※本コラムは2024年5月9日に実施したIRインタビューをもとにしております。
日本精鉱株式会社は高品質で様々な用途に応じたアンチモン製品の供給を続け、高い技術を活用して金属粉末製造も行う会社です。
代表取締役社長の植田 憲高氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
日本精鉱株式会社を一言で言うと
ニッチ業界でトップシェアを誇り、顧客ニーズに応じて材料開発を行う会社です。
日本精鉱の沿革
創業の経緯
約450年前の1573年に兵庫県北部の中瀬で金鉱が発見され、金・銀・アンチモンを産出する中瀬鉱山が発展してきたことが創業のきっかけです。
1935年に前身の中瀬鉱業が設立され、当初は金の採掘を目的として事業を始めました。
しかし金が枯渇し、副産物であったアンチモンという鉱物に目をつけました。
設立当初はアンチモンの価値がはっきりしませんでしたが、有効活用を図るため1948年にアンチモン製錬設備を建築しました。
当初、アンチモンは鉛の硬化剤として利用されていましたが、第二次世界大戦後にプラスチックが普及し、塩ビ樹脂の難燃剤として急速に広まりました。
そしてプラスチックの種類が増えていく中で、様々な用途に対応するための三酸化アンチモンの製造を進めました。
1968年に更なる増産に備えて、原料鉱石を全面的に海外から輸入し始めました。
そして1969年には中瀬鉱山を閉鎖し、アンチモンの精錬事業に一本化しました。
アンチモンから金属粉末へ
1996年には中国の豊富なアンチモン埋蔵量に注目し、原材料をアンチモン鉱石から金属アンチモンへ転換し、輸入先を中国に切り替えました。
着々とアンチモン事業の市場シェアを伸ばし、三硫化アンチモンやアンチモン酸ソーダなど新製品の製造・販売を行い、主力の三酸化アンチモン生産量は、現在では70%以上の国内生産シェアを誇ります。
その後、2000年に電子部品向けの金属粉末事業に進出し、日本アトマイズ加工株式会社(以下日本アトマイズ加工)をM&Aしました。
この会社は水アトマイズ法という水圧で溶融した金属を粉末化させる技術を持ち、この技術に目をつけ、合金粉末の製造を始めました。
この技術を活用し、現在は電子部品のインダクターやコンデンサー向けの合金粉末の生産が好調です。
このように金属粉末事業の拡大により、アンチモン事業・金属粉末事業の2本柱で事業を展開しており、新たな製品開発について積極的に取り組んでいます。
日本精鉱の事業概要と特徴
概要
当社は主にアンチモン事業と金属粉末事業の2事業を展開しています。
まずアンチモン事業では、三酸化アンチモン及び三酸化アンチモン特殊加工製品、ブレーキパッドの減摩材として配合される三硫化アンチモン、エンジニアリングプラスチック製品向け難燃用途に使用されるアンチモン酸ソーダ、半導体用や各種合金用に使われる金属アンチモン等の製造・販売をしています。
特にプラスチック材料の難燃剤として自動車、家電、産業機械、住宅などに用いられ、発火のリスクを抑えるのに役立っています。
また金属粉末事業では、電子部品向け導電ペーストに使用される銅粉・貴金属粉、パワーインダクタ用の軟磁性材としての鉄系合金微粉、精密モーター軸受等に使用される粉末冶金用銅系非鉄金属粉等を水アトマイズ法で製造し、販売しています。
足元ではDXの推進、IoTやAIの活用、5G対応端末の普及、自動車のEV化やエレクトロニクス化等を背景に、微細化されていく電子部品への素材としてのニーズが高まっています。
事業における優位性
ニッチ市場でのトップシェア
アンチモン事業においては主製品の三酸化アンチモンで国内メーカーの国内市場販売約70%のシェアを持っています。
特に三酸化アンチモンの需要は非常に高く、粒度や純度など顧客要求に合わせた各種三酸化アンチモングレードを品ぞろえしています。
我々が唯一製造しているような品目もいくつかあり、他社の参入余地はほとんどありません。
また様々なアンチモン製品を製造・販売しているため、お客様から最初に相談を受けるケースが多いです。
またコロナ禍前は世界中に取引先がありましたが、現在の主要取引先は国内の「〇〇化学・〇〇樹脂」と呼ばれるような、東証プライムに上場しているプラスチック関連企業です。
水アトマイズ法による技術力
水アトマイズ法とは、高圧水を用いて溶融金属の粉砕と急冷凝固を瞬時に行って金属粉を製造する方法で、非常に奥が深い技術です。
日本アトマイズ加工では元々、単一の銅粉を製造するのみでしたが、研究開発や製造技術の向上により銅粉の更なる微細化や合金粉末の製造に成功しました。
一般的には化学還元法と呼ばれる化合物から元素を取り除く方法で金属粉末を精製しますが、この方法では単一金属の粉末しか作れません。
しかし水アトマイズ法では、溶融した金属を水圧で微細化するため、様々な金属を粉末にでき、合金粉末も作ることができます。
また、お客様の要望に合わせて合金の含有比率を調整し、カスタマイズが可能です。
このように、水アトマイズ法を活用してお客様のニーズに柔軟に対応できる点が当社の競争力の源泉です。
日本精鉱の成長戦略
高付加価値のアンチモン製品開発
アンチモン事業はプラスチックの市場動向に左右されます。
パソコン・スマホ・自動車・住宅設備・産業設備等の多岐にわたる分野で需要が高く、コロナ禍では家電の買い替え需要から難燃剤として多く使われました。
しかし、コロナ後は物価の上昇により消費が抑制されてしまっているため事業が停滞しています。
そのようにモノの消費に難燃剤の売れ行きが比例するため、将来的に少子高齢化の影響を受けやすいことから高付加価値製品を中心に製造・販売していこうと考えています。
足元では2023年6月に四酸化アンチモンが医薬用外劇物から除外され、一般物として扱うことが可能となりました。
四酸化アンチモンは難燃性の高い三酸化アンチモンと耐熱性の高いアンチモン酸ソーダの中間的な特性を持っています。
そのように四酸化アンチモンは難燃性と耐熱性の両方の特性を持ち合わせているため、この特性を活かせる用途を見つけることができれば、更なる市場拡大に繋がると考えています。
金属粉末事業の生産体制強化
今後、金属粉末事業のニーズがさらに高まっていくと考え、工場の増築と金属粉末製品の増産を成長戦略として掲げています。
例えばスマートフォンの製造において、内部の電子回路基盤の小型化が求められています。
傾向としてスマートフォン自体は大きくなっていますが、これは稼働時間を長くするためにバッテリーの容積を増やしていることが理由です。
メーカー側としてはバッテリーの性能を上げるニーズが高い一方で、小型化する技術は難しく、バッテリーを大きくするしか解決策が無いのが現状です。
そこでスマートフォンに使われる他の電子部品の小型化が求められています。
このように微細化技術が常に求められる中、特に電子基盤の小型化は比較的進めやすいため、それに伴って材料の微細化のニーズは高まっています。
そのため、製造設備の強化・人材確保・省力化を行いながら生産体制の強化を行っていきます。
金属硫化物製品の開発
SULMICSシリーズとして金属硫化物製品の開発を進めています。
しかし現在、金属硫化物は世界中の天然資源である鉱石から採掘可能です。
また比較的純度の高い鉱石が低コストで採掘されている現在は、合成された金属硫化物の需要は限られています。
しかし資源が枯渇してくると、自然で得られる良質な硫化物の入手が困難になります。
その際に当社が製造している、合成でも純度の高い硫化物に対する需要が増加すると予想しています。
今後も将来的な需要に備えて、SULMICSシリーズの開発・製造・販売を進めてまいります。
注目していただきたいポイント
当社はBtoBビジネスでニッチな製品を扱っているため、顧客に我々の製品の価値を理解していただくのにハードルは高く、数時間に及ぶ説明をすることもあります。
しかし、当社の扱っている製品は我々の周りのあらゆるところに使われています。
先ほどもお話ししましたが、例えば三酸化アンチモンが使われている難燃剤はプラスチックで発火リスクのあるものに対して使われています。
もちろん発火するテレビを見たことはないとは思いますが、もし難燃剤が使われていない場合には電気回路のショートや発熱で発火してしまう危険性があります。
また、難燃剤の添加量によって発火リスクが異なり、細かい品質要求に対応するためには製品管理力や技術力が必要です。
皆様には当社がこのニッチな業界でトップシェアを維持しながら、我々の生活の必要不可欠な製品を作っていることに注目していただきたいです。
投資家の皆様へメッセージ
当社はニッチ業界をターゲットに安定的に成長を続けている企業です。
既に当社製品は市場で受け入れられており、長く使われる可能性の高い材料を提供しています。
また年々顧客ニーズは進化しており、要求に応えるために新たな技術を取り入れ、製品をアップデートさせながら供給しています。
投資家の皆様には当社の安定的な事業成長に期待していただき、ご支援いただけると嬉しいです。
日本精鉱株式会社
本社所在地:〒162-0822 東京都新宿区下宮比町3−2
設立:1935年6月11日
資本金:10億18百万円(2024年5月アクセス時点)
上場市場:東証スタンダード市場(1949年9月1日上場)
証券コード:5729