※本コラムは2024年5月10日に実施したIRインタビューをもとにしております。
日本高純度化学株式会社は少数精鋭でファインケミカルとエレクトロニクスの架け橋として、独創的な製品でグローバルに社会貢献していく会社です。
2030年にRedox技術を電池材料にすることを目標に、めっきで培った酸化還元の技術で付加価値を創造していきます。
代表取締役社長の小島 智敬氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
日本高純度化学株式会社を一言で言うと
化学の好奇心でエレクトロニクスに役立つ会社です。
日本高純度化学の沿革
創業の経緯
当社は1971年7月に数人で始まったオーナー系企業で、創業者は技術畑の出身です。
高度経済成長期とパソコンブームの波に乗り、従業員数は徐々に増加しました。
私が入社したのは1996年、Windows 95が発売されたデジタルブームの真っ只中でした。
当時、創業者が高齢だったため事業継承の話が持ち上がり、ライバル企業に売却するという案も出ていました。
そのような中で、1999年に経営陣が株を買い取り、日本で初めてのMBOを実施しました。
その後2008年のリーマンショックまでは、パソコン・ノートPC・携帯電話・」デジカメ等のデジタル機器が普及し、我々の事業もその恩恵を受けながら事業が成長してきました。
市場動向の変化と上場
事業成長を続け2002年12月にJASDAQ市場(現 スタンダード市場)に上場しました。
しかし2008年のリーマンショックの前後でスマホが普及しPCやデジカメなどでやっていたことがオールインワンのようにスマホでできるようになったことや、微細化・小型化の影響もあり、めっきする箇所も薄く小さくなり、我々の提供する金めっき液や銀めっき液の需要は若干伸び悩みました。
しかし創業時より人・モノ・カネの投入規模を他社と競合するような領域ではなく、高収益を上げられるビジネスモデルの構築に力を入れてきたことで安定した収益性を維持しました。
当社は大量生産することで費用を圧縮する一般的な製造業とは異なり、貴金属めっき工程というニッチな分野にターゲットを絞っていたため、収益性の高い製品群を実現しました。
そのように安定的に収益を生み続け、2005年3月に少人数ながらも東証一部上場を果たし、現在は東証プライム市場に上場しています。
日本高純度化学の事業概要と特徴
概要
当社は貴金属めっき薬品に特化して事業を展開しています。
貴金属化成品メーカーと国内外の完成品メーカーの間に立ち、完全なファブレスとまではいきませんが、ファブライトのビジネスモデルです。
工程としてはまず完成品メーカーからの依頼で必要なレシピを我々が考案し、そのレシピに基づいて金属メーカーに加工を依頼し、そのスペックに合った材料を入手します。
同様に、化学薬品メーカーにも加工を依頼し、材料を調達しています。
製造に関しては、調剤薬局のような形態で運営しており、棚に並べられた薬品をレシピに基づいて調合した後、出荷します。
主要販売先は国内外に分かれており、国内の場合は直接取引、海外の場合は船便で商社を通じて委託販売しています。
このように本業は薬品の合成や新医薬品の開発ではなく、貴金属めっきに必要なスペックを満たす処方を考案し、そのレシピに基づいた薬品を材料メーカーから調達、調合して発送する、まさに調剤薬局のようなビジネスモデルです。
事業における優位性
選択と集中
当社はめっきの中でもエレクトロニクス分野に特化し、基板やコネクター、リードフレームの貴金属めっき工程に携わっています。
一般的に装飾めっきや工業用めっき等の種類があり、使われる薬品の種類は多岐にわたりますが、当社は専門性の高い領域に絞って事業を行っていることが特徴です。
実はめっきに関して専門的に学ぶことができる学術機関は少なく、基本的には当社に入社した後に学ぶことがほとんどです。
そのため、めっき分野かつ高い専門性を求められるエレクトロニクス分野に特化していることで、より専門的な人材を育成する必要があるため、理系の中でも好奇心を持って粘り強く物事に取り組む人材を採用しています。
そして従業員数は50名弱の少数精鋭で、年商100億円以上の売上を実現しています。
この選択と集中が当社の強みです。
スピード
少人数でありながら、ファブライトのビジネスモデルを活用し、高い機動性を発揮しています。
当社は営業部門・技術部門・製造部門・管理部門が1拠点で仕事しており、従業員数は50名弱と学校のクラスぐらいの人数で経営しています。
そのため、日常業務では常に顔を合わせるため、コミュニケーションもスムースですので、社内決定のスピードや問題発生時の対応等をスピード感を持って行うことができます。
そして先ほどもお話ししたように、専門性の高い人材が集まっているため、開発や製造の際には高速でPDCAを回すことが可能です。
この少数精鋭だからこそ実現されるスピーディな機動力と意思決定力が強みです。
フォーミュレーション
当社は日々新しいレシピを考案し、それを基に薬品を外注業者に製造してもらい、オーダーに応じて調合・出荷するような体制を整えています。
このようにめっき薬品の製造をフォーミュレーション業務に絞り、原材料等は外部から調達しているため、大規模なプラント等の施設を必要としていません。
そして、大量生産ではなく多品種少量生産に対応した高付加価値製品の提供を可能にしています。
日本高純度化学の成長戦略
既存分野の新規開拓
当社は3つの施策を掲げています。
まず、認知度の向上です。
新しいめっき方法を積極的に拡販活動しています。
例えば、従来は銅基板にニッケルめっきを施し、その上に金めっきしていましたが、新技術を用いて直接銅に金めっきを施す「DIG(direct immersion gold)」に置き換える提案を進めています。
この方法を広めるために展示会や技術学会に参加し、広告や雑誌を活用しながら認知度向上を図っています。
次に、環境対応型製品の開発です。
従来のめっき液にはシアン化合物が含まれていますが、この有毒な物質を使わないめっき液の開発に力を入れています。
2023年には、スタンプのように少量のめっき液を使用する新しい方法を発表しました。
最後に、トータルプロセスでの性能向上の提案です。
基板の前処理や後処理を含めたトータルソリューションを提供し、顧客製品の付加価値を高める取り組みを行っています。
攻守に活躍する設備投資
直近期では分析機器の刷新を行い、大きな設備投資をしました。
当社は技術が主体の会社なので、めっき液のレシピを開発するためには様々なレシピを試しながら、実際にめっきをしてみる必要があります。
そしてめっき後の品質を評価し、成分の消耗具合等を確認するために分析機器を使用しています。
この分析機器は、お客様へのアフターフォローにも役立っています。
例えば、お客様からめっきが剥がれた液体基板が送られてきた場合には、当社の分析機器で原因を特定し、改善策を提案することができます。
もちろん分析機器の中には数十年使えるものもありますが、半導体の微細化に対応するためには5〜10年ごとに新しい機器を導入し、継続的に最新技術を取り入れる必要があります。
昨年度も1億円規模の投資を行い、新たな機器を導入しました。
これは攻めの投資であると同時に守りの投資でもあり、当社の中期経営計画に基づいた方針です。
人材戦略
当社の中期経営計画は2030年を最終年度としています。
「RDD2030 Redox技術を電池材料に!!」というキャッチコピーで取り組んでいます。
めっき技術は電池の充電技術と類似しており、この技術を電池材料に応用することを目指しています。
これを達成するためには能動型自律人材の育成が重要です。
当社で求める人材の基準は3つあります。
「好奇心を持つこと」「粘り強くやり遂げること」そして「他者を巻き込むこと」です。
各部門では担当者がプレゼンを行い、部門毎に必要な人材の採用と育成を進めています。
また、評価制度も見直し、賞与や待遇を透明化しています。
この人材戦略は当社の少数精鋭を持続可能な体制にするためにも大切だと考えているので、今後も注力していく方針です。
注目していただきたいポイント
当社は50名弱の小さな会社ですが、「ファインケミカルとエレクトロニクスの架け橋となり、独創的な製品でグローバルに社会貢献する」というミッションを掲げています。
全てを自力で行うのは難しいため、M&Aを積極的に活用しながら進めていく方針です。
もちろん独自開発にも10〜30年かければ可能ですが、時代の流れを見据えて早期に知見やノウハウを活用するためにはM&A戦略が効果的だと考えています。
当社の自己資本比率は非常に高く、政策保有株もあるため、それらを原資に成長投資を行います。
是非、当社の成長投資とM&Aによる非連続な成長に注目していただければと思います。
投資家の皆様へメッセージ
2024年3月期の決算を4月24日に公表しましたが、同時に中期経営計画の修正も行っています。
我々は2023年7月に外部の専門家を交えて企業価値向上のための施策の継続検討と実行加速を目的としたCX向上会議を設け、金融庁が提唱する資本コストと株価を意識した経営の実現に向けて積極的に取り組んでいます。
また株主還元にも積極的に行っており、キャッシュリッチな財務状況を活かし、株主還元と成長投資を推進しています。
そして近年は電子産業が冷え込んでいますが、今後は電気自動車や航空宇宙産業が電子化され、電気通信デバイスのメモリやセンサーの需要が拡大し、今年度の下期以降から回復を見込んでいます。
投資家の皆様には当社の事業や成長戦略に期待していただき、ご支援いただければと思います。
日本高純度化学株式会社
本社所在地:〒179-0081 東京都練馬区北町三丁目10番18号
設立:1971年7月16日
資本金:12億8,319万円(2024年5月アクセス時点)
上場市場:東証プライム市場(2002年12月3日上場)
証券コード:4973