※本コラムは2024年5月17日に実施したIRインタビューをもとにしております。
朝日印刷株式会社は厳格な品質管理を求められる医薬品・化粧品の印刷包材におけるリーディングカンパニーです。
代表取締役社長の朝日 重紀氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
朝日印刷株式会社を一言で言うと
医薬品・化粧品の印刷包材におけるリーディングカンパニーです。
朝日印刷の沿革
創業の経緯
当社は1872年に小澤活版所として創業し、1946年に朝日印刷紙器株式会社として設立しました(2002年に現在の社名へ変更)。
その後、1961年に日本で国民皆保険制度が導入されたことが大きなターニングポイントとなりました。
当時、当社は医薬品だけでなく、一般の印刷物も扱う総合印刷会社でした。
しかし国民皆保険制度の導入に伴い全国的に医薬品のニーズが高まった為、一般の印刷物から離れ、医薬品の印刷包材に特化するという大きな決断をしました。
そして医薬品の高品質な印刷を実現するために工場を建設しました。
この思い切った方針が当社の収益の大きな柱を作るきっかけとなりました。
医薬品・化粧品の2本柱に
1970年代後半には、高加飾で高度な印刷技術が求められる、付加価値の高い化粧品パッケージ分野にも進出しました。
そして医薬品・化粧品事業をさらに拡大するため、1989年には現在の富山工場を稼働させました。
その後、全国に営業拠点を拡大し、医薬品・化粧品分野が当社の大きな収益の柱に成長しました。
2002年には東証二部(現 東証スタンダード市場)に上場しました。
現在は工場の再編・拡大等を進めながら、医薬品・化粧品市場に特化し、さらなる事業拡大を目指しています。
直近では、2019年に国内だけでなく海外での事業展開を見据え、現地の印刷会社であるShin-Nippon Industries Sdn.Bhd.(以下シンニッポン社)、Harleigh(Malaysia)Sdn.Bhd.(以下ハーレー社)を、2023年にはさらなる推進のためKinta Press & Packaging (M) Sdn.Bhd.(以下キンタ社)を子会社化しました。
今後はASEANにおける印刷包材市場のシェア確立に向け、海外事業を推進していきます。
朝日印刷の事業概要と特徴
概要
当社は印刷包材事業と包装システム販売事業を展開し、市場としては医薬品業界と化粧品業界に特化しています。
売上げの約7割が医薬品向けで、約2割が化粧品向けです。
具体的には医薬品向けに、医師の処方箋に基づいて薬局等で提供される医療用医薬品、ドラッグストア等で販売される一般用医薬品、ドリンクに添付するラベル等を製造・販売しています。
また化粧品向けには、高加飾で付加価値の高いパッケージを製造・販売しています。
事業における優位性
包材から包装ラインまで総合的に提案
ワンストップサービスに強みがあります。
医薬品・化粧品包材の設計・デザイン・製造・包装までを自社グループで提供可能です。
大きく一般の印刷会社と異なるのは、納めたパッケージにお客様の製品を入れる作業を行う包装機械までを提供できる点です。
さらに医薬品業界で長年ビジネスを展開してきたため、お客様からの細かいご要望や法令への対応力も高まりました。
特に医薬品は命に関わる製品のため、成分表示等に対して非常に厳しい基準があります。
例えば医薬品のパッケージに記載される文言に1箇所でも誤植があるとなれば、業界を揺るがす大きなトラブルに繋がります。
そのため、お客様からデータを受け取った後、印刷物を制作する際には厳重なチェックを行っています。
このような高い品質を求められる医薬品・化粧品業界のお客様に対して、ワンストップサービスを提供していることは当社の強みです。
信用を支える設備環境
当社では絵柄や文字の規格を高精度にチェックするため、最新鋭の大判検品装置を導入しています。
これにより高い精度での照合検査を実現しています。
また印刷工程においては、インライン検査装置を設置し、両面を機械で全数検品することで省力化を実現しています。
このような最新鋭の設備環境を整え、一貫した品質保証を保つことで、医薬品業界における確固たるポジションを築き上げています。
同業他社には無い国内生産網
医薬品業界では製薬会社ごとに規格が異なり、多品種小ロットでの製造が必要です。
これを実現するために市場別・製品群別の生産体制を確立しています。
国内では、主に富山と京都の2府県で製造を行っています。
2015年にBCP(事業継続計画)の観点から京都に工場を設立し、富山と同様に医薬品・化粧品のパッケージを製造しています。
それぞれの工場で製品群に特化したライン構成で生産を行うことで、お客様の高度な要求にも迅速かつ的確な対応が可能です。
そして生産した製品を販売するため、全国に19カ所の営業拠点を設け、全国のエリアに密着した営業展開を行い、安心・安全な包材を提供しています。
朝日印刷の成長戦略
工場再編
現在、3か年の中期経営計画を遂行しており、2025年3月期が最終年度です。
その中でも足元では富山エリアでの工場再編に注力しています。
2024年4月には工場再編推進室を新設しました。
この背景には、2023年7月から医療用医薬品の添付文書が電子化されたことで生まれる工場内の空きスペースを有効活用し、事業を次のステージへ成長させるという目的があります。
これまでは主にパッケージと添付文書に力を入れていましたが、医療用添付文書に変わる次の柱として、ラベル事業に注力し、ワンストップでお客様のニーズに応える体制を再構築していきます。
次期中期経営計画においても、この工場再編は当社の持続的な成長と恒久的な安定供給体制を構築する上で重要なテーマであると考えています。
マレーシア印刷会社を子会社化
2023年10月にキンタ社の株式65%を取得し、マレーシア国内において3社目の子会社となりました。
これまで国内市場は非常に強かったものの、海外進出の機会がありませんでした。
そこでASEAN市場に注目し、市場調査を目的として2012年にシンガポールに駐在事務所を設立しました。
その後、ASEAN全域を見渡しながら、2019年にマレーシアのシンニッポン社、ハーレー社を子会社化しました。
両社とも市場や品質管理の考え方が当社と非常にマッチしており、マレーシアの医薬品包材市場のパイオニア的な存在として一定の地位を確立していたため、シナジーを生み出せると考えていました。
マレーシア南部のシンニッポン社、ハーレー社においては既に最新鋭の設備等を導入し、ASEANに対して医薬品包材の供給が可能な体制を整えています。
マレーシア北部に工場を置くキンタ社は、高価格帯の化粧品・食品向け印刷包材市場に強みがあり、国内で確固たる地位と強固な顧客基盤・信頼関係を築いています。
今後はマレーシアを起点にASEANの医薬品・化粧品包材市場のシェアを確立していきます。
海外子会社 新工場建設計画
2026年初旬の稼働を目標に、マレーシア子会社のシンニッポン社で新工場を建設する計画を策定しました。
稼働後はASEANを中心に包材を供給していくため、成長性は非常に高いと考えています。
これまでグローバルな医薬品メーカーの多くは、欧米から直接薬を中国やASEANに輸出していましたが、現地での生産に切り替えていくと予測しています。
しかし、中国に拠点を置くと法規制やセキュリティの問題があるため、ネクスト中国と呼ばれるベトナムやマレーシアに拠点を置くと考えられます。
マレーシアに拠点を置く当社は、包材の供給や梱包事業を現地で行うことができるため、非常に有利だと考えています。
今後もASEAN市場で差別化を図り、新規顧客を開拓していきます。
注目していただきたいポイント
当社はBtoBの企業であり、社名にも”印刷”と入っているため、投資家の皆様は「一般印刷を行っている会社」を連想されるかもしれません。
しかし、当社の主力事業は包材と包装システム販売であり、一般的な印刷会社とは異なります。
特に主戦場としている医薬品・化粧品は参入障壁が高く、差別化できる事業領域です。
医薬品のお客様に関しては全国の90%以上と取引があり、当社の厳格な品質管理と技術力が評価されているため、長年にわたり多くのお客様との信頼関係を築いてきました。
今後も医薬品・化粧品ともに市場を広げ、パッケージやラベルを含めて事業を細分化しながら展開していきます。
そしてグローバル事業にも注力していきます。
投資家の皆様には、こうした当社の特化した業界における強みと成長ポテンシャルに注目していただきたいと考えています。
投資家の皆様へメッセージ
当社は印刷包材の製造メーカーとして、国内の事業基盤をさらに強化していきます。
今後国内の労働人口が減少していくため、省力化・少人化を進め、生産体制の効率化を図りながら、独自性を追求していきます。
また、開発にも力を入れ、当社オリジナル製品等の開発品ラインナップを拡充することで、差別化を図ります。
一方、海外市場ではASEANをターゲットに成長を目指していきます。
今後も引き続き、皆様のご支援を賜りますようお願い申し上げます。
朝日印刷株式会社
本社所在地:〒930-0061 富山県富山市一番町1番1号 一番町スクエアビル
設立:1946年5月22日
資本金:22億2,800万円(2024年3月末時点)
上場市場:東証スタンダード市場(1993年8月24日上場)
証券コード:3951