【143A】イシン株式会社 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年8月6日に実施したIRインタビューをもとにしております。

イシン株式会社は地方創生とオープンイノベーション、スタートアップ振興を推進する革新的なプラットフォームを創出し、社会課題の解決と持続可能な社会の実現を目指しています。

代表取締役社長の片岡 聡氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

イシン株式会社を一言で言うと

社会課題を事業を通じて解決する企業です。

イシンの沿革

イシン株式会社代表取締役社長 片岡 聡氏

創業経緯

イシンは、1999年に創業者の明石が学生団体として活動を始めたことがきっかけです。

当時の日本社会では、起業やベンチャー企業というものが「よくわからないもの」として捉えられていました。

「ベンチャー通信」は起業家たちに直接取材し、起業家としての生き方や成し遂げたいことを記事にして伝えることで、ベンチャー企業や起業家の魅力を広めていこうというコンセプトの雑誌です。

その後、2005年に法人化し、「ベンチャー通信」を中心に事業を始めました。

ベンチャー企業には採用の観点からも、就職活動中の大学生に知って欲しいというニーズがあったので、企業からの広告収入を基盤にしたビジネスモデルを確立させました。

事業の多角化

私は2013年に入社しましたが、当時のベンチャー・スタートアップ振興をテーマにした現在のメディアPR事業の拡大はもちろんのこと、今後、さらなる成長を目指すためには新しい事業分野への挑戦が必要だと感じ、多くのビジネスを開始していきました。

そして、2014年に「地方創生」をテーマにしたメディア「自治体通信」を立ち上げ、自治体と民間企業の出会いを創出する公民共創事業を始めました。

さらに、2015年からはアメリカに現地法人を設立し、日系大手企業のオープンイノベーションを支援するグローバルイノベーション事業を始めました。

これらの事業が当社の成長を牽引し、2024年3月に東証グロース市場に上場を果たしました。

イシン株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

イシンの事業概要と特徴

概要

現在、イシンは3つの事業領域に注力しています。

イシン株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

まず、公民共創事業です。

「自治体通信」を通じて地方自治体と民間企業を繋ぎ、地域経済の活性化や課題解決に取り組むためのプラットフォーム作りを行っています。

具体的には、自治体向けに民間企業のサービスをメディアやテレマーケティング、Web上でのプラットフォームを通じてご紹介する事業を展開しています。

イシン株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

次にグローバルイノベーション事業です。

日系大手企業がスタートアップとの協業や出資を検討されている場合に、世界中のスタートアップ企業情報や日本の大企業のオープンイノベーションの取り組みを紹介し、スタートアップのマッチングの機会創出を目的とした協業支援を行っています。

イシン株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

最後に、メディアPR事業です。

ベンチャー企業など、成長企業のブランディングや採用支援を行っています。

創業以来培ってきたノウハウを活かし、「ベンチャー通信」などのメディア媒体を通じて企業の認知度向上に貢献しています。

イシン株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

事業における優位性

独自の事業展開モデル:MSPモデル

イシンの強みは、事業開発における独自の展開モデルであるMSP(メディア・ソリューション・プラットフォーム)モデルにあります。

特定の市場や業界に特化したメディアを展開し、メディアで得たその業界の情報やニーズを発掘し、クライアント企業に対するソリューションを提供しています。

そして、最終的には利益率の高いプラットフォームへ昇華させることで持続可能なビジネスを構築しています。

社内に制作人材を保有しているため、メディアに低コストで参入することができ、ビジネスを始める上でのリスクが非常に低いことが特徴です。

そして、メディアへの広告掲載を通じて顧客開拓を行い、収益基盤を構築します。

また、広告掲載を通じて得た新たな課題やニーズに対して、あらゆる角度からソリューションを提供し、取引拡大を実現しています。

各メディアでは主に取材記事を掲載するため、その業界のキーマンとなるような人物との繋がりもできます。

そのため、業界全体が抱えている課題やニーズを発掘することができます。

イシン株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

実際に「自治体通信」を拡大していく際には、取材を通して官公庁や地方自治体の首長や行政担当者の取材を通じて、本質的な課題を見つけ、そこで得た情報がプラットフォームを構築する上で非常に役立ちました。

イシン株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

このように、独自のノウハウと着眼点で新たなメディアを構築し、ソリューションを提供しながら、ストック収益を生むプラットフォームに成長させるという「MSPモデル」が当社の独自の事業展開モデルであり、強みです。

イシン株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

収益モデル:プラットフォームを中心とした安定基盤

当社の収益構造は、メディア、ソリューション、プラットフォームでそれぞれ異なります。

まず、メディアでは最初の雑誌掲載時に初期費用をいただき、記事の掲載料を掲載期間に応じていただきます。

プラットフォームでは最初の納品時に初期費用をいただき、その後の提供期間に応じて月額利用料をいただきます。

このように初期費用としてのスポット売上に限らず、ストック売上を積み上げていくモデルを採用しているため、安定した収益基盤を確保しています。

イシン株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

2024年3月期のストック売上は約60%を占め、全社売上総利益の約47%がプラットフォームから生み出された売上です。

イシン株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

イシンの成長戦略

市場規模と成長余地

社会トランスフォーメーションに係る市場機会は約1兆円と巨大なマーケットです。

現在ターゲットとしている市場は約1,000億円規模ですが、中でも公民共創事業のターゲット市場は約600億円とポテンシャルが高い成長領域です。

イシン株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

自治体におけるDX化ニーズは年々高まっています。

自治体職員の減少や社会ニーズの多様化に対応していくために、業務を効率化していく必要を各自治体が実感しています。

イシン株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

そのような高いニーズに対して、当社は早期よりBtoG(Business to Government)に特化したプラットフォームを構築し、各ニーズに応じたさまざまなソリューションを提供しているため、参入障壁の高い業界での独自のポジションを確立しています。

イシン株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

また、グローバルイノベーション事業とメディアPR事業の外部環境も追い風です。

イシン株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

現在、大手企業の変革と新興企業の成長は、日本経済成長にむけた重要なテーマとなっており、政府主導でのスタートアップ支援も強化されています。

このような良好な事業環境を鑑みて、今後も安定して事業を拡大できると期待しています。

イシン株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

売上成長の最大化

成長領域である公民共創事業においては、BtoGマーケティング市場自体がまだ形成期にあり、売上成長のポテンシャルは十分にあると認識しています。

そのため、公民共創事業をBtoGマーケティング領域におけるリーディングカンパニーへと成長させることが目標です。

特に、ソリューション及びプラットフォームの売上・社数の最大化を図ってまいりたいと考えております。現在、元自治体職員の採用も含めた組織強化を図っており、自治体や民間企業とのリレーションをさらに構築していきたいと考えています。

また、グローバルイノベーション事業やメディアPR事業は安定したストック売上が基盤となっており、安定成長事業として高い収益性を重視してまいります。

イシン株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

中長期的には、当社の各サービスの付加価値を高め、プラットフォームの利用を促進させ、LTV(顧客生涯価値)を伸ばしていきたいと考えています。

イシン株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

ソリューション開発・新領域の市場開拓

既存領域においてはMSPのうち特にソリューションの深掘りを考えています。ソリューションは新しいビジネスチャンスの発掘にもつながることから、クライアントの様々な課題に向き合っていきたいと思います。

たとえば、公民共創事業においては現在展開しているBtoG営業支援サービスのラインナップの拡充、メディアPR事業ではベンチャー企業における新たなHR関連サービス検討などが挙げられます。

また既存の3つの領域だけでなく、MSPモデルを活用した第4の新規領域開発も進めていきたいと考えています。

イシン株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

継続的な収益性の向上

継続的な収益性向上のためには、最適な投資と販管費のコントロールが必要です。

従業員が100名規模となり、上場準備を数年にわたり進めてきたため、コーポレート部門について強固な基盤を築きました。

また、公民共創事業における増員が売上拡大のエンジンとなりますが、その増員に伴い販管費も増加します。

そのため、一人当たりの生産性をモニタリングし、適切にコントロールしながら、収益性が担保されると判断した場合には積極的に増員していく方針です。

今後は社員一人一人の生産性を高め、より筋肉質な体制を目指していきます。

イシン株式会社 2024年6月28日 事業計画及び成長可能性に関する事項 より引用

注目していただきたいポイント

公民共創事業に取り組むことは、社会的な意味合いも強いと考えています。

日本各地の活力を呼び起こすためには、単にデジタル技術だけでは一気に解決できません。

自治体には、地域ごとのビジョンに沿った戦略立案だけではなく、地域企業・団体、そして地域住民を巻き込んだ力強い実行が求められています。

そのプロセスにおいては、他地域での成功事例や具体的に課題解決を支援した企業・サービスの情報がとても重要になります。

当社では単なるDX化サービスの紹介ではなく、自治体ごとの課題背景や地域事情を考慮しながら本質的なDX化を実現していく民間企業を紹介しています。

 また、当社は単一事業で大きく成長するというよりも、さまざまな社会課題にアンテナを張りながら、社会にとって必要な仕組みを開発していくことが使命だと考えています。

新たな領域開発も含め、今後の事業展開にご注目いただければと思います。

投資家の皆様へメッセージ

イシンは20年間にわたり、堅実に成長を遂げてきました。

私たちはさらなる飛躍を目指しています。

既存事業の深化と新規領域への挑戦を通じて、投資家の皆様の期待に応えられるよう、企業価値を高めていく所存です。

地方創生やイノベーションの推進といった取り組みは、地域社会やグローバル市場に対して発展をもたらし、私たちが企業として果たすべき重要な使命です。

イシンの今後にご期待いただき、温かいご支援のほどよろしくお願いいたします。

イシン株式会社

本社所在地:〒160-0022 東京都新宿区新宿6-28-7 新宿イーストコート7F

設立:2005年4月1日

資本金:163,746千円(2024年5月末時点)

上場市場:東証グロース市場(2024年3月25日上場)

証券コード:143A

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「わたしのIFA」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

目次