※本コラムは2024年12月19日に実施したIRインタビューをもとにしております。
不二電機工業株式会社は電気制御機器メーカーとして、品質にこだわった製品を作り上げ、社会インフラを支えています。
代表取締役社長の八木 達史氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
不二電機工業株式会社を一言で言うと
真面目にコツコツと品質にこだわった製品を作り上げ、社会インフラを支える「黒子」です。
不二電機工業の沿革
創業の経緯
当社の創業は1953年、戦後日本が復興を目指して立ち上がろうとしていた時代に始まりました。
創業者の藤本和夫氏は、戦争の爪痕が色濃く残る中、友人たちが戦争で命を落とし、大きな怪我を負った現実を目の当たりにし、「戦争を生き延びた者として、社会に貢献しなければならない」という強い使命感を抱き、起業を決意しました。
創業者はもともと採鉱冶金学を専攻し、卒業後は炭鉱で働いていました。
当時は、ポンプや巻き上げ機などを制御する制御盤が故障すると、どの部品が問題なのか、どこで修理すればよいのか分からない状況が続き、多くの現場で困難が生じていました。
この課題を解決したいという強い思いが、電気部品製造を手掛けるきっかけとなりました。
品質管理とコスト削減の実現
当社の成長を支えたのは、2つの大きな課題を克服したことにあります。
まず1つ目の課題が品質管理です。
当時、一般的には電気パーツの絶縁部分にベークライト(熱硬化性樹脂)という材料が使われていましたが、この材料は品質が不安定で、製品にばらつきが生じていました。
そこで、私たちは新たにノリル樹脂(熱可塑性樹脂)を採用し、製品の安定性を飛躍的に向上させることに成功しました。
この取り組みにより、品質への信頼を確立しました。
2つ目の課題がコスト削減です。
競争力を高めるために、製品の組み立て工程において、高い品質を保ちながらコストを抑えることが求められていました。
創業者がドイツの電気部品工場を視察した際、女性たちが談笑しながら効率的に組み立て作業をしている光景を目にしました。
その工場では、部品が特定の方向にしかはまらない設計となっており、まるでプラモデルを組み立てるように簡単に作業が進む仕組みになっていました。
この革新的なアイデアを取り入れ、当社も「プラモデル式生産システム」を採用するために、従来の金型をすべて廃棄し、組み立てが簡単で高品質を実現できる設計へと全面的に刷新しました。
当時(1969年)の年商約3億円に対し、5億円もの大規模な投資を行い、新しい生産システムを導入しました。
この挑戦により、生産効率が飛躍的に向上し、当社製品はより多くのお客様に支持されるようになりました。
現在でもこの「プラモデル式生産システム」は当社の強みとなっており、品質の安定とコスト削減の両立を実現し続けています。
不二電機工業の事業概要と特徴
概要
当社は、電気制御機器の専業メーカーとして、電力・重電機器市場向けに制御用開閉器、接続機器、表示灯・表示器、および電子応用機器を提供しています。
私たちの製品は、発電所や変電所などの電力施設、公共施設、商業施設、さらには各企業の工場で、電気を使用する際に欠かせない制御部品として活用されています。
また、鉄道車両分野では、車両に取り付けられる尾灯、扉が開いた際に車掌が確認する車側灯、扉開閉のための車掌スイッチなど、多岐にわたる製品を提供しています。
事業における優位性
直接販売体制による顧客密着
当社は代理店を通さず、直接お客様に製品をお届けする「直販体制」を採用しています。
この体制により、お客様の意見や要望をダイレクトに受け取ることが可能であり、中には厳しいご指摘をいただくこともあります。
しかし、それらを品質や機能面に反映することで、より良い製品づくりを実現しています。
この直販体制は、単に製品を販売するだけではなく、お客様の具体的なニーズを深く把握し、次の製品開発にも活かされているのです。
営業担当者はお客様視点に立った提案を行い、取引先との信頼関係を築いています。
技術力の高さ
近年、企業間競争が激化し、新製品の開発サイクルが短縮される中、当社は直販体制を活用してお客様のニーズを迅速に汲み取り、製品開発へ反映しています。
この体制により、特定のお客様向けに開発した製品を他のお客様にも展開できるケースが多く、結果として開発コストを最小限に抑えながら広範囲な市場への製品展開を可能としています。
また、新製品開発にとどまらず、自動製造ラインの開発や改良にも積極的に取り組み、生産性のさらなる向上を目指しています。
このように、高い技術力と効率性を兼ね備えたアプローチが、当社の競争優位性を支えています。
高品質とローコストを実現する生産体制
当社は、「プラモデル式生産システム」に加え、自動製造ラインを導入することで、製品のコスト低減、標準化、そして均一化を実現しています。
また、当社が製造するスイッチは、接触不良が致命的な問題となるため、製造過程で異物の混入を徹底的に防ぐ必要があります。
このため、当社のみなみ草津工場にはクリーンルームを設け、異物が入り込まない環境で製造を行っています。
このように、製造環境にもこだわり、高い品質を維持する生産体制を構築しています。
不二電機工業の成長戦略
電力・重電機器市場の深耕
当社は主に電力会社や受電設備を持つ公共施設を中心に事業を展開しており、日本国内ではインフラがほぼ整備されていることから、設備の更新が主な需要となっています。
しかし、昨今の労働人口減少により、インフラ運営が今後ますます困難になると予想され、当社が持続的な成長を目指すためには、従来の製品に加え、省力化・省人化に寄与する新しいシステムの提供が不可欠です。
たとえば、保守点検の際に人が現場に赴く必要がないよう、IoT技術を活用して現場の状況をセンシングし、上位システムに情報を伝送する制御機器の開発に注力しています。
こうしたデジタル技術を活用した製品により、お客様の省力化ニーズに応え、さらなる売上拡大を目指しています。
また、国内市場における更新需要への対応だけでなく、海外市場の拡大も視野に入れています。
特に新興国では電力インフラの整備が進められており、新たな設備投資が活発に行われています。
加えて、海外では最新システムが一足飛びで導入されるケースが多く、新技術を活用した製品の提供が求められています。
日本企業が手掛けた海外のインフラ設備の更新需要にも対応しつつ、新興国のインフラ構築に貢献したいと考えています。
当社は「メイド・イン・ジャパン」にこだわっており、今後も国内で生産した高品質な製品を輸出する方針です。
鉄道車両市場の拡大
鉄道車両市場は、まだシェア拡大の余地が大きい分野と捉えています。
当社がこの市場に参入したのは1992年であり、まだ30年程度の歴史しかありません。
鉄道分野は安心・安全が重視される点で、電力市場と共通する部分が多く、これまで培ってきた技術を活用して参入しました。
当社の製品は保守点検の手間を削減する特徴を持っており、既存車両の部品を当社製品に置き換える形でシェアを拡大しています。
参入当初は、品質に対する高い要求や参入障壁の高さに直面しましたが、ここ10年でようやく新規に製造される車両にも多く採用いただける機会が増えており、ブランドとしての認知も進んできました。
コロナ禍による人流減少の影響で新規導入計画やメンテナンス予算が縮小し、一時的に市場が停滞しましたが、現在は新たな案件の話も増えつつあります。
コロナ禍からの回復後、当社は積極的にさらなるシェア獲得に取り組んでいます。
注目していただきたいポイント
当社は、いわば「黒子」のような企業です。
電力設備においては専門的な知識を持つ方々が利用する機器が中心であり、一般の方々が私たちの製品を直接目にする機会はほとんどありません。
そのため、企業としての認知度は低いかもしれません。
しかし、当社には戦後日本の社会インフラを支えてきたという自負があります。
当社は電気制御機器メーカーとして、「品質」を最重要視しています。
その理念を象徴するのが「品質は一番たしかなセールスマン」という永久標語です。
品質が高ければお客様に安心して使用していただける場面が増え、それが信頼と次の受注につながります。
これは当社製品が選ばれるために最も重要な要素であり、社会インフラの一翼を担うメーカーとしての責務だと考えています。
目立たない存在ではありますが、地道な努力と高品質へのこだわりが、当社の成長を支えています。
この機会に、当社の理念や取り組みを少しでも知っていただければ幸いです。
投資家の皆様へメッセージ
創業から72年の歳月が経ちました。
当社は、創業者が大切にしてきた「顧客に愛される企業づくり」「人を大切にする企業風土」という理念を基盤に、社会インフラを支える企業としてお客様と真摯に向き合い、着実な経営を続けてまいりました。
現在、デジタル化や人手不足といった社会の大きな変化が急速に進んでいますが、当社は創業者の「焦らず、無理せず、背伸びせず」という信念を大切に堅実なものづくりを続けながら、新しい挑戦にも果敢に取り組み、さらなる成長を目指してまいります。
今後とも、変わらぬご支援とご愛顧を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
不二電機工業株式会社
本社所在地:〒604-0954 京都市中京区御池通富小路西入る東八幡町585番地
設立:1958年5月20日
資本金:1,087,250,000円(2024年1月末時点)
上場市場:東証スタンダード市場(1994年6月23日上場)
証券コード:6654