※本コラムは2024年11月6日に実施したIRインタビューをもとにしております。
株式会社リプロセルはiPS細胞ビジネスのトップランナーとして再生医療、医学・バイオ技術の発展に貢献すべく、挑戦を続けています。
代表取締役社長の横山 周史氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
株式会社リプロセルを一言で言うと
最先端のiPS細胞技術を有し、グローバルに展開する再生医療の会社です。
リプロセルの沿革
創業の経緯
当社の創業は2003年です。
ベンチャーキャピタルが京都大学と東京大学の再生医療分野で有名な教授2人に声をかけ、会社を設立したのが始まりです。
当時、「大学発ベンチャー1,000社計画」というものがあり、その中でも特にバイオ分野が注目されており、当社もその中の1社です。
ただ、創業初期の段階では当社は名前だけの会社で、ビジネス自体は機能していませんでした。
そこでビジネスを構築すべくベンチャーキャピタルが経営者を探している中、私に白羽の矢が立ち、取締役として当社に入社しました。
そこから本格的に事業がスタートしました。
ただし、再生医療をビジネスとして成立させることができるのは10年以上先になるだろうと考え、まずは研究者を相手にビジネスを展開しようと新たな方針を立てました。
当時、大学では再生医療の研究が進められていたので、大学の研究者に試薬や細胞を販売することで、一定の収入が見込めるのではないかと考え、研究支援事業をスタートさせました。
ES細胞技術の蓄積とiPS細胞の発見
iPS細胞が発見されるまでの再生医療はES細胞、つまり胚性幹細胞を使ったものが中心でした。
ES細胞を作製するためには受精卵を壊す必要があるため、倫理的な問題から、日本だけでなくアメリカやヨーロッパでも厳しい規制がかかっています。
そうした背景から、この再生医療技術は広がりにくい状況でした。
ところが、2007年に山中先生がiPS細胞を発表され、受精卵を使わず、皮膚の組織などから任意の細胞を作製できるようになったことで、ES細胞で懸念されていた倫理的な問題を解消することができました。
その結果、全世界で再生医療の研究開発が一気に広がることとなり、これが当社にとっても非常に大きな転換点となりました。
また、私たちが以前から培ってきたES細胞の技術は、そのままiPS細胞にも活用できたため、技術的に高い優位性を持った状態で事業を展開することができました。
上場とメディカル事業への参入
当社は再生医療の市場成長に期待し、2013年にジャスダック市場(現 東証グロース)に上場しました。
ちょうど同時期に、再生医療推進法が公布され再生医療製品の活用に向けた法整備が進みました。
それまでのビジネスモデルでは、大学などの研究機関向けに研究用試薬を販売するものだったため、厚生労働省の許可を取る必要もありませんでした。
しかし、再生医療製品は人体に投与するものであるため、厚生労働省の認可が必須となります。
そのため再生医療に関する規制や認可の仕組みが整備されていない状態では、治療目的の製品としての承認を受けることもできないので、再生医療製品の上市を実現することはできませんでした。
そこで、2014年に再生医療製品に関する法律「再生医療等安全性確保法」と「医薬品医療機器等法」が制定され、再生医療製品をどのようなプロセスで認可していくかという枠組みができました。
この法整備を受け、私たちもようやく事業化に向けた動きを本格化できるようになり、期も熟したということで再生医療製品事業を開始しました。
現在では、神経疾患やがん治療を対象とした再生医療製品の開発を進めており、臨床試験や製品化に向けた取り組みを行っています。
リプロセルの事業概要と特徴
概要
当社は研究支援事業とメディカル事業の2つの柱で事業を展開しています。
まず、研究支援事業は製薬企業や研究機関向けに、iPS細胞関連の研究試薬や創薬支援サービスを提供しています。
創業から20年以上培ってきた高度な技術力を強みに、iPS細胞から作製した心筋細胞や神経細胞などの製品化に成功しています。
次に、メディカル事業では研究支援事業で培ったノウハウを活かし、3つのパイプラインを軸に上市のための取り組みを進めています。(パイプラインについては後述)
事業における優位性
3つのパイプライン
当社が最初に手がけた再生医療製品は「ステムカイマル」という製品です。
これは、人の脂肪から取り出した間葉系幹細胞を培養し増殖させて、人に投与する治療法です。
もともと、台湾のステミネント社が臨床試験を行っていた製品をライセンスインし、当社が日本で展開することにしました。
日本では再生医療というとiPS細胞に注目が集まりがちですが、世界的には間葉系幹細胞を使った治療が広く行われ、この「ステムカイマル」も脂肪由来の間葉系幹細胞です。
そして治療の対象となるのは、脊髄小脳変性症という難病です。
この難病は脊髄や小脳が変性することで運動機能が失われ、最終的には寝たきりになってしまう病気ですが、現状では治療法がありません。
当社は再生医療による治療の確立には社会的意義があると考え、研究開発を進めています。
現在、第Ⅱ相臨床試験が終了しており、かなり上市に近い製品となっております。
次に取り組んだのが、iPS細胞を使った再生医療製品の開発です。
「iPS神経グリア細胞」というもので、ALS(筋萎縮性側索硬化症)や横断性脊髄炎という神経系の病気を抱える方々に有効な治療法として上市を目指しています。
現在はまだ動物実験の段階ですので、人への投与にはもう少し時間がかかる見込みです。
そして、3つ目の取り組みは、がん免疫療法です。
がん免疫療法は再生医療分野で最も多く用いられている分野で、アメリカをはじめ世界中の多くの国で普及しています。
この治療法は、患者自身の免疫細胞(白血球)を一度体外に取り出して活性化させた後、再び体内に戻すことで、自身の免疫力を高め、がん細胞を攻撃して根治させるというものです。
副作用が少ないため、非常に有望な治療法とされています。
その中で、当社は慶應義塾大学病院と共同で「腫瘍浸潤リンパ球輸注療法(TIL)」の上市に向けた取り組みを進めています。
この治療法の特徴としては、腫瘍内の免疫細胞を取り出して培養するというものです。
腫瘍内の免疫細胞は本来がんを攻撃しようとしますが、がんの内部に埋もれて動けなくなっている場合があります。
それを取り出して培養することで、大量の免疫細胞を作製し、それを再び体内に戻すことで、がんに対抗する力を大幅に高めることができるのです。
この治療法はすでにアメリカで認可されており、安全性も高いと評価されているため、この技術を日本でも展開するための準備を進めています。
再生医療を支える広範な技術力
当社には他社にはないさまざまな技術があります。
たとえば、iPS細胞関連の技術といっても、iPS細胞を作製する技術、iPS細胞から神経細胞を作製する技術、心筋細胞を作製する技術、遺伝子を改変するゲノム編集技術など、さまざまな技術があります。
多くの会社は、通常、特定の技術に特化しています。
神経治療を行う会社であれば、iPS細胞から神経細胞を作る技術には長けていても、肝細胞や心筋細胞を作製する技術や皮膚細胞からiPS細胞を作製する技術を扱うことはできません。
このように特定分野にフォーカスする会社が多い中で、当社はiPS細胞に関連する技術全般を網羅しており、社内で全ての技術を実現できる体制を整えています。
当初、再生医療における研究支援から始めている会社でもあるため、製薬メーカーや大学からのあらゆる要望を受けて技術力を高め、ノウハウを蓄積してきました。
この技術力が競争力の源泉です。
グローバル展開
これまで、当社はM&Aを通じて海外進出を進めてきました。
2014年の上場直後に、アメリカの2社とイギリスの2社を買収し、現在は「REPROCELL USA Inc.」「REPROCELL Europe Ltd.」の2社に統合しています。
このような海外展開の中で、元々それぞれの企業が保有していた技術やビジネスモデルも当社の強みとして取り込んでいます。
当社が幅広い技術を持つことができているのは、このように技術を持った企業を買収し、それらを統合してきたことにあります。
これまで当社に足りない技術は何かを考え、戦略的にM&Aを行ってきました。
リプロセルジャパンと海外子会社の技術を組み合わせ、一つの大きなネットワークとして結びつけ、技術力を高めています。
リプロセルジャパンを中心とするグローバルな当社グループの構築は、一朝一夕に実現できるものではなく、高い技術力をさらに強固なものにする重要なアセットだと考えています。
リプロセルの成長戦略
成長戦略の概観
当社は研究支援事業とメディカル事業を両建てて展開していることで、最大限シナジーを発揮することができているため、このビジネスモデルは今後も継続して進めていきます。
ただし、市場の成長性という観点では、メディカル事業が今後さらに成長していくと考えています。
10年前には再生医療製品が市場に出ておらず、研究支援事業だけが主軸でした。
しかし現在では、再生医療がグローバルに広がり、産業として発展を遂げており、当社も再生医療関連の製品ラインアップを拡充しています。
そのため、今後メディカル事業が売上全体に占める比率がますます大きくなると見込んでいます。
また、当社は日本、アメリカ、ヨーロッパにグローバルな拠点を持っています。
この体制により、再生医療のグローバル展開を非常にスムーズに行えると考えています。
市場規模で見ると、日本はそれほど大きな市場ではないため、世界市場の約40%を占めるアメリカ、約30%を占めるヨーロッパを中心に展開していく方針です。
したがって、当社の成長戦略においては、海外市場、特にアメリカとヨーロッパでの事業拡大が非常に重要な鍵となります。
当社ならではの成長戦略
当社は、希少疾患を対象とした再生医療等製品に特化し、大手製薬企業とは異なる領域で、
独自のポジションを築いています。
これからは、研究開発をさらに進めていき、事業を積み上げていくフェーズだと考えています。
具体的には、iPS細胞に限らず、医療現場で求められる治療法を確実に提供するべく、他の技術にも注力していきます。
また、当社の再生医療製品の開発については、ほとんどが大学との共同研究によるものです。
研究機関・学術機関と密接に連携できる体制をさらに強化しながら、今後も積極的に研究開発を進めていきたいと思います。
注目していただきたいポイント
当社の専門はiPS細胞ですが、この再生医療の分野では、「がん化のリスクや安全性の問題が高いのではないか」と昔からよく指摘されてきました。
iPS細胞を再生医療製品として使用するためには、こうした課題を克服する必要があり、当社では最先端技術を活用してがん化のリスクを抑えています。
それが「mRNA法」という技術です。
一般的にiPS細胞の作製には、ウイルスを使用します。
皮膚細胞や血液細胞にウイルスを使用し、そのウイルスに含まれるリプログラミングの機能を利用してiPS細胞に変化させます。
しかし、ウイルスを使用すると、ウイルスが細胞内に残ったり、遺伝子が変異を起こしたりするリスクがあります。
一方、当社が採用している「mRNA法」では、RNAが細胞の核内に入り込むことがないため、遺伝子組み換えが起こりません。
この技術により、極めて安全にiPS細胞を作成することが可能です。
当社は世界基準の最先端の技術を駆使し、極めて安全性の高いiPS細胞の作製を実現しています。
今後、iPS細胞を基盤としたプラットフォーム、さらには再生医療のプラットフォームとして成長していきたいと考えています。
ぜひ、当社には世界基準の高い技術力があることに注目していただき、今後の成長に期待していただければと思います。
投資家の皆様へメッセージ
再生医療の分野は、間違いなく成長する分野だと確信しています。
その中で、当社は確かな技術力とグローバルなネットワークを武器に事業を展開しています。
市場拡大とともに、当社も自然と成長していくはずです。
また、10年後、さらにはその先の未来において、「大きく変わったな」と感じていただけるような成長を遂げたいと考えています。
そうした未来を見据えて、引き続きご支援いただければ幸いです。
株式会社リプロセル
本社所在地:〒222-0033 神奈川県横浜市港北区新横浜三丁目8-11メットライフ新横浜ビル9階
設立:2003年2月26日
資本金:2,322百万円(2024年3月末時点)
上場市場:東証グロース市場(2013年6月26日上場)
証券コード:4978