業とも協業し、具体的なソリューション開発を行いながら開発した技術を新たに創出した市場に革新的なサービスとして提供しています。

またこれまで当社のソフトウェアやソリューションの開発には、世界10カ国・地域以上から最先端の技術者が参加しており、技術者の数も順次増やしております。

そして柔軟に対応するためにアジャイル型の組織体制で開発しており、外部環境の変化や方針の変更などに対して即時に対応できるように整備しています。

ブルーイノベーション株式会社 2024年2月13日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

PoCから本格運用まで一気通貫のサービス提供及び多様な収益モデル

当社はサービスの導入検討から運用まで、顧客ニーズに即して段階的にサービスを一貫して提供します。

またソリューションにおいては、先ほどお話ししたように強固なパートナーシップを活用しながら開発を進め、最終的にはストック型のモデルであるBEPパッケージの提供に繋げています。

ブルーイノベーション株式会社 2024年2月13日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

このようにフロー型サービスで顧客を開拓しながらストックサービスに繋げていくことで、今後も継続的な収益の拡大を目指しております。

ブルーイノベーション株式会社 2024年2月13日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

ブルーイノベーションの中長期の成長イメージとそのための施策

領域の拡大

点検ソリューション

点検ソリューションにおいては既に電力会社などの民間企業での導入が進み、実績も積み上がってきているため、今後は公共インフラ施設の点検に領域を拡大していきます。

当社のGPSが届かない場所でもドローンを飛行できるという強みを活かして、経年劣化により点検頻度が増加している橋梁や水管橋の下など、特殊環境下での導入を進めております。

こちらの特殊環境においては送電線の点検と同様に手作業での点検が主流でしたが、技術者の高齢化や人材不足が課題となっております。

今後は当社の技術を活用して、リモートでドローンによる自動点検を可能にしていきます。

ブルーイノベーション株式会社 2024年2月13日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

点検・物流ソリューション

2022年12月にレベル4が解禁され、住宅やビルなど人口が集中しているエリアなどで補助者を配置せずとも、目視できない範囲を自動飛行させることが可能となりました。

こうした全自動化を予見して、当社はドローンポートシステムを開発し、既に仙台市では津波避難広報ドローンポートシステムが導入され運用が開始されています。

このシステムは津波のJアラートと同時にドローンが自動発着して、海岸に注意報を発するといった、非難広報を多様化する手段として活用されております。

また、事業概要でも少しお話ししましたが、2023年6月には世界初となる物流用ドローンポート設備要件の国際標準規格化が実現したため、物流ソリューションの更なる拡大も見込めます。

今後はドローンポートシステムが新たな社会インフラとして成長していくと考えています。

ブルーイノベーション株式会社 2024年2月13日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

防災ソリューション

ネクストソリューション事業として位置付けている防災ソリューションですが、ドローンやドローンポートを活用した様々な災害時支援を行っています。

既に国や自治体と協力して、災害時の状況把握や物資の輸送、そして非難広報などをドローンで代用しています。

実際に2024年1月におきた能登半島沖地震でも、災害時の状況把握などで防災ソリューションが活躍しました。

ブルーイノベーション株式会社 2024年2月13日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

機能の拡大

当社は、手動でドローン等を動かす「Standalone solutions」、単体のドローンやロボット等がBEPと接続する「Connected solutions」、ドローンやロボットの複数機種、複数台がBEPと接続する「Integrated solutions」、BEPに接続されたドローンやロボット等が自律して動く「Network-based solutions」の4段階に分けて機能を拡張しサービスを提供しています。

今後は1顧客に対して、BEPの機能を拡張させていくことでアップセル・クロスセルを拡大させ顧客単価を向上させていく方針です。

ブルーイノベーション株式会社 2024年2月13日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

業界内の横展開

電力会社をはじめ、同業界に属する企業は設備等が類似しているため、点検ソリューションにおいて横展開が可能だと考えております。

既に国内電力業界において、当社のソリューションを導入している企業は多数あり、PoCから本格導入も進めております。

また、他業界においても横展開と機能拡大を並行して行うことで受注拡大を目指していきます。

ブルーイノベーション株式会社 2024年2月13日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

注目していただきたいポイント

当社はBEPを通じて、ドローン業界におけるプラットフォームを提供しております。

このプラットフォームの構築のためには、技術革新・人材育成・法規制などに対応するためには、多くのパートナーとの連携が必要です。

このパートナーとの関係性の構築については、一朝一夕にできるものではなく、業界の知識や高い経験値が必要です。

このように高い参入障壁がドローン業界にはあるため、当社は独自的なポジションを築いています。

また当社の強みは、ドローン業界だけでなく様々な業界の課題に対して、ドローンやロボットを活用した総合的なソリューションを提供できるインテグレーション力にあると考えています。

私たちには業界の特性を理解し、しっかりと顧客の段階に合わせて課題解決する力があります。

投資家の皆様にはドローン業界において独自的なポジションを確立し、今後のドローン産業の成長とともに拡大していく当社のポテンシャルに注目していただければと思います。

ブルーイノベーション株式会社 2024年2月13日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

投資家の皆様へメッセージ

今後、ドローンとロボット技術は社会インフラを支える上で非常に重要なツールとなります。

また災害など有事の際には当社の技術の重要性は増し、活躍の場が広がっていくことが予想されます。

投資家の皆様には、当社がドローン業界の成長を牽引するポジションにあることを理解していただき、中長期的な期待をこめて、ご支援していただければと思います。

ブルーイノベーション株式会社

本社所在地:113-0033 東京都文京区本郷5-33-10 いちご本郷ビル4F

設立:1999年6月10日

資本金:695百万円(2023年12月末時点)

上場市場:東証グロース市場(2023年12月12日上場)

証券コード:5597

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「わたしのIFA」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

目次