【9237】株式会社笑美面 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年3月26日に実施したIRインタビューをもとにしております。

株式会社笑美面は介護家族が心の介護へ向き合い、高齢者が笑顔で居る社会を目指し、シニアホームに関連する事業を展開しています。

代表取締役社長の榎並 将志氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社笑美面を一言で言うと

社会課題「介護家族の介護負担」を解消する日本初のインパクトIPOとして上場した、ビジネスを通じて財務的なリターンと社会的なインパクト両方の創出を目指す「インパクトスタートアップ企業」です。 

笑美面の沿革

株式会社笑美面代表取締役社長 榎並 将志氏

創業経緯

当社は私が27歳の時、元々不動産業で賃貸マンションの開発などを手掛けていた経験を活かし、シニアホームの開設を視野に、2010年に設立しました。

当時、2011年に制定されたサービス付き高齢者向け住宅制度の追い風もあり計画を進める中、介護実習として初めて現場に足を運んだときに、自身が想定していた事業モデルと現場のギャップを痛感しました。

シニアホームの運営は単なる不動産業の延長ではなく、提供するソフトのサービスが重要であると考え、シニアホームの開設を断念しました。

ただ同時に、「仕事でこんなにも人の役に立てて感謝されることがあるのか」と感動し、介護実習が終わった頃には、介護に一生携わっていくという思いが強くなりました。

そして何ができ、何をするべきか考えた時に、一般的な物件には不動産仲介業者がいるのに、シニアホームにはプロの仲介業者がいないことに気づき、2012年よりシニアホームと入居希望者をマッチングさせるシニアライフサポート事業を始めました。

「サービス認知を高め、介護家族の負担を解消したい」と、上場

事業開始から半年以内に、シニアホーム入居を取り巻く環境には非常に様々な課題があると知りました。

自宅介護やシニアホーム入居を巡っての介護家族の疲弊、家族関係の崩壊や独居生活によるゴミで溢れているご自宅など、多くの問題が顕在化していました。

サービスを通じて介護家族の方にお話を伺う中で、私はこれらの問題の背景としてシニアホームに対する二つの誤解があることに気付きました。

一つはシニアホームへの入居に長い待機時間が必要だという誤解、もう一つは高額な費用がかかるという誤解です。

これらの誤解が、シニアホーム入居に対しての躊躇や諦めとなり、介護家族の疲弊や多くの悲しい事件を引き起こしていることがわかり、より一層事業の必要性を強く感じるようになりました。

今に至るまで50人以上のコーディネーターがいる競合は数社しかいません。

より多くの方の誤解を解き、入居を支援するには、日本全国にサービスを広げる必要があると考え、認知度向上とともに信用を確立していくために、2018年ごろから上場の準備を行ってきました。

そしてビジネスの成長をしながら社会的・環境的インパクトの創出をしていく、日本初のインパクトIPOとして2023年10月に東証グロース市場に上場しました。

株式会社笑美面 2024年10月期 第1四半期決算説明資料 より引用

笑美面の事業概要と特徴

概要

当社の事業はシニアライフサポート事業とケアプライム事業の二つです。

株式会社笑美面 2024年10月期 第1四半期決算説明資料 より引用

一つ目のシニアライフサポート事業では、コーディネーターが対面相談により入居までをトータルサポートするサービスです。

成果報酬型モデルで、シニアホームへの入居が決まった段階でシニアホームから成果報酬をいただいております。

主な紹介元経路としては退院調整を行うMSW(メディカルソーシャルワーカー)さんになります。

MSWの役割は、国の施策である在宅医療・介護推進を背景に患者の早期退院に向けて退院調整を行うことです。

しかし業務多忙で限られた時間の中で適切なシニアホームを探すことには限界があります。そのため無料で当社サービスを使うことができることに対して、業務効率化の観点から非常に価値を感じていただいています。

さらにシニアホームにおいても集客という点で、積極的な広告宣伝をせずともホームの特性に適した入居者を安定的に確保、空室を回避できるという点で高評価をいただいています。

また、この事業において特徴的なのは「家族会議」という独自のプロセスです。

コーディネーターが対面相談により入居対象者や家族のニーズについて理解を深めながら、適切なシニアホームを選べるように支援しています。

この会議では、シニアホームの種類や介護保険の利用方法の違いなど、シニアホームの誤解を解きながら説明し、どのようなシニアホームが利用者のニーズに応えられるか等、最適な選択ができるようサポートしています。

ケアプライム事業では、質の高いサービスで介護家族に安心を提供できるシニアホームを増やすため、プラットフォームに登録するシニアホームに対して経営力・運営力向上のための情報提供を行っております。

また新しいシニアホームを設立する際には不動産デベロッパーや個人投資家と協力し、立ち上げをサポートし、コンサルティング料をいただいています。

株式会社笑美面 2024年10月期 第1四半期決算説明資料 より引用

事業における優位性

オペレーショナル・エクセレンスを浸透

我々の競争優位性として、人材の再現性があります。

これはSales Enablementを導入し、PDCAサイクルを徹底して回すことでコーディネーターの早期立ち上げを実現しています。

また成長のためのロードマップを示し、そのスキルアップのための300以上の研修動画が視聴可能です。

さらに上司との1on1を通じたモニタリング及び改善活動が可能な体制を整えています。

この仕組みは、未経験者でもシニアホームのマッチングプロとして育成可能であり、急増する社員の早期立上げを実現するためのPDCAサイクルです。

このように緻密な人材育成プログラムが、未経験者でも短期間で高い能力を持つコーディネーターに成長させ、当社の成長を支えています。

株式会社笑美面 2024年10月期 第1四半期決算説明資料 より引用

蓄積したデータベース

当社はこれまでシニアライフサポート事業で蓄積してきた、シニアホームの情報や入居者の情報を含む豊富なデータベースがあります。

全国の9,000以上(2023年10月期時点)のシニアホームと紹介サービスの提携をしております。

また、スマイル数(成約した入居者)も2023年10月期は2,381人と、非常に多くの入居ノウハウを把握しています。

これらのデータを活用して、入居検討者に対しては適切なシニアホームの情報をコーディネーターを介して提供することが可能です。

そしてシニアホームに対しては当社のプラットフォームを介して提供しホームの運営に役立てることができます。

株式会社笑美面 2024年10月期 第1四半期決算説明資料 より引用

インパクトメジャメント &マネジメント

インパクトメジャメント&マネジメントを経営マネジメントシステムとして導入することで、経営理念の浸透を行っています。

また中立性をもったホーム提案ができるよう創業時から中立性を保つための仕組みを設けています。

特に、コーディネーターの評価軸のメインは、売上ではなく成約件数「スマイル数」で行っています。

仮に富裕層の方を担当しても、経済的に困難な方を担当し入居に至っても、すべてのケースを平等に評価しすべての方々に最適なマッチングを提供しています。

株式会社笑美面 2024年10月期 第1四半期決算説明資料 より引用

笑美面の成長戦略

事業成長の広がりによって生み出す社会像

当社は「介護家族が心の介護に向き合い、高齢者が笑顔でいる社会」を創出するため、介護家族にとってホーム介護の利用がポジティブ/当たり前になっている状態を中間ゴールとして目指しています。

株式会社笑美面 2024年10月期 第1四半期決算説明資料 より引用

1000億円を超えるマーケットポテンシャル

現在(2022年10月時点)、市場規模は約1085億円と見積もっています。

これはシニアホームの入れ替わり率を基に計算しており、業界平均の手数料を基準にしたものですが、当社の手数料は業界平均よりも高いため、実際の市場規模はこれよりも大きいと考えています。

さらにTotal Addressable Market(TAM)としては、まだまだ市場には拡大の余地があると考えています。

株式会社笑美面 2024年10月期 第1四半期決算説明資料 より引用

シニアライフサポート事業:主要マーケットエリアの深耕

現状、東京では76%、大阪では80%の病院が当社のサービス利用の実績があります。

しかしすべての紹介パートナーにアクセスできていない病院も多く、更なるシェア拡大余地は大きいと考えています。

そのため、まずは既存地域でのサービスの深耕を図り確固たる地位を築いて参ります。

具体的にはコーディネーター採用を進め、既存のMSWの同僚に当社のサービスを紹介いただくことで、シェア拡大を目指していきます。

現在の地域でのシェアを高めた後に、新たなエリアへの展開を行っていきます。

株式会社笑美面 2024年10月期 第1四半期決算説明資料 より引用

ケアプライム事業:プラットフォームサイト登録ホーム数の拡大

2023年2月から案内を始めたプラットフォームサイトの更なる拡大とマネタイズ化を目指します。

現在、当社とシニアライフサポート事業で契約しているシニアホームの約9,000棟のうち、約6,000棟が当社のプラットフォームに登録してくれています。

このプラットフォームの目的は、サービスの質を向上させるための有益な情報をシニアホームに提供するものです。

株式会社笑美面 2024年10月期 第1四半期決算説明資料 より引用

これにはシニアホームのためだけではなくもう一つの側面があります。

それは、シニアホーム向けの新しいプロダクトを開発しているメーカーに対する、新しい販売経路の提供です。

介護関連プロダクトやサービスは、大手ベンチャーを含む多数の企業が参入している成長産業ですが、現状では商品が十分に売れていません。

シニアホームの運営会社は小規模事業者が多く、従来のウェブマーケティングや展示会では効果が限定的で、実際の売上に結びついていません。

また、シニアホームへの営業活動は現場と運営が分離していることもあり、非常に難しいのが現状です。

そこで我々のプラットフォームを用いることで市場の潜在的なニーズと顕在的なニーズの両方を満たすことができます。

シニアホームへはサービスの向上を、シニアホーム向け製品のメーカーには販売チャネルを提供することができ両者に対してより良い価値を提供することができると考えています。

株式会社笑美面 2024年10月期 第1四半期決算説明資料 より引用

注目していただきたいポイント

日本で初めてのインパクトIPOを実現した企業という点に注目していただきたいです。

昨今のトレンドとして、単に利益を追求するだけではなく、持続可能な開発目標(SDGs)や社会全体の豊かさを目指す価値観が重視されていますが、私は創業当時から「社会にポジティブな影響を与える」ことは経営として当たり前にやるべきことだと考え進めてきました。

当社は社会課題に対して、ビジネスを通じて財務的なリターンと社会的なインパクトの両方を達成することが可能です。

また、当社は日本市場において数少ないブルーオーシャンの成長産業で独自のポジションを築いており、業界においても稀有な存在です。

このような独自のポジションで、長期的な成長ポテンシャルと、持続可能な社会への貢献をしていく当社の事業に期待していただきたいと考えています。

株式会社笑美面 2024年10月期 第1四半期決算説明資料 より引用

投資家の皆様へメッセージ

我々は社会的価値を追求し正しいマーケットと戦略を進めていくことで、企業価値を高めることができると信じています。

高齢者が笑顔で居る未来を実現するためにも、着実に事業を成長させていきますので、その過程を是非ご注目いただきたいと思います。

投資家の皆様には長期的な目線でのご支援をよろしくお願いいたします。

株式会社笑美面

本社所在地:大阪府大阪市西区京町堀一丁目8番33号

設立:2010年9月8日

資本金:267,069,700円(2024年3月時点)

上場市場:東証グロース市場 (2023年10月26日上場)

証券コード:9237

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「わたしのIFA」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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