【6149】株式会社小田原エンジニアリング 事業概要と成長戦略に関するIRインタビュー

※本コラムは2024年12月17日に実施したIRインタビューをもとにしております。

株式会社小田原エンジニアリングは「開拓の精神で顧客に奉仕する」をモットーに、世界一の巻線機メーカーを目指します。

代表取締役社長の保科 雅彦氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。

目次

株式会社小田原エンジニアリングを一言で言うと

「開拓の精神で顧客に奉仕する」会社です。

小田原エンジニアリングの沿革

株式会社小田原エンジニアリング代表取締役社長 保科 雅彦氏

創業の経緯

当社の設立は1979年にさかのぼりますが、その起源は1950年に技術者の兄弟2人による「小田原鉄工所」の創業が始まりです。

当時、自動機(オートメーション装置)や省力化機械の製造を目的に事業を展開し、ベアリング研磨機や近隣の富士フィルムに省力機械を提供していました。

1950年代はテレビが普及し始めた時代でもあり、ブラウン管露光台やその他の自動機を開発し、多くの企業からの引き合いを受けました。

また、日本が高度経済成長期に入る中で、家電製品の需要が急速に拡大していました。

家電の心臓部であるモーターの重要性が高まる中、当時の国内大手家電メーカー(日立、東芝、三菱、松下電器など)は製造ラインを海外から輸入して製品を製造していましたが、国産化の必要性が増していました。

このような背景から、1958年にモーター生産設備の一部である絶縁紙挿入機を開発・販売し始め、1966年にはアメリカのポジス社、1972年にはドイツのスタットマット社と技術提携を結び、海外の先端技術を取り入れつつ、家電や電動工具をはじめとした産業機器等のモーター巻線設備メーカーとして成長を遂げました。

1971年にはモーター巻線設備を主とした自動機を扱う「電装事業部」とバス整理券発券機・両替機を扱う「機器事業部」の2部門に分かれ、1979年に機器事業部は「小田原機器」、電装事業部は「小田原エンジニアリング」として分離独立し、新たな出発を果たしました。

1979年には世界初の冷蔵庫コンプレッサーモーター用の全自動巻線ラインシステムを開発、納入し、「全自動ラインシステムの小田原」としての地位を確立しました。

OA機器やAV機器の普及

1980年代は高度経済成長が一段落し、設備投資が停滞する厳しい時期でした。

しかしその後、パソコンなどのOA機器やAV機器の需要が急増したことで、HDD、FDD、ラジカセやビデオテープレコーダー等のモーター関連設備の受注が拡大し、当社の成長に貢献しました。

また、1988年のソウルオリンピックを契機に、韓国の大手企業(サムスン、LG、大宇電子など)が家電製品の生産を拡大し、当社は欧米メーカーとの競争を通じて技術力を磨き、新たな市場への展開を進めました。

自動車業界への参入

家電製品やOA機器向けのモーター生産設備を提供してきましたが、大きな事業転換点となったのがハイブリッド車と電気自動車(EV)の普及です。

1997年、世界初のハイブリッドカー(HEV)に使用される発電機・駆動モーター用巻線設備を当社が納入したことがきっかけとなり、国内外の主要自動車メーカー向けに発電機・駆動モーター巻線設備を供給していきました。

現在では海外のHEV・EVメーカーにも当社の設備が採用されています。

また、欧州のEV市場の成長に対応するため、2017年にはドイツ・ミュンヘンに現地法人を設立し、2023年には中国市場への対応として広東省に現地法人を設立し、グローバル展開をさらに強化しました。

株式会社小田原エンジニアリング より引用

小田原エンジニアリングの事業概要と特徴

概要

当社は、巻線機セグメントと送風機・住設関連セグメントの2つの事業を展開しています。

巻線機セグメントでは、モーター・コイル用巻線設備の「開発・設計・製造・販売」を手掛けています。

モーターは、自動車や家電製品、産業機器、医療機器、さらにはOA/AV機器など、幅広い分野で活用されており、そのモーター性能の鍵を握る「コア」に銅線を巻き付ける巻線機を中心とした生産設備を提供しています。

株式会社小田原エンジニアリング より引用

モーターのサイズは、小さいもので1cm未満、大きいもので30cm程度と30倍の差があるため、設備の大きさもさまざまです。

小型設備は高さ1m以下のものもあれば、大型設備では高さ3.5m、巻線ラインシステムでは

全長100mを超えるものもあります。

設備の価格も規模に応じて幅があり、小型設備では数百万円台、大型設備では1台で2億円、全自動ラインでは3億円以上に達します。

特に電気自動車やハイブリッドカー向けの発電機・駆動モーター用巻線設備では、案件規模が15億〜30億円に及ぶこともあります。

株式会社小田原エンジニアリング より引用

送風機・住設関連セグメントは、事業多角化の一環としてローヤル電機株式会社を買収したことにより拡大した事業です。

このセグメントでは、工作機械や産業機械向けの送風機、浴室用照明器具、住宅およびビル向けの換気関連製品の製造・販売を行っています。

これらの製品は、幅広い分野で使用され、産業界や日常生活において重要な役割を果たしています。

事業における優位性

単体機から巻線ラインシステムまでオーダーメイドで開発

当社は、日本のお客様の成長とともに技術を磨き続け、さまざまなニーズに応えてきました。

日本の電機メーカーが世界トップクラスの地位を築く過程で、当社の設備や技術提案が重要な役割を果たしました。

特にバブル時代には、日本や韓国の電機メーカーにモーター製品設計段階から新しい技術を提案し、技術開発の支援と設備の提供を通じて双方の成長に貢献しています。

現在、省力化を目的とした全自動ラインシステムが注目されていますが、当社はすでに50年以上前から全自動ラインシステムの開発に取り組んできました。

また、日本の家電メーカーの設備投資が30年ほど前に停滞した一方で、当社は韓国や中国の成長期に合わせて設備を供給し、完全受注生産を通じてお客様のニーズに最適化された新製品を提供する力を培ってきました。

当社の社是である「開拓の精神で顧客に奉仕する」を体現する開発型の企業文化は、他社との差別化や競争優位性を生む源泉となっています。

株式会社小田原エンジニアリング より引用

また、現在の円安は当社の競争力をさらに後押ししています。

円安以前は、当社の機械が「世界で最も高価」と評価される一方、高い技術力を背景に「世界一差別化された製品」を提供してきました。

標準的な機械を提供する競合メーカーとは異なり、当社はオーダーメイド製品を手掛け、国内外の多くのお客様に選ばれています。

たとえば、家電メーカー向けの掃除機用モーターの生産設備では、日本のメーカーが使用している機械はすべて当社製です。

生産能力やニーズが各企業で異なるため、当社はお客様ごとにカスタマイズした提案を行っています。

この柔軟な対応力こそが、他の競合メーカーとの差別化のポイントです。

株式会社小田原エンジニアリング より引用

小田原エンジニアリングの成長戦略

市場環境を意識した成長戦略

私たちのお客様は、時代の変化とともに常に移り変わっています。

かつては国内の家電やモーターメーカーが主なお客様でしたが、現在では家電市場の中心が中国へと移り、日本の約10倍の規模にまで拡大し、一方ではラジカセやビデオテープレコーダー等の市場は無くなっています。

たとえば、日本では年間約1,000万台のエアコンが販売されますが、中国では1社だけで年間5,000万〜6,000万台を生産している会社もあります。

このような市場環境の変化に適切に対応することが、当社にとって重要です。

そのため、変わりゆく、新しい市場に迅速かつ柔軟に対応する姿勢が求められます。

また、直近では日・米・欧州の自動車販売の頭打ちもあって自動車関連のモーター設備投資は停滞していますが、xEVや「全自動運転」をはじめとした「車の電動化」に不可欠なモーターの設備投資は次期型の自動車とともに増加することが見込まれます。

それらを見据え、当社では差別化できる製品の開発に注力しています。

さらに、当社は長年オーダーメイド製品を基本としてきましたが、グローバル展開を進める上で標準化された製品の開発が重要となっています。

標準化により納期や価格面での競争力を高め、グローバル市場での販路拡大を目指しています。

株式会社小田原エンジニアリング 「中期経営計画 FY2024 ~ FY2026」 より引用

投資戦略

今後の成長を実現する上で、投資は欠かせません。

その中でも最大の投資案件は、長岡工場の生産能力増強です。

2025年夏頃に竣工予定の長岡工場は、完成後、当社で最も大きな工場となります。

モーター巻線機の設備は全て手作業で組み立てますが、エンジンの代わりとなる駆動モーターは大きいため、巻線設備やラインシステムも大きくなるため、対応できる工場スペースが不可欠です。

一方、加工部品の約9割を協力会社から調達しているため、すべてを内製化するのではなく、外部との連携を円滑に進める体制を整えることが重要だと考えています。

この協力体制を通じて、生産効率と品質の両方を最大化していきます。

また、研究開発への投資も当社の成長戦略の柱です。

従来はお客様からの問い合わせを受ける形が多かったのですが、現在ではグローバル市場での競争力を高めるため、マーケティングによる標準化と開発力の強化に重点を置いています。

株式会社小田原エンジニアリング 「中期経営計画 FY2024 ~ FY2026」 より引用

この取り組みを通じて、新たな市場開拓と技術革新を実現していきます。

さらに、製品の品質向上や加工部品の精度向上にも積極的に投資を行っています。

これらの取り組みは、当社の競争力をさらに強化し、グローバル市場での地位を確立するための基盤となります。

注目していただきたいポイント

当社が取り扱う案件や技術のほとんどが顧客の機密情報に該当するため、IRや会社説明会の場で投資家の皆様が最も関心を寄せるポイントについて十分にお話しできないことがあります。

顧客の開発や生産設備に関わる上で機密情報を守ることで大きな信頼関係を築いています。

そうしたことも含めて、当社の最大の強みは、世界のトップクラス企業との取引実績にあります。

電機メーカー、自動車メーカー、自動車部品メーカーなど、要求水準の高いお客様に対し、積極的に提案を行い、確かな信頼関係を構築してきました。

ただし、これらのお客様の投資計画や市場動向に大きく影響を受けることも事実です。

また、検収タイミングの違いによって、売上や利益が期ごとに大きく変動する場合があります。

さらに、当社が属する分野では、市場の見方と実際の状況が大きく異なることがあります。

たとえば、自動車の生産台数が増加しても、それ以前に設備投資が完了している場合、新たな需要が発生しないケースもあります。

当社の設備は量産が始まる前の段階で納入されることやモデルチェンジや新製品が発売されてもモーターが変わらないこともあり、逆にモーターが新設計のものとなって設備投資がある場合もあるため、自動車の販売状況と設備需要が必ずしも一致しません。

こうした背景を踏まえ、当社の業績や価値については、短期的な変動に捉われず、長期的な視点で評価していただけると幸いです。

株式会社小田原エンジニアリング 「中期経営計画 FY2024 ~ FY2026」 より引用

投資家の皆様へメッセージ

今期から配当性向を公開し始めました。

これにより、当社の収益性と株主還元方針について、より透明性をもってお示しできるようになったと考えています。

今後も、利益の増加を目指し、配当を増やし、投資家の皆様に還元してまいります。

株式会社小田原エンジニアリング 「中期経営計画 FY2024 ~ FY2026」 より引用

当社は、電機メーカー、自動車メーカー、自動車部品メーカーなど、多岐にわたる業種のお客様とお取引させていただいています。

高い技術力と柔軟な対応力を活かし、お客様の課題を解決する新たな提案を積極的に行い、持続可能な成長を実現し、皆様のご期待に応えていきます。

今後とも、当社の事業活動と成長にご支援とご期待を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

株式会社小田原エンジニアリング

本社所在地:〒258-0003 神奈川県足柄上郡松田町松田惣領1577番地

設立:1979年10月15日

資本金:1,250,816,000円(2024年12月アクセス時点)

上場市場:東証スタンダード市場(1991年7月29日上場)

証券コード:6149

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。投資家とIFA(資産アドバイザー)とのマッチングサイト「資産運用ナビ」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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