【7743】株式会社シード 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年11月25日に実施したIRインタビューをもとにしております。

株式会社シードは「まだみぬ、世界は、美しい」をパーパスに掲げ、多様な「みえる」喜びを創造し、実現していきます。

代表取締役社長の浦壁 昌広氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社シードを一言で言うと

多様な「みえる」喜びを創造し、実現する会社です。 

シードの沿革

株式会社シード代表取締役社長 浦壁 昌広氏

創業の経緯

創業者の厚澤 弘陳が、現代風に言うと「大学発ベンチャー」のような経緯で創業しました。

彼は写真家としても知られていますが、もともとの家業は先代から続く義眼の製造業でした。

昭和初期は多くの人が戦争や事故で目を負傷しており、当時の産業は石炭をエネルギー源とする炭鉱や重厚長大型の産業が盛んな時代でもあったため、一定の需要があったようです。

そのため、義眼を取り扱っていた東京大学の医学部に出入りしており、その際にある先生から「欧米では、ガラスのような素材で目に入れる補助器具が実用化されている」という話を聞きました。

これがコンタクトレンズです。

厚沢は義眼の製造で培った知識を活かしながら、東京大学の先生らとともにコンタクトレンズの開発を進め、順天堂大学での研究を重ねた後、遂に1957年にコンタクトレンズの量産化を成功させ、当社を設立しました。

その後、1970年の大阪万博で、日本初のソフトコンタクトレンズを発表するなど、ソフト・ハード両方の改良を重ねながら、コンタクトレンズの普及に向けて様々な取り組みを行いました。

使い捨てソフトコンタクトレンズの広がり

1990年代以降、世界的に使い捨てコンタクトレンズの文化が広がりました。

当時、日本はこの流れに遅れを取りましたが、2000年代初頭に当社も本格的に参入しました。

それまで、当社の主力製品はハードコンタクトレンズで、その清潔さを維持するために必要な消毒液や煮沸器具などの関連商品の販売が売上の多くを占めていました。

しかし、使い捨てコンタクトレンズの普及により、事業ポートフォリオに大きな変化が訪れました。

市場のニーズに対応し、自社製品の多様化を図るため、当社は使い捨てコンタクトレンズの製造に注力する方針へと転換しました。

そして、2004年に2週間交換タイプ(2weekレンズ)を発売し、2009年には1日使い捨てタイプ(1dayレンズ)の製造・販売を開始しました。

特に1dayレンズは、設備投資が必要な製品であり、事業規模そのものを大きく変える転機となりました。

1dayレンズは基本的に装置産業であり、まず金属型を作成し、それを基に樹脂型を製造、最終的な製品の成形、滅菌処理、パッケージングまで行う必要があります。

この工程には高度で大規模な設備が不可欠であり、装置産業としての特性が強いのです。

こうした背景の中、当社は卸売業や従来行っていた眼鏡事業を縮小し、コンタクトレンズの製造・販売に特化しました。

これにより、使い捨てコンタクトレンズの普及を追い風に、成長を加速させることができました。

海外展開

国内外で事業を拡大した結果、現在では売上の約16〜17%を海外市場が占めています。

その多くは当社や海外子会社で製造した製品を販売しており、一部は台湾の委託工場で製造したものを流通させています。

海外展開ではM&A等を活用して拡大していますが、その多くが製造・販売フローを垂直統合させて内製化することで売上・利益を高めています。

たとえば、現在連結子会社であるWöhlk Contactlinsen GmbH(ドイツ)は、ヨーロッパにおける製造、卸売と中間物流を担い、コスト面で非常に高い優位性を発揮しており、今後の成長を期待しています。

また、東アジアを中心に需要の高いカラー・サークルコンタクトレンズの販売も行っており、台湾の委託工場を活用して拡大しています。

株式会社シード 2025年3月期 第2四半期決算説明会資料 より引用

シードの事業概要と特徴

概要

当社は1day・のコンタクトレンズからハードコンタクトレンズまで、幅広い商品展開で細分化するニーズに対応しています。

たとえば、天然うるおい成分を配合したコンタクトレンズ「シード1DayPure うるおいプラス」では独自素材を採用しており、UVカット機能など、多くの特長を持ったレンズです。

また、快適な見えるを追求した遠近両用レンズ「シード1dayPure EDOF」は遠視・近視の両方に対応できるレンズで、新たなターゲットを取り込んでいます。

さらに、人間用のコンタクトレンズの技術を応用して、医療シーンで扱える「内視鏡フード」や眼圧変動のピークパターンを測定する診療用のレンズ「トリガーフィッシュ システム」など、「診る」分野の製品開発も行っています。

株式会社シード 2025年3月期 第2四半期決算説明会資料 より引用

事業における優位性

「見る」に特化した高い技術力

当社は「見る」技術に特化しており、70年以上にわたりその技術力を磨いてきました。

近年発売した遠近両用レンズは、構想段階から実用化に至るまで多大な時間と労力を費やし、当社の技術力を結集した製品です。

製品を世に送り出すためには、均一で高品質な製品を大量生産することが求められるため、金型や素材の選定は非常に重要な工程です。

そこで、当社は原料の化学合成から最終製品の開発に至るまで一貫して手掛け、独自素材を開発しています。

オリジナリティを追求し、長く続く製品を開発することで市場でのポジションを確立しています。

このような“Made in Nippon”の高い技術力は世界にも通用しており、当社の競争力の源泉となっています。

グローカルな製品展開

当社は海外展開を積極的に進めていますが、コンタクトレンズに関わる各国の法規制は大きく異なります。

日本では、コンタクトレンズが「クラスIII」に分類される高度管理医療機器として扱われています。

一部の国では医師のみが販売を許可されており、規制がより厳格に運用されています。

各国で規制が異なるため、同業界のグローバルプレイヤーは数社に限られ、寡占化が進んでいます。

また、市場がローカライズされる一方で、サプライチェーンの構築にはグローバルな対応が求められることから、参入障壁の高い業界となっています。

こうした状況下において、当社は機能性の高い製品を提供することで価格競争を回避し、グローバルなニッチ市場で成功を収め、大きなビジネスチャンスをつかんでいます。

株式会社シード 2025年3月期 第2四半期決算説明会資料 より引用

シードの成長戦略

中長期的な成長に向けた戦略

現在、当社の売上高は約330億円ですが、中期経営計画では売上高500億円達成に向けた足場固めを目指しています。

その実現に向け、自社ブランドを重視しつつ、一部でOEMを活用した事業拡大戦略を採用しています。

ただし、OEMに依存しすぎると市場での存在感が薄れ、単なる供給メーカーにとどまるリスクがあるため、「価格を下げてOEMで伸ばす」という方法は利益面でも妥当ではありません。

そのためにもグローバルな競争力を強化し、持続的に成長できる体力を養うべく、事業基盤の強化に取り組んでいます。

株式会社シード 2025年3月期 第2四半期決算説明会資料 より引用

国内外の市場環境

世界的に見ると、近視率はアジアで急上昇しており、マーケットの成長が期待されています。

主にスマートフォンの長時間利用が原因で、近視が早期化・進行する傾向も見られます。

特に8ディオプトリー(レンズの度の単位)以上の近視になると、眼鏡は厚く歪みが生じるため、コンタクトレンズの需要が高まります。

ただし、所得水準が一定以上でなければコンタクトレンズ市場が拡大しないという、アフォーダビリティ(購買力)が課題となっています。

国内の近視率は70%以上ですが、現代の中国の状況を鑑みると90%程度まで上昇する可能性があります。

ただ、基本的には国内人口は減少してきているため、市場としての成長余地は限られます。

そのため、インドや東南アジア、中東、アフリカなどの新興市場への進出が重要だと考えています。

インドの近視率は10%程度ですが、これが40%に上昇すれば人口も加味すると、かなり巨大なマーケットになるはずです。

また、東南アジアには約10億人、中東のサウジアラビアには約7,000万人、エジプトには1億人近い人口があり、次の10〜20年後を見据えるとこのエリアに進出していく必要があると考えています。

競争力を高める新たな製品群

当社では、成長の「種」となる製品開発を積極的に進めています。

グローバル展開を進める上で、ミドルクラス市場向けの商品展開を強化すると同時に、高付加価値のハイエンド製品への投資も進めています。

特に医療用途に特化したニッチな製品の開発に注力しています。

たとえば、近視進行抑制関連として「シード1dayPure EDOF」や「オルソケラトロジーレンズ」を用いた治験を実施しています。

日本ではコロナ禍の影響で近視の低年齢化が進み、1/3の児童が視力1.0未満というデータもあるように、近視は深刻な社会課題となっています。

そして、強度近視は白内障、緑内障、加齢黄斑変性といった重大な疾患のリスクを高めるため、視力矯正の需要が急速に高まっています。

そのような社会課題を解決するためにも、当社は近視進行抑制関連の治験に積極的に取り組んでおり、結果として当社の競争力を高めることができると期待しています。

株式会社シード 2025年3月期 第2四半期決算説明会資料 より引用

さらに、当社は高酸素透過性のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズやスマートコンタクトレンズ、薬剤を含むDDS(ドラッグデリバリーシステム)コンタクトレンズの開発も進めています。

これらの挑戦を通じて、将来的な競争力をさらに高め、グローバル市場での成長を目指します。

株式会社シード 2025年3月期 第2四半期決算説明会資料 より引用

注目していただきたいポイント

まず、コンタクトレンズ業界が成長市場である点にご注目ください。世界では、2050年までに近視率が世界人口50%近くまで上昇すると予測されており、特にアジアでは近視率が高い水準にあります。

この少子高齢化が進む日本においても、成長が期待されるマーケットです。

さらに、当業界は参入障壁が非常に高く、競争に勝つためには設備投資を大胆に行う必要があります。

これは半導体業界と同様で、短期的な損益を度外視し、長期的な競争力を見据えた投資が不可欠です。

投資を怠れば、日本の半導体産業が投資時期を見誤ったように、業界全体が同じ道を辿る可能性があります。

当社はこのリスクを回避すべく、「今」を成長のための重要な投資時期と捉え、積極的に投資を行っています。

また、当社は高性能な光学機器や医療機器の販売にも携わり、それらを国際市場に横展開しています。

これにより、日本の高齢化社会においても、十分に採算の取れるビジネスモデルを確立しています。

コンタクトレンズは早ければ小学生から使い始めるロングライフの医療機器であり、このように長期間使用される製品は他にほとんどありません。

当社は子供向けから大人向けまで幅広い製品ラインナップを揃え、自社および協力会社を含めた強固なサプライチェーンを構築しています。

国内では5,000以上の取引先を持ち、マレーシアでは約750店舗、台湾では800〜900店舗の販売ネットワークを有しています。

この強固な基盤を活かし、さらなる成長を目指します。

当社の今後の投資戦略にぜひご注目いただき、成長にご期待ください。

投資家の皆様へメッセージ

成長市場であるコンタクトレンズ業界において、当社は社名にもあるように「成長する種(シード)」を多く持っています。

しかし、これらを成長させるためには思い切った投資が不可欠であり、投資を怠れば今後の競争で遅れを取る可能性があります。

そして、コンタクトレンズ業界には特有の特徴があります。

技術革新は、一気に飛躍するのではなく、工学的な進化を横軸、素材の進化を縦軸とする階段状のプロセスをたどります。

同時に複数の革新を進めることが難しいこの業界では、短期的な業績よりも長期的な成長を見据えた取り組みが求められます。

当社が現在進めている取り組みをご理解いただき、長期的な視点でご評価いただければ幸いです。

引き続き、温かいご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

株式会社シード

本社所在地:〒113-8402 東京都文京区本郷2-40-2

設立:1957年10月9日

資本金:35億3,231万円(2024年11月アクセス時点)

上場市場:東証プライム市場(1989年12月4日上場)

証券コード:7743

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「わたしのIFA」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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